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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
3章 忍び寄る不穏な影

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25:インフィオという存在との出会い

 『百花繚乱』クランへ戻る中、裏で動いている組織を考えながらインフィオとの出会いを思い出していた。


 当時の俺は、各部門の中で調査部門だけは創設1ヶ月前まで決める事が出来ずに悩みに悩んでいた。


 盗賊の才能持ちでも調査部門としては成り立つ。だが、その性質を充分に満たせているとも言えなかったからだ。


 なにせ俺の考えていた調査範囲とは、町の噂レベル〜自国や他国の国家機密に至るまで、命じた範囲の内容を問題なく収集する者達の集まりだ。

 密偵、事実確認、場合によっては実力による介入も含めての調査部門。

 その特性故に、単独での活動を余儀なくされ、刻一刻(こくいっこく)と変わり続ける状況に唯一人で対応せざるを得ない。


 だから、少し諦めても居た。

 創設時にそんなに優秀な調査部門は置く事は出来ないだろう、と。

 一旦は所属団員の盗賊で全体的に情報を拾い集め、事実確認だけをさらっとする部門で良いじゃないか、と。


 だが、転機が訪れたのはそんな事を心の中で決めた直後。


 その時の俺は、やっと意思決定した事を喜びながらも、もやもやしながら、気持ちを落ち着かせようと自宅を出て人通りのない暗く静かな夜道をふらっと散歩をしていた。


 そんな時の月明かりの下での出会いだったな……


…………


 日が暮れ、月明りを頼りに人の気配のない薄暗い路地を歩き続ける。


 無意識に少し歩いていった先は真っ暗で、月明りすらほとんど差し込まないような路地が目の前に広がっていた。

 その奥でぼやっとしたシルエットが身じろぎした気配を感じ、少しだけ警戒しながら裏路地を進んでいく。


 その横を通り過ぎる時に、ちらっと横目に見やる。

 何故だろうか。


 その時に、とてつもなく、惹きつけられたのを感じ、思わず目を身体強化する。

 普段であれば何も気にせずに、すっ、と通り過ぎるのかもしれない。

 だが、その暗闇の中で儚く、そしてこのまま散りそうな気配に惹かれた。


 ちらと横目で見るつもりだったが、まじまじとそのまま立ち止まり見続けてしまう。


 そんな俺に静かな銀髪美人の彼――もしくは彼女は静かに……けれど、なぜか隣にいるかのようによく聞こえる声で問いかけてきた。


「なぜ見続けているんだい。君の事など知らないし、君も路地裏の住人など知らないだろう? なぜ、歩みを止めてまで見ているかな?」


 無機質なように見える瞳が、僅かな疑問に興味本位で語りかけてきたかのような。猫が時折、甘えた際にすり寄るかのような錯覚も覚える。


「なぜだろうな……だけど、俺はお前から目を離せなくなっちまった……本当に、なんでだろうな?」


 俺がこの感情の謎を逆に問いかければ、無表情にしながらも考えていたのだろう。

 無機質そうな目を向けながら、俺の問いかけに答えだす。


「分からないけど……もしかすると、君は興味を持ったのかもしれないね。普段目にしないような路傍の石ころの自分を偶々目にして、君は上から見下ろしているんだ。自分とは違う世界を、いつもとは違う路地を。君は興味を持って、娯楽として惨めな相手を見て楽しんでいるのかもしれない。あざけり笑うように」


 話し出せば饒舌じょうぜつなのだろうか? 意外と邪険に扱われずに構ってくれるようだが、言葉がいささか自己肯定感が低いというか、攻撃的とでも言うか。


 俺を見る目がゆっくりと伏せられたと思えば、続けて話し出す。


「それで、君は何故今もここに立っているんだい? もう興味は失せたんじゃないかな? 自分なんて見ても面白味はないしね。なんせ、絶賛伽藍洞ぜっさんがらんどうだったのだと今しがた気付いたようなものだから」


 本当に伽藍洞であればこんな事を言う奴はいないだろうな。中々、ユニークで面白い事を言う年齢・性別・氏名不詳者だな。不詳者のオンパレードでもはや不審者だ。

 仮名でフヨウとでも名付けよう。


 偶々出会った縁のついでに聞いてみるか。今日だけの付き合いか、今後も付き合うのかは知らないが、一期一会と言う事で。


「興味はまだ失せてないぞ。なぁ、少し聞いても良いか? 良いよな。お前は何でここでうずくまって座ったままなんだ? どこか行く場所もないのか?」


 良いか?と聞きながら、良いよな、と続けて間隙かんげきなく言うと、フヨウの口がイの形で開いたまま固まってしまった。

 嫌だなんて言わせないからな? 油断したな? ははは!


 ため息を付きながら俺を見てくる無機質そうな目。そのくせ、なんだこいつ、とでも伝わってきそうな視線だ。


 やめろ、その非常識な者を見るかのような視線は!


「蹲っているのは疲れたからさ。疲れたら座りたくもなるだろう? それに行く場所もある訳ない。それなら裏路地になんて座っていないだろう?」


 まぁ、行く場所についてはそうだと思ったさ。

 しかし、疲れたから座っているだけ、ねぇ……


 身体強化と暗闇に慣れてきた目でこいつを見てみれば……

 手足のところどころに擦れ、刺し傷、切り傷が覗かせている。

 蹲っているのも腹部辺りの傷を押さえてかばっている可能性がある。


 だが、この傷の付き方は魔物を相手にした際の傷ではなく、対人戦闘による物だろう。多対一の構図でやり合ったのかも知れない。

 短剣やかぎ爪の様な形状の傷。他にもいくつも。


 本人も言っていたが、裏路地の住人……いや、裏というのも暗喩あんゆであって、非合法な組織だろう。

 裏路地の住人というだけなら、こんな傷を負う奴は少ないはずだ。表の住人よりもトラブルが多いとはいえ、ここまで生傷が多いのは珍しいからな。


 それなら、なぜ……


 そんな疑問の視線をフヨウの体に向けていると声がかかる。


「さぁ、もう行くと良いよ。会話は十分に楽しんだから。少し疲れたんだ。寝させてもらうよ……」


 そう言って目を閉じた。

 静かに……


 その様子を確認した俺は邪魔をしないように再び歩き出した。

 まだ知りたい、気になる、と後ろ髪を引かれる思いでありながら……


 通り過ぎてから暫くは歩き続けた後、気分も落着いてきた。

 そのまま反転して進んできた道を戻っていく。また、あの不詳ばかりの人物――フヨウに会えるだろうと思いながら、挨拶くらいして帰宅しようと考えて。


 突然、暗闇に火花が散った。


 唐突な光に歩みを止め、進行先の暗闇をじっと見やる。

 再び数度、火花が散った。


 あの位置は、さっきのフヨウの場所か!?


 静かににじり寄りながら、相手の姿を確認する。どうやら先ほど蹲って寝始めたフヨウに短剣で切り付けようとしているようだ。


 話していた時よりも呼吸が荒く、見るからに動きの悪いフヨウ。


 様子を見ている内にフヨウはふらふらとっ!?

 あいつを殺させる訳にはいかない!


 不思議とそう思い、咄嗟にふらふらとして無防備なフヨウと短剣を握り突き刺そうとするフードの何者かの間へ体を入れる。

 咄嗟に左腕で刺突を受ける。焼けるような痛みにひるみそうになるも、意識はしっかりと相手に向けて対峙たいじする。


「……っ!?」


 いきなりの登場で驚いたか! フヨウとの戦闘に夢中で視界が狭まってたようだな!!

 このままお帰り願えませんかねぇ!!?


 そんな気持ちは相手に届かずに無情にも再び刺突の姿勢を取り始める。


「しっ!!」


 小さく漏らした相手の声とともに短剣が右腕に向かって突き出される。


 無手ってのは流石に辛いな! せめて防具でもあれば傷を負うことも無く受け流せるかもしれねぇってのによ!!


「っらぁ!!」


 身を捩ってかわす。

 その時にいつの間にか倒れていたフヨウの横にある短剣が目に入った。


 くそっ! 頼りないが、この短剣だけで相手するしかないか!!?


 躱しながら何とか落ちている短剣を握り、相手に構える。

 その後も相手の突きを数度躱し、避け切れない攻撃を何度か横合いから弾く様にして受け流していく。


 幾度もやり取りをしていると相手は短剣の間合いを離れ、俺の様子をうかがいながらフヨウに視線を向けた。俺も警戒しながらフヨウを見れば、息も絶え絶えに荒い呼吸をし続け、大粒の汗が倒れた地面にシミを作っていた。


「……効いてきたか」


 尚も相手は動こうとしない。

 効いてきた、という発言から恐らく毒物の使用でフヨウの状態は極めて深刻な状況なのだろう。

 そして、その短剣を受けた俺にも次第に効果が出てしまう事だろう。


 にらみ合いが続いて、はぁはぁ、と乱れた息を整えようとしながら油断なく相手を見ていると、周りから声が聞こえ始めた。

 どこかで鍔迫り合いの音や争う声を聞いた奴が憲兵や騎士にでも伝えたのかもしれない。


 さっさと居なくなってくれませんかねぇ!!?

 こちらは慣れない短剣使って、更に食らったかもしれない毒物におびえながら戦ってんだ! 少しは手心ってもんをだな!!

 それに人に見られたくはねぇだろ!!? 人が集まってきちまうぞ!!


 心の中で情けないがそんな事ばかりを考えていると相手がじりじりとさらに後退していき、恐らく身体強化での跳躍をしたのだろう、屋根まで一息に上がって行き消えていった。


「はぁ、はぁ……ちくしょう……まさか、夜道の、散歩が、こんなにハードになるとは、な……」


 愚痴りながら疲れた体に鞭を打ち、倒れたフヨウを担ぐ。

 人目に触れないよう、路地を急ぎ迂回うかいしながら自宅へ向かった。


 自宅へ到着するとフヨウをベッドに降ろす――そこでフヨウの意識が戻り声がかけられた。


「なんで……」


「んな事は今は良い!! 毒物はなんだ!! さっさと教えろフヨウ!!」


 こっちは切羽詰まってんだ! さっさと意識がある内に教えやがれ! 俺にも回っちまえば共倒れだぞ!


「アコニツム花の毒……解毒薬は……ないよ……多少耐性が付いてるけど……無理だよ……」


 解毒薬がない!!?

 戦闘から暫く経過しちまったが、魔術での治療は難しいか!?


 ここから離れた位置のイリスを呼んでる暇ない!

 仕方ねぇ!!


「痛くても許せよ、フヨウ!!」


 言った直後に傷口を絞るようにして血を流させる。

 苦悶の表情で痛みを訴えているフヨウだったが、毒によって意識も体も満足に動かないのだろう。

 叫ぶだけでされるがままだ。


「あぁあああ!!! ああああぁ!!!?」


 申し訳ねぇが、今は体内の毒物をこれで出すしかねぇんだ! 失った血液よりも取り込まれかけてる毒物を出す方が先決だ!!


「フヨウ耐えろよ!!」


 フヨウはその後も続いた痛みに耐え、途中向きを変えて手当をしようとうつぶせにすると、吐き出してしまう。


 だが、何とか処置が終わった……体力回復剤も飲ませた……

 後は、自分の番……しまった、な……途中から、やばかったが、気を張って……崩れ……


 ベッドから少し離れた位置で床に倒れ、視点の定まらない目でベッドに眠るフヨウを見やる。


「しぬ、な、よ……フヨ、ウ……」


 次第に意識が沈んでいくのを感じながら、ただただベッドに眠るフヨウの無事を祈った。


 そう言えば……本当の名前……聞いて、ないな……


 眠るように目をつむり、意識は奈落へと沈む。


「助けて、おいて……自分は、処置しない……なんて、お人よしで……馬鹿な人だ、ね……」


 奈落に身をゆだねた俺の耳に、そんな声がぼんやりと聞こえた気がした。


…………


 その後、意識を覚ませばインフィオはいつの間にか居なくなっていて……だけど俺の体はしっかりと治療されていたんだよな。

 あの時、自分も辛いだろうにインフィオが手当してくれてなかったら、俺は今も生きていなかったかもしれない。

 ただ、完全には毒の効果が消えていなかった俺は、再び眠りについて……


 その翌日にひょっこり俺の様子を見に来たとか言いながら、「行き場所もないし、これからよろしくね」、とか言って……


 道の先に『百花繚乱』クランの建物が見え始めた。


「名前を教えろ、なんて言ったんだよな。懐かしいな」


 あの時の出会いは、今でも鮮明に思い出せるもんだ。それだけ、幻想的であり、殺伐として、危機的で、強烈な記憶だったからな。

 だが、そのおかげで俺は調査部門を納得して立ち上げる事もでき、今ではかけがえのない存在である。


 惜しむらくは冒険者としても活動して欲しかったのを断って調査部門に専念してしまった事か……あれだけの実力を調査部門で消費するのはもったいないんだけど、こればかりは本人がなぁ……


「なにが?」


 唐突に声をかけられ、答える。


「あぁ、インフィオが『陰者インダークとしか呼ばれた事がないけど、君がフヨウって呼んでくれたから……繋げてインフィオにしようかな。君の為に生まれ変わるよ』って言ったのを思い出して……って!!? なんでお前、いつの間に横に立ってんだよ!!?」


「なんか考え事してると思ったら独り言してたから。気になっちゃったんだよ」


 笑って俺を見て言うインフィオ。


 毎度の事ながら、なんでこいつは俺を驚かせて来るんだ!

 もう少し俺の心臓にやさしくしてくれよ! そもそも、どこから俺を見張ってやがった!?


「さ、お帰りノーマ。今度は何をする? 何でも言ってよ」


 『百花繚乱』クランの扉を開いて、インフィオは続けて言う。


「なんせ君の為に生まれ変わったんだからね。この命、君に捧げるよ?」


 俺が何を思い出していたのか十二分じゅうにぶんに察したのだろう。悪戯でも考えているような顔をして言ってくる。


 冗談なのか本気なのか。

 どちらか分からないが、今では無機質ではなくなった綺麗な瞳が俺をじっと見つめてきていた。

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― 新着の感想 ―
そんな出会いだったんですね。 しかし、本名じゃないのか……一体、いつ本名を知ることになるのやら。 才能が無いのを自覚しているのに割と無鉄砲なノーマは、周囲からするとハラハラする存在なのかも? と、読み…
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