21:裏通りの異変
訓練場の件で誰か腕の良い職人と思った時にランドルの顔を思い出し、王都の表通りを歩いていた。
魔具職人って考えると専門性が違うかもしれないが、誰か建築に関して腕の良い奴を紹介してもらえるかもしれないからな。
聞くだけならタダだろ、の精神で向かっている。
その後に、魔具屋ついでに冒険者ギルドへ向かって、ダンジョンの報告書類も出してしまおうと、肩に提げたバッグに入れてある。
ランドルの店の裏通りを進んでいると、浮浪者のような人間が通りに増えたような感覚を覚える。
なんだ? 先日通った時はもっと隅っこで気にならない位置にいたような気がするが、裏通りとは言え、目につく範囲に集まってるのには違和感を覚えるな。
そんな思考をしながらランドルの店の扉を開いた。
魔具がカランカラン、と音を鳴らす。
「ランドル、いるか?」
店の奥からランドルが出てきた。
「誰かと思えばノーマか。なんじゃ、お前ひとりか?」
以前よりもランドルは大分柔らかい対応をしてくれるな。
一応、前回の件で認めてもらえたのだろう。
「あぁ、今日は俺、というかクランを代表しての仕事の依頼ができればってな」
「聞くだけ聞いてやろう。言ってみろ」
「訓練場が半壊……いや、ほぼ全壊してるんだが、できれば上位ランク冒険者の攻撃にも耐える施設を作ってほしくてな。それと、もう一つ訓練場を拡張工事したくて、それの依頼もある。できそうか? もしくは腕の良い職人を知らないか?」
「ふん……ノーマ、ワシを舐めておらんか? ワシは生産系全般における職人だ。それくらいできる!」
ランドルは心外だ、と口調を強めていう。
なぜ、それだけの腕を持ちながら裏通りになど店を構えているのか気にはなるが……
聞かぬが花、か。いつか教えてくれる時を待とう。
「ランドル、職人の腕として相当なんだな……魔具だけに精通していると思っていたが……」
「はっ! 一通りできるように訓練しとるわ! それで、上位ランクという事だが、想定はどの程度まで必要じゃ。Aランクだとアダマンタイトに柔らかい金属を合わせた合金になるぞ。値は張るが、性能はダントツじゃな」
ついにアダマンタイト製の訓練場か。
訓練場の想定が甘かった。組み合わせの鋼鉄製で問題ないのはC~Dランク相当までだったか。
「できればそれでお願いしたい。それと地下部分に新たに増やす形だが、階層を分けて地下2階にアダマンタイト製でA~B、地下1階を鋼鉄製でC~Dランクを想定してくれ」
「鋼鉄製の工数は知り合いの職人にも声をかけて行うから、それほどはかからん。職人系の才能持ちであれば問題ないからな。アダマンタイトは数日後からじゃろう」
「助かる。できれば早めに、って思っていたからな。実際、いつ頃から始められそうだ?」
「アダマンタイトは形の切り揃えに時間がかかる。ある程度は板状で揃えても、そこそこは時間がかかるとは思っておけ。ワシの伝手で運が良ければじゃが、最短工数で敷き詰めるサイズが全て揃うかもしれんがな」
そこからは想定作業日数、職人の数、費用を計算し、明日から現場確認から作業をするかもしれないと言う事で受注契約を完了させた。
依頼も完了したし、気になっていた事を聞いてみるか。
「なぁ、ランドル。裏通り、いつもと変わった事があったか? どうも違和感を感じる」
その言葉にランドルが顎髭を触って思い出すように答える。
「お前らがここに来る前から少し可笑しかったんじゃがな。そうか、表通りの人間にまで異常を感じられるようになってきたようじゃな」
俺らがここに来た時よりも前から……? 裏通りでなにが起きているんだ?
「どういう事だ?」
「元々裏通りはそこまで治安が良くないのは知っておるじゃろ? どうも最近はポイスパとかいう一種の精神薬剤が流行っておるらしい。それを吸うと病み付きになるらしいが、そのせいで身を崩した者も多いようでな。裏通りにたまってきておる」
ランドルは嘆かわしい、とでも言うように首を横に振って言った。
ポイスパ……表で流通している薬剤には聞いた事がないな。
ランドルの言う通り、ここ最近、新たに出回り始めたのか。
しかし、俺ですら気付く程に蔓延しているなんて、ペースが速すぎる気がするな。
「そんな薬剤、聞いた覚えがないが……」
「当然じゃよ。裏通りの奥に住んでいる、貧しい者に流行っておるからの。どうも、流行らせている側が客を選んでいるらしい。ワシにも誘いがあったが、そんなもんより職人してる方が100倍楽しいわ! それに借金漬けになった者達は連れて行かれて帰ってこないらしいからの。まだこの店は裏通りの奥には行かない位置じゃが、奥には進まん事じゃ。危なっかしい状況になっとる」
暫くはウィンリィやクラン団員には裏通りは単独での行動は控えるように通達を出すべきだな。
迂闊に奥に向かったら、如何に上位ランク冒険者でも人間相手で油断してやられるかもしれない。
「そうか。それじゃ、帰り道は気をつけて帰るとしよう。ランドルも気を付けろよ。そういうやつらは何をしてくるか分からないからな」
「ふん! 薬剤で呆けとるような奴に遅れはとらん。まぁ、備えはあるから問題ないじゃろ」
「了解。何かあれば頼ってくれ。それじゃ、今日はこれで失礼するよ」
「おう、ワシも作業の確認をする。またな」
ランブルに挨拶をして店を出る。
辺りを見渡せば、やはり浮浪者は未だにそこにいた。
やはり増えているような感覚は間違えていなかったが……
どうにも、面倒な薬剤が出回っているな。それにもしかしたらだが、俺にも縁――遺恨がある組織かもしれない。
ギルドから冒険者に依頼が来るかどうかも調べておく必要があるな。
周囲の安全を確認しながら表通りに戻る。
適当な店でドライフラワーとコーヒー豆を買い、冒険者ギルドに向かった。




