131:帰って早々、強制的に旅立つ事に……
俺たちはダンジョンを出た後、村で一泊し、翌日には王都に向けての帰路についていた。
ダンジョンでは途中、『機構の探求』が大変な事になったが……無事に何事もなく終わって良かったな。俺や『開花』の力も見せる事ができた。これで他国とは言え、クラン『機巧の旗』に舐められる事もないだろう。
「しかし……みんな、よく寝てるなぁ。ふあぁ~……」
馬車の中は俺以外、みんな眠りこけている。ツヨイモノは良く食べ、良く眠る、か。昨日のダンジョン後の飲み会でも翌日が移動するだけという事もあって、酒場が閉じた後も深夜まで宿で飲み食いをする事になった。
そうして、眠い目をこすりながら朝に起き、部屋の片づけをして……馬車に乗り込み、動きだす前には既に一斉に寝ていた。
おそらく、『機構の探求』も似たような状況だろう。
「俺も……もうしばらく……寝るかなぁ……」
馬車の揺れと外のゆったりした流れを見ていると、次第に瞼は下りていき、微睡み……俺は抵抗するのをやめた。
どれだけ経ったのだろうか。
馬車の揺れが止まった勢いで窓枠に額がぶつかり、目が覚めた。
「いてて……あぁ、もう王都の門に着いたのか。大分、眠ってたな」
時間にしておおよそ3~4時間は寝ていたみたいだ。幼馴染たち――イリア以外はまだ眠ったまま。
「どんな格好で寝てるんだ、まったく。座席に座らずに足元で寝っ転がってるとはな……」
馬車の床にガウルが寝て、アリアはその上に乗っかって寝ている。
イリアはその様子を静かに見守っていた。
「寝入っているようなので、そのままにしました。座席で寝るよりも気分良さそうですし」
こちらに顔を向けて微笑みながらイリアは言う。
「揺れで腰とか痛くなければ……良いか。どうせもう少しで『百花繚乱』にも着くしな。ふぁあ……」
伸びをしながら欠伸をする。
目の前にクラン建物が見えてきたところで御者から声がかかる。
「皆様、そろそろクラン前に着きます。お忘れ物等ないようにお願い致します」
そして、馬車は停車した。
ダンジョンへの冒険はこれで一度終わり、再びクラン長としての活動が待っている。
「よし。ほら、みんな起きろ! クランに戻ったぞ!」
俺の声に反応し、それぞれが伸びをしたり欠伸をしたり。動き出しは素早い。
「皆様、お疲れさまでした。クラン前に到着いたしましたよ」
ぞろぞろと馬車を降り、全員で再び伸びをする。
「ふぅ~っ! アタシも床で寝たけど、意外と体は凝っちゃうね~」
「アリアはオレの上に寝てたくせに何言ってんだ。こっちの方が体がバキバキだっての」
「じゃぁ、ガウルが固かったのかな~?」
「なんだとっ!」
アリアとガウルで言い合いを始めてしまう。
「ほらほら、ここでケンカするなって。訓練場で発散がてら戦うんだな」
手を叩いて2人を諌める。
『機構の探求』の馬車も後ろに到着し降りはじめるが、アリアとガウルはそのままクランに入って行ってしまった。続くようにノインたちも『機構の探求』に軽くお辞儀だけしてクランへ入っていく。
「さて、一先ずの冒険の終わりだが……クランに来るか?」
俺はリーダーのナギに確認を
「いえ、今日はこれで解散にしようかと。全員で冒険中の気付きや比較をして、手紙にまとめたいので」
ナギの言葉にミオたちも頷く。
まだ午後過ぎた頃だが、今から手紙の内容をまとめるのか。まぁ、折角記憶している内容を忘れましたじゃダンジョンに向かった意味がなくなっちまうか。
「了解。じゃぁ、俺はクランで業務でもするよ。何かあればクランか俺の部屋にでも訪ねてくれ」
右手を挙げ、後ろ手にひらひらさせながら、クランへと入る。
さて、仕事の時間だ!
その後、予定よりも早く帰ってきた俺たちにローズが軽く驚く場面はあったが、他に問題など特になく……部門長たちから確認書類を受け取り、黙々と作業をしていった。
そして……気付けば辺りは暗くなっていた。
「しまった。今日は軽めに進めておこうと思っていたのにな……仕事が捗ってしまったからやめ時を見失ってたな」
椅子の背もたれにぐぐっと体を預けて上に腕を伸ばし、軽くストレッチをして立ち上がる。
クラン長室を出た先の部門長区画には既に誰もいなかった。
ローズも帰ってたか。インフィオは今日見かけなかったな……まぁ、だいぶ遅い時間だしな……俺もさっさと帰るとするか。
「お疲れ様でした、クラン長」
「あとはお願いね」
当直の者に声を掛けられたので、挨拶を返してクラン建物を出た。
外は既に人はまばら。まだ酒場を利用する者もいるだろうが、日付が変わるかどうかといった時間帯。いつもの通りですら薄気味悪く見えてしまう。
大通りから自宅への暗い路地に向かって進む。
……ん? 路地の先から3人組か。こんな時間にこの通りを歩く奴は珍しいが酔っ払いか?
3人組はフードを被っていた。歩き方は3人で肩を組み、足取りはおぼつかない。ゆらゆらと影が動き、その動きを追っていたら少し目が疲れてしまった。
彼らは物盗りや狂人といった事はないだろう。ただの酔っぱらいだ……
目を閉じて指で揉むように押す。今日は少し働きすぎたのかもしれない。
そんな事を思いながら、足は止めずに目を揉み続ける。
――そして衝撃を腹に受け、肺から空気が漏れた。口からはひゅっと音が出ていたが、俺自身、現状を把握しきれていなかった。
油断、とまではいかない、一瞬の出来事。たかが目を揉んで歩いていた。それだけの隙。その時に動かれた。
3人組の一人が俺の腹に蹴りを一撃し、2人がその後に左右から俺の両腕を押さえつける。
「なに、しやがッ!!?」
そう叫ぼうとすると、蹴りを入れた奴が口に何かを突っ込み、声がうまく出せなくなる。そしてそのまま、俺の首に指を這わせ――
まずいッ!!? 意識を刈り取られるッ!! くそっ!! 隙とも言えない瞬間に一撃、そのまま押さえつけまでが手馴れすぎてやがる!!?
首――頸動脈を抑える力をじわじわと強められていく。身体強化を行っても体をしっかりと抑えられてしまい、逃げられず……体は小さく揺れるだけになってしまう。
徐々に体が冷えるような感覚が襲ってくるか逃げ出す事も出来ず……俺は体の感覚を失っていき、視界もぼやけていく。
最後に浮かんだのは、まったく関係のない馬車での微睡みについてだった。