130:終わり良ければ……良いのか、これ?
しばらく待機していると、ずるずるとぐったりした大きな鷲が引きずられてきた。
『機構の探求』も最後は手伝って頂上に運び込まれる。
「うぉ……アリア、大分勢い良く踏み抜いたな」
イグナイトイーグルの胸がドカンと穴あき、ひざ下くらいまで魔物の血でべっとりじゃないか……
「しっかりと止めを刺すためにね。穴あいちゃったのは予想外っ!」
アリアは照れたように頬をかきながら、屈んで足についた血を水で湿らせたタオルで軽く拭いていく。
「あ、あはは……さ、流石のBランク冒険者、ですね……」
ナギが無理に笑いながら話したせいで引き攣った笑顔になっていた。
「ま、無事にアリアが仕留めてくれた訳で……こいつ――イグナイトイーグルを解体したら村に帰るとするか」
穴が開いてる部分は仕方ないが、嘴や爪、羽が重要だしな。肉もそれなりに食べられるレベルではありそうだが、どちらかというと筋肉質。後は臓器だが、滋養強壮に用いる……よりも、クロエたちの研究で消費されるか。
「さて、ちゃっちゃと進めますか!」
特にイグナイトイーグルと戦闘しなかった俺とクロエで解体をしていき、他のモノには休憩してもらう。
作業は内臓部分で手間取るかと思ったが、クロエの指示もあり滞りなく進んでいった。
最後にしっかりと汚れを水で洗い流して――
「じゃぁ、帰ろうか!」
全員に声が聞こえるように大声を出し、手をパッパッと上下に振って水を払い落とした。
小山からの下り道。途中途中で魔物との遭遇が少しはあるかと思っていたが……小山を登るまでの間に俺たちの気配を覚え、イグナイトイーグルを倒した事で更に危険視されたようだ。まったく、姿が見えない。
おそらくは遠巻きに注意深く見てはいるのだろうが、アリアから警戒する素振りが見えない時点で油断して襲われる距離にすらいない、という事だ。
「こりゃぁ、帰り道は魔物に襲われずに帰れそうで良かったな。採取も気楽にしながら帰れるぞ」
俺の言葉に『機構の探求』は嬉しそうに顔を見合わせ、声を出す。
「やりぃっ! でも、旨かったホーンラビットとかも避けちまって、旨い肉は追加で持って帰れそうにないか。そこだけ残念だ!」
「残念だけど、村に帰ったら果物パーティーはできるかなっ!」
「まぁまぁ、昨日採取したお肉も少しは残っているんですし。それで楽しみましょう」
「可愛いから、あんまり狩りたくなかったし……今ある分と果物の追加で十分っ!」
コウキ、ナギ、ヒロ、ミオ。それぞれ最後の喜び方に違いはあれど、ダンジョンを存分に楽しんでもらえたようだ。
俺の実力、『開花』の総力も見せる事はできた。あとは次のダンジョンだが――
「なぁ、気が早いが、次のダンジョンはどうする? 今回、速足でダンジョン踏破する事も出来たから、続けていく事もできるぞ? 御者さんには話は通してあるから――」
「そ、それなんですが……! 一度王都に戻ってもよろしいですか……?」
ナギがおずおずと手を挙げながら、申し訳なさそうに言う。
「ん? 『無法に突き立ち穿つ湖』はここ――ケモフレ村からの方が近いし奥まで進まなければ日帰りも可能だが……良いんだな?」
「はい、一度王都に戻って、ですね……クランにも連絡の方を、その……」
再度、ナギたち『機構の探求』へと意思の確認をすると、ナギが言い難そうにしながら返答する。
なるほど、報告か。
元々、そのためにダンジョンにって話だったが……『肥え富める獣道』だけで、十分に俺や俺たち『開花』を記録できた、と。記憶に残っている内に早めに資料をまとめ、『機巧の旗』――クラン長に送りたいか。
「そうか。なら、そうしよう。みんなもそれで良いよな?」
「オレは暴れたりねぇけど……ノーマも戻るなら仕方ねぇな」
ガウルはそうごちながら、足元の小石を蹴飛ばした。
「もうちょっと、ノーマ君と一緒に冒険したかったな~。ねぇねぇ、『機構の探求』だけ戻ってもらって、アタシたちだけ別のダンジョンに行くのはどうっ?」
「お、それ良いじゃんッ!!」
アリアの言葉にガウルが喜んだような声を上げるが――
「駄目ですよ、アリア姉さん、ガウルさん。ワタシたち、正確にはノーマさんは、冒険者ギルドからの依頼で付き添っているんですから。放置して別行動なんてできません」
ぴしゃりとイリアにダメ出しを食らう。
「こ、今回はこれで一旦冒険はお仕舞いですね。今回の素材もわたし自身で持ち帰れますから、わたしにとっては大助かりです」
「そうそう。それに2つ目のダンジョンだって行かないって訳じゃないですよ、ガウルさん」
クロエの発言に同意しながら、ノインは俺を見て「そうですよね?」、と顔を向けてきた。
「あ~、まぁ……『機構の探求』の予定次第だよ」
曖昧にノインの言葉に返答しながら苦笑して返す。
「え~? それじゃ予定が消えちゃったら、お兄さん来ないつもりだったりして~」
ユリアがニヤニヤしながら、すかさず突っ込んできた。
……Cランクダンジョンはどうにも昔の記憶が蘇ってくるからな。正直、こういう機会でもなきゃ足が向かないってのはあるし……でも、いつまでも避けていられないしなぁ……
「…………ぜ、善処します」
俺の苦しみ混じりの言葉に、『開花』――幼馴染は、にこっと笑う。クロエですら嬉しそうに、にこっと笑うから困り者だ。こういう時は大抵、無茶ぶりされる。背筋に汗がにじみ出てきてしまう。
「じゃぁ、もし行かなかったら、Cランクダンジョンのもう少し強いところ、いこっか!」
「ノーマ、忘れんなよっ!」
アリアとガウルの言葉を筆頭に、口々に約束を忘れないようにと告げていく。
そんな俺たちの軽口を聞きながら、『機構の探求』はひょいひょいっと果物等の実りを採取して、我関せずの姿勢。
お前ら、段々と俺らに対する接し方、学んできたなぁ……こういう時は助け舟を出してくれても良いんだぞ~?
こちらに目もくれない『機構の探求』を情けなく眺めながら、ダンジョンから村へ向け帰り道を歩いて行った。
リアクション・評価・感想・レビュー、甘口でも辛口でも大歓迎です(´・ω・`)
お返事は気付いた範囲でとなりますが、
「読まれているんだな」と実感できるだけで、ものすごく励みになります。
ブクマや★をひとつ付けていただけるだけでも、すごく力になります。
どうぞよろしくお願いいたします!