13:二人の訓練とダンジョン前準備
盛大にゲボッてる二人が落ち着くのを待ってから声をかけようとしていると、ウィンリィが手を挙げて近づいてきた。
「ノーマ、来たんだね。ごめんね、こんな場面を早々に見せちゃってさ」
申し訳なさそうに言うウィンリィだが、気にするな……
俺は自分の運命を悟ったよ。この二人とはこういう出会い方しかできないのかもしれない、ってな。
「気にするな、というのも無理だろうが……良いんだ。最初も似たようなもんだったしな」
「そ、それは、良かったとは言えないけど、流す事にするね?」
そんな微妙な空気を払拭させてウィンリィが告げる。
「いやぁ、アルメリアとフリュウさ。意外と頑張るから、ちょっとボクもやりすぎちゃったんだよね。どうせならナイラさんのお孫さんに良い姿も見せたいしさ? でもナイラさん直伝の訓練はしてこなかったみたいだね」
ウィンリィは視線の先で苦しんでいるアルメリアとフリュウを見て苦笑しながら、続けて口を開く。
「……ボク等もノーマが教えてもらったっていう方法で訓練した時は良く倒れてたよね。懐かしいなぁ……」
懐かしそうだが……良い思い出とも悪い思い出とも言えない顔のウィンリィ。
あの当時のクラン創設前の『花扇』は皆、闇雲に手探りで……現状に嘆き、成長の止まっている自分に焦っていたからな。
俺がしっかりと指導したお陰で倒れる事もなくなったが……
そうかぁ……あの訓練方法かぁ。
「まぁ、魔力を限界まで使い続けると気持ち悪くなるからな。その代わり、急激に伸びる。剣士なら身体強化を続ければ続ける程に強化量が増し、魔術師なら魔術を練れば練る程に魔力量が増える。それを繰り返すスパルタ訓練か。伸び盛りであればある程、魔力が空になった後の魔力量の成長は大きいからな。それとナイラ式の組み合わせか」
「うん、あれのお陰で加齢成長と洗練成長の両面から鍛えられていって、ボクも相当強くなったからね。過酷だけど、やる価値はあるよ。これは才能持ちであれば特に……」
そこでウィンリィの俺を見る目が、少しだけ儚い物を見るようなモノになった。
「気にするな。俺も無能者の中じゃ強い方だ。そして、俺がそうやって訓練した事で、ナイラさんの訓練と合致した」
ナイラの訓練方法は単純であったが、難しいものだった。
俺の方法が魔力を空にする大胆な方法だ。
だが、ナイラの訓練は魔術における魔力量を小さく小さく、最小の魔力で効果を同程度に局所的な威力で発動させるものだった。
これは感覚的なものらしいが、体内を虫がうごめくかのように魔力の糸を動かしていくと慣れるらしい。
この方法、何が良いかというと……魔力を空にした後であれば、魔術に送る魔力を最小にしながら発動させる感覚が身につくのだ。
その代わり、魔力が少ないから……気持ち悪い中で更に魔力を絞りだそうとし、その上で体内を魔力――虫が這いずるのだ。
吐かない方が珍しいだろう。
ノインは元々俺に付き合って魔力を空にするのに慣れていて問題なかったが、『花扇』の魔術師は軒並みやらかした。
あの時は新品な訓練場に新たな印が刻まれて泣いた。
おっと……当時の事を思い出して遠い目になりかけてしまった……
「そうなると、これの繰り返しでどれだけの魔力量になるかって感じだな。まだまだ追いつかれるなよ、ウィンリィ?」
俺が試すように見やると、ウィンリィはにやりと笑う。
「はは、追いつかれないどころか引き離して見せるよ? なんせボクは『花扇』の『風運ぶ音色』リーダーだ。まだまだ、こんなもんで終わってたまりますかっての! ノーマも見てなよ! 今は無理でも、ボクがノインを超える、その瞬間を! そして、ボク達がSランクに一番乗りだ! ノーマを連れて行くのもボク達だよ!」
そう、この挑戦する意思だ。
この意思があるからこそ、『花扇』は伸び続ける。
もちろん、今の方法では限界はあるかもしれない。それでも、その時が来ても負けず、へこたれない事が大事だ。
そこから先に至る方法が見つからなくても、その次、その次と。
無能者の限界は早い。同じ方法でも全く増えないで止まった。
今も方法は模索していても、見つかっていない。別の道――夢に向かう方が現実的だろう、と彼女達をサポートする決意をした。
才能持ちは打てば響く余剰が大きい。
だからこそ、俺は支えよう。その才能の開花を無駄にしないために。
見せてくれ、俺の花。
こんなものではないのだと、咲き誇って俺に魅せ付けろ。
そして、満開の花園に連れて行ってくれ!
頂に君臨した花園を、俺にも見せてくれ!
「期待している。なんせ、これだけの才能開花だ。俺を連れて行っても余裕すらあるだろう?」
「当たり前だよ、ノーマ! ふふふ!」
「ははははは!」
俺とウィンリィは訓練場で苦しむ者達を置き去りに、笑いあった。
ひとしきり笑いあって用件を伝え忘れていた事に気付いた。
「ウィンリィ、用件を忘れてた。確認しに来たのもそうなんだが、数日以内にダンジョンに潜って貰うかもしれない。その時は二人を連れて踏破してくれ」
「分かった! それで踏破予定ダンジョンのランクは?」
「恐らくはDランクだな。まぁ、オーク系統のダンジョンだから、俺も向かう予定だけど、問題ないか?」
「ノーマも来るの! やったね! ずっと一緒に行けなかったし、良い機会だ! ガウルとノインはどうするの?」
「どうするかな……」
ガウルとノインがいるとしたら、過剰戦力な気がするんだよなぁ。
うーむ……俺にウィンリィ、アルメリア、フリュウ。
ガウルとノインを入れたら剣士2人の魔術師3人か。
そうすると俺が盗賊の真似事をする形でも良いか……?
一応、罠の類は見破れなくもないし、魔術師でも魔力感知で魔物は認識できるだろう。
「行こうぜ! オレも行きたい! ノーマと!」
「そうですね。久しぶりのノー兄とのダンジョン踏破。面白そうです」
いつの間にか訓練場に来ていたガウルとノイン。後ろから声をあげたので驚いてしまった。
び、びっくりするわ!
なんで皆、いつの間にか俺の後ろに忍び寄ってるんだよ!
「いつ訓練場に来たんだよ、声をかけろっての……じゃぁ、俺、ガウル、ノイン、ウィンリィ、アルメリア、フリュウの組み合わせな。俺は盗賊の真似事するから、昔みたいに魔力感知でフォローしてくれ」
「了解、ノー兄。それじゃ、ウィンリィさん。よろしくね?」
「へへ、ノーマ! 楽しもうぜ!」
おうおう、バチバチだな。おー、怖い。
どちらが魔術師として優れているかってやり取り、見ているだけで寿命が縮みそうだ。
ガウルは能天気で可愛いなぁ……
ささっとアルメリアとフリュウに伝えたら退散しちゃおうかね。
「アルメリア、フリュウ! お前ら、近いうちにダンジョン潜る準備しとけよ! ウィンリィに聞いとけ!」
「ちょ、ちょっとま……うぇえ……」
「……うぷ」
おっと……声を出したらまたリバースしそうだな。
用件も伝えたし退散っと。
「しばらくは苦しいだろうが、がんばれよ! それじゃ、またな」
訓練場を出る時にビチャビチャっと音が聞こえた気がしたが、振り払うように出ていく。
何も聞こえない、何も聞こえない……




