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127:お山の大将を引きずり下ろす、マウント合戦#

 小山を目指して歩く中、時々は魔物領域に入り動きの確認をしていく。

 そして、今まさに……


 目の前には2体の巨大な(さる)――ほぼゴリラが胸を叩き威嚇(いかく)してきていた。体毛が薄赤色の巨大猿と灰色の巨大猿は、岩の上で歯を()き出しにし、こちらを敵と認識して油断なく見ている。

 今回は『開花』で参加するのはユリアのみ。アリアやガウルたちには後方待機で参加しないでもらう。


「良いか、マウントゴリラは掴み倒して、馬乗りで殴りかかってくるからな! それに巨体の割に動きは素早い。投擲(とうてき)をしたりとテクニカルな動きもする。しっかりと動きを追い続けろ! 『開花』は軽く戦闘をサポートするくらいだからな!」


 腕を(つか)まれれば、その強大な握力(あくりょく)でもって骨を粉砕(ふんさい)してくるだろう。それこそ才能持ちのCランク冒険者ですら耐えきれるかどうか。


 『花扇』である『見晴らす丘』ヒルダなら、こいつとの殴り合いも出来そうだけどな……それこそ、取っ組み合いで逆にマウントを取れるかもな。


「布陣! 岩の手前、半円!」


 ナギはミオとコウキを左右に連れ、岩下を囲むように陣形を組む。ヒロは魔力を練りながら、後方配置はいつもと変わらない。


 だが、戦闘の狼煙(のろし)を上げるのは――ヒロだ。


「……促進(そくしん)し燃え盛る紅蓮(ぐれん)燎原(りょうげん)ッ!!」


 ヒロの魔術は火属性。広がりを見せながら、2体の巨大猿の後方から追い立てるように向かう炎。岩の上の炎は広がり、魔物は慌てるように岩上横に()える大木へと跳躍(ちょうやく)する。

 左右に分かれ、逆に『機構の探求』を取り囲むような形となった。


「ユリア、頼む」


 右手側の大木に捕まる薄赤色の巨大猿を指差し、ユリアに狙ってもらう。


「了解ッ! スゥッ……」


 弓矢を挟み、ギリリッと(つる)(しぼ)って狙いに移ったユリアは、深呼吸をすると静かに構え続ける。

 『機構の探求』は左右の大木に捕まる巨大猿を少し離れた位置から視認し続けているようだ。


 あの位置に魔物が(とど)まり続けると、手出しするには少し厄介(やっかい)だからな。『機構の探求』の場合は、ヒロが魔術で巨木から地面に降ろすしかないだろう……だからこそイリアに狙撃してもらい、安全圏ではないと魔物に認識させて陸地戦闘を(いど)ませる必要がある。


 巨大猿の動きはこちらを(うかが)いながら、数的不利から地上に降りて攻撃する気配はなく……周りに生えた木々に乗り移っては機会を待っているようだ。


 ユリアはそんな動きを目で追いながら、矢に魔力を乗せていく。

 そして動きに合わせ――


「ヘビーショットッ……! 3連射ッ! ふッ!!」


 矢を(はな)った。そのまま流れるように素早く矢を(つが)え、放つ。

 横に立っていると弦が放たれた風と音が届く。


 巨大猿の行く手に矢が突き立ったと思えば――両肩に矢がほぼ同時に突き刺さる。その痛み、衝撃(しょうげき)に、木から手を放し地面へと落下する。

 体を打ち付け、ギャッ!!!、と鳴き、矢と落下した痛みに動きが止まった薄赤色の巨大猿。


「コウキッ!」


 ナギは声をかけながら動き出す。


「あいよ!!」


 ナギの言葉にコウキが遅れて動くが、薄赤色の巨大猿へ素早く近付き、数本の短剣を――


「どりゃッ!!」


 左手足に突き刺す。

 コウキと入れ替わるようにナギが追い付き、剣を振り下ろすッ!


滝流(たきなが)れ!! はぁああッ!!!」


 綺麗に振り下ろされる刃。魔力を通した剣は巨大猿の首を断ち切る。

 その間もミオはもう一方の灰色の巨大猿の動向を見ていた。


 だが……薄赤色のマウントゴリラが木から落とされた辺りから周囲を確認する素振りを見せていたので――


「ナギッ! 逃げるよ!!」


 ミオが声を上げた。

 そして巨大猿は飛び上がる姿勢を見せ、『機構の探求』――ミオから離れていこうとする。


 それに合わせて俺はもう一方に指差し、ユリアに狙わせる。


「ふッ!!!」


 魔力を乗せたのみの純粋な一撃は……飛び上がったタイミングの巨大猿を打ち抜く。空中でバランスを崩し、木に手が触れるも掴めぬままに落下する。


「『機構の探求』ッ!!」


 俺の呼びかけに今度はミオとヒロが動き出す。


 あの位置なら……ヒロの魔術で追い打ちし、ミオが魔義体の展開で切りつければ十分に行動を阻害(そがい)できる。さぁ、決めろ!


「展開ッ!!」


 ミオが魔力をその身に(はし)らせ、身体強化を(ほどこ)し走り出す。

 通常であれば無能者は戦闘中に常時魔力を使用すると10分ほどで尽きそうに見える、その魔力量の使い方。だがミオは補う方法があり、貯める方法もあるため、問題にはならない。


「切り刻み細断する気流、風刃!!」


 走るミオの横から無数に発動された風の(やいば)。落下の衝撃で起き上がれないまま、その身にヒロの魔術が到達し、生傷を刻み込んでいく。


 仰向(あおむ)けに落ちた灰色の巨大猿は傷から血を流しながら、どうにか体の向きを変えるが――


「うりゃぁああああ!!!」


 剣に惜しげもなく魔力を流し、巨大猿の背中に飛び乗り何度も突き刺していく。突き刺す度に(もだ)え苦しむ魔物。

 だが、決してその手を(ゆる)めることなく突き刺し続けるミオ。


 初めの内は振り落とされる程の勢いで体を震わせていたように見えたが……突き刺す度にその力が弱まる。腹から(くず)れ落ちずに、何とか耐えるかのように腕で支える姿勢だったが遂に……倒れた。


 中々に……ミオの攻撃方法が野性味あったな……何度も突き刺しながら、巨大猿の振るい落としに、再度背中へ剣を突き刺して耐える……大分、魔物の血を(かぶ)ってるな。


「はぁっ、はぁっ……た、倒せたぁ……」


 ミオはそのまま突き立てた剣を支えにして一息ついている。


「無事に2体とも倒せたな。ただ『機構の探求』は、地形の上下を利用された動きには対応が困難になるから、今後の課題として魔術や弓矢以外でも代案を考えておくんだぞ。魔術を再度放つにも魔力の練りが必要だからな。もしも代案が思いつかない場合は、1体は必ず仕留められる様に地形と配置を意識するんだぞ」


 だが、マウントゴリラ2体でこの動きとなると……『機構の探求』のみだとダンジョンボスは厳しい気がするな……危なげなく見えるが俺らがサポートして、だからな。

 どうするかなぁ……俺たち『開花』との連携って言っても、ガウルやアリアが出たら逆に『機構の探求』が邪魔になりかねない。魔義体の性能としては強いんだが、パーティーの人数や才能、ランクを総合評価すると戦いきれるとは思えない、か……?


 気付けば『機構の探求』に批評をしてしまっていた。

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