10:新たな蕾#
訓練が始まり、しばらくはお互いにじりじりとしあっている。
間合いの詰めあいが発生しているようだが、訓練生は先日の指摘から改善したようでブラフも混ぜて視線を切ったりして、わざと誘っている。
「ふぅ……ふぅ……!」
アルメリア、だったか。息の吐き方が早すぎないように呼吸を整えようとしている。
これは、レイアールから指南を受けてるのかもしれないな。
オークの時もそうだったが、漏らした後の動きが初心者にしては綺麗だ。
「う、うぅ……!」
フリュウは、う~ん……これは学園で教えている魔術教練の動きに沿ってそうだな。
ナイラは魔術師としても相当な実力者だが、孫娘には冒険者のイロハは教えなかったのかもしれないな。
魔術師としての能力は高いのかもしれないが、動くとしたらフリュウの呼吸の乱れ次第だな。
「放つ衝撃! 石礫!」
相手魔術師が魔力操作と詠唱を終えて、手のひらから小石を放つ。
これがダンジョンだったら小石ではなく、コブシ大の石くらいは出しているだろうな。
「あ、あ! れ、冷徹な隔たり! 氷壁!!」
ふむ? フリュウの詠唱は後手を取って準備した割に、即座に発動されたな。
しかし、魔力の練り方が上手いようだ。E級とはいえ、D級の魔術が発動し二人へ到達する前に行使しきったからな。
両者の視界を氷壁が遮り、その瞬間にアルメリアが声を上げた。
「フリュウ! 行くよ! 学園で使った連携!」
「う、うん! 降りかかる灼熱! 炎撃!」
氷壁に向けて炎撃を打ったフリュウ。
行使した魔術が実態を伴っていられるのは、発動時の魔力が霧散せずに残っているからだぞ!?
なぜここで……
氷壁は穴をあけて溶ける。霧を生み出し、消え……ない!?
待て、まさか氷壁に想定よりも魔力を多く使用していたから、霧になっても魔力が維持され消えないという事か!?
あの瞬間の発動でどこにそれだけの魔力を……
なら、この動きは……!
相手との視界を遮り、雲隠れさせた上で襲い掛かる戦法だ!
厄介な方を狙うなら、魔術師を先んじて狙うはずだ。
さぁ、流石に剣士が守るはずだが、どうする。
「フリュウ! お願い!」
「分かった! 凍てつく強風! 凍結!」
氷壁の一部の穴を利用して手を出すと、霧を凍らせ……
アルメリアが離れてフリュウが無防備になるのを氷壁で防ぎながら、霧を凍らせ、相手の動きを止める。
「ちっ!! せり上がる大地! 土壁!」
相手魔術師も流石に、意図を理解して急ぎ壁を作り出す。
中々、面白い魔術合戦になってきたな。
だが、ここは壁で遮るのではなく……
「ゼイン! 横に出て魔力を乗せて魔術師を薙ぎ払え! 遅かれ早かれ凍らされるぞ!」
「おう! 行くぞ、横断! クドレ! 落石だ! あの魔術師に落とせ!」
相手側も負けじと、剣士が魔力を載せて横なぎに攻撃を飛ばす。
あの距離だとそれほどの威力にはならないだろうが、牽制か。
剣士が横に動いた事で魔術師との距離が開いた。
魔術師も詠唱に入ろうとする。
ここか!
「返し刀!」
霧が晴れない中、横に潜伏していたアルメリアが魔術師に切りかかる。
実戦であれば、首を狙われて致命傷――死亡だな。
「魔術師、致命傷だ。死亡判定」
そこからの展開は早かった。
いくら剣士といえど、2対1で魔術師が残った状況では手数が足りない。
じり貧のまま、アルメリアとフリュウが勝利を収めた。
「錦の旗。お前らは霧が満ちた時に一度、効果範囲外に出るべきだったな。それか視界不良の中で闇雲に戦うのなら、防御するにしても霧を自分の周囲から飛ばす努力はしろ。あの時から相手に調子づかせた。あくまでも魔力の残りで発動されているんだから、凍らされかけても慌てるな。それと、相手の魔力の練りが上手だと判断したら、詠唱を長くてもしっかりと唱えろ。質で負けて量に頼るな」
「う、うっす……」
「あんな霧が起きるとは思わずに……」
錦の旗の二人は肩を落としながら俺の言葉に頷く。もう少しとは言えるが、まだ俺の求める水準には彼等は届かない。
「二人の動きだが、意表をついての霧化の中での戦闘に慣れていたみたいだな。だが、あの瞬間に霧が晴れればアルメリアは格好の的になっていた。フリュウは氷壁を前方複数に展開しろ。その上でアルメリアは隠れて忍び寄れ。効果範囲外から攻める時は必ず身体強化で速攻だ。効果が小さかろうと、その強化が左右する局面もある」
「は、はい!」
「わ、分かりました!」
アルメリアとフリュウを見て言う。
「二人とも、異例ではあるけれど……訓練生、申請許可する。まだまだ甘いと思える部分はあるが、今時点でD級のパーティーに実践模擬とはいえ勝利した。戦闘におけるアイデア、瞬間の行動力は冒険者として重要なものだ。鍛えて伸ばしていくと良い」
俺の言葉に二人は笑顔を浮かべてはしゃぐ。
「やった! やったね、フリュウ!」
「う、うん! やったね、アルメリアちゃん!」
横で喜びはしゃいでいたが、疲れたのだろう。端によって二人は座った。
その様を眺めていると、後ろから声がかかる。
「フーン? ノーマが認めたんだ? まだまだオレはひよっこだと思うけど。まぁ、おめでとう!」
「まぁ、E級で考えれば相当実力が高いと思いますよ。魔力の練り方はもう少し意識した方が良いと思いますけど~?」
途中から見ていたガウルとノインも評価を下す。
その言葉に俺もまだまだ甘いとは思いながら、この二人の将来を考えてしまう。
「あぁ、まだまだ甘い、とは思うよ。けど冒険者なり立てE級として、これなら今後が楽しみではある。腐らなければ、『花扇』に迫るかもしれないぞ?」
俺の言葉にガウルが詰め寄って言う。
「べた褒めじゃんか。なんだ? こいつら、どっかに入れてもらう感じか?」
動物的な勘だろうか。
だが、実際、今の戦闘を見ていて考えていた。
才能一辺倒で戦う能無しなど、その辺に沢山いる。
だが、こいつらは既に作戦を、才能をどう活かすか……戦いきる為の道筋を考え行動している。
足りないのは指導と経験だ。
学園での指導ではなく実際に魔物と戦い、ダンジョンに潜り続けた……戦術を用いる者の生きた指導が。
その為にも、まずは……
「あぁ、早めにランクを上げてもらうつもりだ。その後に『花扇』のどこかに入れてもらえるように話してみようと思う。詰めの甘さを減らし、生きた指導を行ってもらい、実戦の恐怖に打ち勝つ訓練を積む……そこまで行けば即戦力だろう。新しい花の開花だ!」
「ノー兄が久々に見つけた、新芽で――開花前の蕾かぁ……」
いつの間にか訓練場で寝てしまったアルメリアとフリュウをみて、わくわくしながら考える。
彼女達が花開くのはいつになるだろうか、と。




