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イマジナリーズ  作者: マキシ
第三章 王と戦争
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終戦宣言

 ファティマ王女はアトル王子にイスバル追放を言い渡し、彼を王宮内の一室に軟禁したあと、スクルテオ星系全域に向けて戦争状態の終結を宣言した。

「イスバル、及びスクルテオ星系の皆様! スクルテオ星系における戦争状態は終結いたしました! イスバル王室が皆様を混乱させてしまいましたこと、あまつさえ一部の星々の方々へ宣戦布告などを行ってしまいましたこと、誠に申し訳なく思っております!」


 その宣言は、あの王宮のバルコニーから王宮広場に再び集まった国民代表に向けて行われ、その様子はスクルテオ星系全域へ中継されていた。またあたしらを始め、星間宇宙軍はイスバル王室による戦争状態終結後の混乱収拾に協力するため、しばらくの間イスバルに駐留することになっていたので、ミネルバ大佐以下主要メンバは王宮のバルコニー、国民代表に向けて語り掛けるファティマの後ろでそれを聞いていたのだ。その中にはミネルバ大佐だけでなく、ゲイリー部隊(ユニット)の連中もいる。


「私ことイスバル第一王女ファティマは、ようやくイスバルの地に戻り、イスバル王室の犯した過ちを正すことができました! 私はこの過ちを心に刻み、事態収拾に私の持てる力の全てを注ぎますこと、また今後二度とこのようなことが起こらぬようにイスバル王室を戒めますことを皆様にお約束いたします!」

 王女は広場に集まった国民代表たち、また中継のカメラを通してスクルテオ星系内の人々全てに向け、続けて語り掛けた。

「この混乱の中、尊い命が奪われることもございました」

 ファティマ王女は天を仰いで目を閉じ、何かに思いを馳せるような様子を見せた。


 一呼吸おいて、王女はまた皆に呼びかける。

「私達は新しい時代を迎えなくてはなりません! 不条理な権力! 理不尽な暴力! そうしたものに人々が支配される時代を今こそ終わりにしなくてはいけないのです! 私はここにイスバル王室による専制君主制から議会民主制へ移行する意思があることを皆様にお伝えいたします!」


 王宮広場に集まったイスバル国民代表たちがざわめきだす。正直、これにはあたしも驚いた……。ふとクリスの方を見ると、クリスも同様だったらしい。

「驚きましたわ。まさかこのようなお話になるなんて……。ジョアンは何か聞いて……いませんわね」

 クリスはあたしの顔を見て察してくれたようだ。

 しかしここでなんとベティが口を挟む。

「実は……このことについては、キアラさんを通してファティマ様からご相談をいただきまして……」

「ええ?!」

「ええ?!」

「ええ?!」

 あたしやクリス、デイジーまで一緒になって驚いた。キアラ女史には、ミネルバ大佐と一緒に王宮に乗り込んだ日以降もインカムをつけてもらっていたのだ。これはファティマ王女守護を目的にしたものというより、戦争状態終結の事後処理に追われる王女やキアラ女史、シャム氏に協力する意味合いが強かった。


 そしてある夜、キアラ女史を通してファティマ王女から相談されたそうだ。

「申し訳ありません、ベティ殿。イスバル王室の慣習から、直接外部の方からご助言をいただくことができませんので、私が直接そのインカムをつけることはできないのです。古い慣習かも知れませんが、私が王族である以上、それがイスバル国民に対する責任の一つであると考えているからです。それでも少々こじつけかもしれませんが、従者を通してお話を伺うことは禁じられておりません。それでご相談なのですが……」


 そうして王女から相談されたのは、今後のイスバル国政ついてだったという。アトル王子の暴走に心を痛めていた王女は、専制君主制の弱点をつかれたように感じていたというのだ。

「私は専制君主制に限界を感じてはおりましたが、よもや今生においてそれを目の当たりにしようとは思っておりませんでした。父王は名君とはいかぬまでも、概ね国政に問題はなかったと申し上げてよいでしょう。それが外部からの干渉があったとはいえ王族一人、兄のためだけにこれだけの事態になってしまいました。これは国政における王族の影響力の大きさ故に起きたこと。……しかし専制君主制をそう簡単に変えることなどできません。短い期間での大きな変化は歪みを伴うものです。何かが歪んでいる時、歪みの影響はそれを構成している最も弱いところに現れます。この国で言うなら、国民の中でももっとも生活力のない人々ということになるでしょう。そのような状況は何としても避けねばなりません」

 ベティはキアラ女史に聞いてもらったそうだ。

「それで王女は、何をお知りになりたいと仰るのでしょうか」

 ファティマ王女はベティに答えて言ったそうだ。

「イスバルを……議会君主制へ移行させる方法についてです」


「どうかご心配なさいませんよう!」

 あたしはハッとしてファティマ王女の声に耳を傾ける。

「今のイスバルに必要なのは、まずこの混乱を収めることです。そしてその混乱が収まりました後、まずは議会設立から計画したいと考えてはおりますが、いずれにせよ議会君主制に移行するまでの間、現在の専制君主制と並行で政治を行うことになるでしょう。皆様のご生活に響かぬよう細心の注意を払います。また私の考える議会君主制は、議会と王室とが国政においてそれぞれに責任を持ち、お互いを牽制することで政治を健全に保つのです。議会君主制への移行は数十年の月日が必要になるでしょう。しかし幸いにも私には時間がございます。私はイスバルにこの生涯を捧げることを皆様にお約束いたします!」


「……あれが?」

 あたしは複雑な気持ちでベティに聞くと、ベティも同じように複雑な気持ちをにじませて言う。

「……そうです。私は『変化に時間が必要であるなら、時間をかければよいだけなのではないか』と申し上げたのです。『幸いにも王女には時間がおありになります』と……。しかしそれが一層王女が御身をイスバルに捧げようとするお気持ちに拍車をかけてしまったかもしれません」

 クリスが溜息をついて言う。

「でもそれは……」

「そうだよ。ファティマ王女は、きっとベティがそう言わなくても同じことをしたと思う。ベティのせいじゃないよ」

 デイジーがクリスの後を続けて言った。クリスもデイジーも、ベティが心配だったようだ。

 ベティが苦笑して言う。

「ありがとうございます。そうですね。せめて少しでもそのようなファティマ様のお力になれるとよいのですが……」


「それならさ」

 あたしは一つ思いついて言う。

「あたしらが普段いる基幹ステーションからイスバルへもっと便利に通信できるようにミネルバ大佐に頼んでみたらいいんじゃないか? そうしたら普段からキアラさんとベティで話ができるじゃないか」

 ベティが言いにくそうに答えて言う。

「……確かに基幹ステーションとスクルテオ星系間での通信インフラを拡充すれば通話環境はよくなりますが、この規模のインフラ拡充にはそれなりに時間がかかります。なかなかディマジラ星系との通信のようにはいきません。ただ今でもタイムラグこそありますが通信そのものはできますし、何より直接キアラさんとお話できることは大きなことではあります」


 ファティマ王女があらん限りの力を込めて皆に呼びかける。

「私のイスバル国民たち! 兄弟たるスクルテオ星系の皆様! 私達は今、未だ混乱の最中におります! しかし必ずこの混乱を乗り越え、美しい未来を築くのです! 時間はかかるでしょう。かけねばなりません。それでもどうか希望を捨てず、皆様のお力をお貸しください! このファティマが(おの)が全てをもちまして、必ずや皆様のご期待にお応えいたします!!」


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!

 ファティマ王女の渾身の呼びかけに、イスバルの国民代表達は大歓声で答えた。あたしはその様子を切ない気持ちで見ていた。やはりイスバルやスクルテオ星系の人々はあの少女を頼るしかないのだ。それがわかっていても、あたしにはそのことがとてもやるせないことのように思えた。

 本当にこれでよかったのか……。いや言うまい。ファティマ自身が望んだことだ。あたしらはあの少女の望みを叶えるために命を懸けたのではなかったか。


「どうしたの? ジョアン?」

 デイジーが心配そうな顔をあたしに向ける。

 あたしは取り繕うように笑顔を浮かべて言う。

「何でもないさ。それより事後処理が一段落したら、メアリーローズ号をあの二人に返しに行かないとな」

「イングとベラだね。あ! ジャンヌ・ダルク号を強化してもらえてるかな? ちょっと楽しみだね!」

 デイジーが笑顔で言った。気を使わせてしまったのかもしれない。

 クリスが口を挟む。

「そうね。メアリー・ローズ号はこの辺りの銀河で最も強力な宇宙船(ふね)だとは思いますけれど、やっぱりベティにはジャンヌ・ダルク号にいてもらった方がしっくりきますわね」

 ベティもくすりと笑って言う。

「そうですね。メアリー・ローズ号は素晴らしい宇宙船(ふね)ですが、ジャンヌ・ダルク号は特別です」

 あたしもベティやクリス、デイジーに答えて言う。

「そうだな。早いとこ事後処理を片付けちまってジャンヌ・ダルク号を迎えに行こう」


 あたしらはメアリー・ローズ号でスクルテオ星系全域を回り、ファティマ王女が行う戦争状態終結後の事後処理を手伝った。メアリー・ローズ号の船足はスクルテオ星系内で早急にイスバル王室の意向を伝えて回ることにうってつけだったし、あたしらがイスバルの各領地いずれの領主でないことが中立の立場として有利に働いたのだ。それは例えばゲイリー部隊(ユニット)の連中も同様で、彼等の方はイスバル国内の各領地を回ってあたしらと同様に王室の意向を領主たちに伝えて回っていた。


 アトル王子が宣戦布告をする前にファティマ王女が訪れたスクルテオ星系内の惑星(ほし)の一つである星政府の首相が言う。

「あのファティマ王女様の演説には本当に驚かされました。よもやイスバルを議会君主制に移行されるようなご決断をなさるとは……。どなたでもできることにはございますまい。やはりファティマ様は傑出したお方ですな」

 クリスが答えて言う。

真実(まこと)に。イスバル歴代の国王様方はいずれも素晴らしい君主であられますが、ファティマ様はその最たるお方と申せましょう。それで今後のことについてですが……」

「承知しておりますとも。イスバルとはこれまでと同様のお付き合いをさせていただきます。ただ勿論イスバルからのフォース鉱石供給がこれまで通り混乱なく行われれば、ではございますが……」

 星政府首相が愛想のよい笑顔を浮かべながら釘を刺してきた。

 クリスがそれに頷きつつ輝くような笑顔で言う。

「勿論です、星政府首相殿。イスバル国内の混乱は既に収まりつつあり、これから行われる議会君主制への移行も現行制度と並行に行われるので国政そのものへの影響はございません。微塵もご心配なさるようなことはございませんわ」

 すげえ……。クリスの奴、国家間外交もできるのか。


 デイジーが苦笑して言う。

「こういう時って、僕らにできることないね」

 あたしの顔にも苦笑いが浮かぶ。

「そうだな。とてもじゃないがあたしにも無理だ。さすがお姫……おっと」

 耳ざとくクリスがこちらを向いていた。その片眉がほんのわずかに上がっている。クワバラクワバラ……。


 そうしてイスバル国内の事後処理が概ね片付き、あたしらがイスバルを離れる時が来た。ちなみにゲイリー部隊(ユニット)の連中は各領主たちとの交渉に難航しているため、もう少しこの地に留まるそうだ。イスバル国外の星政府と異なり、イスバル国内領地の領主が相手となるとファティマ王女が口にした議会への関心が強く、交渉が中々捗らないそうだ。……クリスが星政府首相に言って回っていたことと多少状況が食い違って来るが、その辺りはうまいことやってもらうしかないな。


 あたしらがイスバルを離れる日の前夜、執務室でファティマ王女があたしらに言う。

「色々とありがとうございました。事後処理までお手伝いいただいて……。クリス部隊(ユニット)の助力がなければ、これほど早くスクルテオ星系内の混乱を収めることはできませんでした」

 ファティマはキアラ女史、シャム氏の助力の元、最も混乱していた王宮内の混乱を収め終わっていた。後はゲイリー部隊(ユニット)が進めている各領地との交渉が纏まるのを待って、議会設立の為の議員選出について大臣諸侯の草案を纏める段取りになっていると言う。


 キアラ女史が目に涙を浮かべながら言う。

「本当に本当に……お名残り惜しいです。皆様には何とお礼を申し上げてよいかわからないくらいです……」

 あたしらはクリス、あたし、デイジーの順でキアラ女史をぎゅうっとした。あたしらの目にも涙が溜まっている。キアラ女史は力いっぱいぎゅうっと返してくれつつ、その頬には涙が伝っていた。


「皆様に受けたご恩は生涯忘れません……。何卒ご壮健でいらっしゃいますよう」

 あたしらはシャム氏もぎゅうっとした。シャム氏は遠慮がちにぎゅうっと返してくれた。涙を堪えているように見えたが、あたしがぎゅうっとするときに『ありがとう』と言ったら泣き出してしまっていた。悪いことしたかな……。


 ふとファティマ王女の方を見るともじもじしていた。こんな王女を見るのは初めてだった。あたしには何のことかわからなかったが、王女はおずおずとキアラ女史の方に顔を向け、キアラ女史が頷くのを見て笑顔になる。

「あの……私にもそのぎゅうっていうのを……」

 はにかんだ笑顔でそう言う王女を、あたしらは順にぎゅうっとした。あたしがぎゅうっとするとき、『あんまり無理するなよ』と言うと王女がわずかに震えたのを感じた。王女はぎゅうっと返してくれた。

 三人が順にぎゅうっとし合った後、王女があたしの方に駆け寄って抱き着いてきた。

「ジョアン……あなたはいつも礼儀知らずの傍若無人でいらしたけれど、必ず私に力をくれていました。私には兄しかおりませんでしたが、姉がいたらこのような感じかとずっと考えておりました。あなたを姉様とお呼びしたら叱られてしまうでしょうか……」


 あたしはファティマ王女が初めて見せた健気なかわいらしさを嬉しく思った。

「こんなに頑張ってる女の子から姉と呼ばれて叱る奴なんて、この銀河のどこにだっていやしないさ。あたしで良ければ姉と呼んでくれ。もっともあたしは勝手にファティマのことを家族のように思っちゃいたけどね」

「ああ! ジョアン……姉様!」

 ファティマは改めてあたしをぎゅうっと抱きしめたので、あたしはファティマの頭を撫でてやりながら言う。

「なあファティマ? お前が頑張るのを止めるつもりはないが、くれぐれも無理は禁物だ。体を壊さないように気を付けてくれよ。頼むから」

 あたしがそう言うと、ファティマは肩を震わせて泣きだしてしまった。

「ぐずっ……うっ……うぇぇえええん……ぶええええぇぇぇん!!」


 あたしは驚いたが、悲しくて泣いているのではないことだけはわかった。第二王妃が亡くなってからずっと張り詰めていた気持ちを、ようやく緩めることができたのだろう。あたしはファティマの終戦宣言を聞いて心配していたが、少し安心できたと思った。肩の力を抜くことができさえすれば、きっといい結果につながるだろう。


 ファティマ王女とキアラ女史、シャム氏は王宮の宇宙港まで送りに来てくれた。

「またいらしてくださいね! ジョアン姉様! 必ずですよーー!!」

 そう言いながら子どもっぽい笑顔で手を振るファティマのやや後ろで、キアラ女史とシャム氏がこちらに向かって深々と頭を下げているのが見えた。


「ああ! また来るからそれまで元気でいるんだぞ! 妹分よーー!!」

 あたしも手を振り返しながらそう言うと、ファティマの顔がぱあっと明るくなった。

「はぁーーい! 姉様ぁーー!!」

 ぶんぶんと手を振るファティマを見てくすりと笑いつつクリスが言う。

「名残惜しいですけれど、もう行きますわよ」

「そうだな。行くか!」

「うん! イングとベラとジャンヌ・ダルク号が待ってるからね!」

 デイジーも笑顔で続けて言った。


 さぁて、それじゃあジャンヌ・ダルク号を迎えに行こう。あたしらが新しくやり直すにはやっぱりジャンヌ・ダルク号が必要なんだ。あたしの妹分たち、ベティやファティマに胸を張れるようにしないとな!



to be continued...

読んでくださってありがとうございます!

皆様に幸多からんことを!

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