戎克号
「いやぁああああああああああ!!!」
アトル王子の宣戦布告を聞いたファティマ王女が、突然悲鳴を上げた。
その悲鳴に驚いたキアラ女史とあたしは、ファティマ王女に駆け寄った。
「ファティマ様! お気を確かに!」
キアラ女史がファティマ王女に声を掛けるが、顔を真っ青にした王女には聞こえていないようだった。ファティマ王女が口を開けたまま震えていたので、あたしは彼女を抱きしめて言った。
「ファティマ? 大丈夫だ。大丈夫だよ? 怖がらなくていい……」
しかしあたしの考えは的外れだった。ファティマ王女は自身のことで怖がっていたのではなかったのだ。
「ジョアン! 私のイスバルが! 私の国民たちが殺されてしまう! 殺されてしまうのぉお! そんなのだめ、そんなのだめ……、そんなのだめぇええ……」
ファティマ王女はそう言って泣き崩れてしまった。あたしは慟哭したままのファティマ王女を抱き抱え、医務室へ運んだ。ベティが王女に鎮静剤を与えると、彼女は泣いたまま眠ってしまった。
「ベティ? 診断を聞かせてくれ」
ファティマ王女の心の中で起こったことに、あたし自身の心が追い付いていなかった。
ベティがゆっくりと言う。
「恐らく……王宮内で起こったことと、崩れて消えてしまった星が王女の中で結びついてしまったのでしょう……。王宮内のことは、ラスタマラ家が目的のために手段を選ばないことを強烈に印象付けました。それが消されてしまった移民星と結びついたとき、王女には自分を支持してくれる全ての人々が殺されてしまう想像になってしまったのだと思われます」
ダンッ!
「くっそ! ラスタマラ家め! そうまでしてフォース鉱石が欲しいのか?!」
あたしは悔しくてジャンヌ・ダルク号の通路の壁に拳を打ち付けて叫んでしまった。
ベティがおずおずと口を開く。
「……いいえ、恐らくそれだけではありません」
「どういうことだい?」
あたしがベティに聞くと、ベティが答えて言う。
「これは皆さんにお伝えしておいた方がいいと思います。ブリッジに行きましょう」
ベティはゲイリー部隊の四人もブリッジに呼んだ。ブリッジにはキアラ女史とシャム氏、それにクリスとデイジーもいたので、医務室で眠っているファティマ王女以外の全ての人がブリッジに集まったことになる。
皆が集まった頃合いを見て口を開いたのはゲイリー中尉。
「それで? ベティさん。話っていうのは?」
そうしてベティは話し出した。
「はい。私は正直なところ、あの移民星の映像を見るまでは、ラスタマラ家の意図を測りかねていました。単にイスバル国政府の実権を握りたいだけで、王宮で起きたことや女媧を含むジャンヌ・ダルク号級の宇宙船まで必要だとは思えなかったからです。……言いにくいですが、ファティマ王女を暗殺してしまえば、多少強引でもラスタマラ家はイスバルの実権を握ることができたでしょう」
あたしは衝動的な反応を何とか抑えた。ベティがあえて冷徹な言い方をしているのだとわかったからだ。
ゲイリー中尉がベティの言うことに言い返す。
「それはその通りだが、やっぱりあの宇宙船は脅威だぜ。ラスタマラ家の威光を示したかったとか、そういうんじゃないんですかね? 奴らの好きそうなことではあると思うが」
ベティがそれを否定する。
「ゲイリー中尉の仰ることもご尤もではありますが、それであれば何もイスバルを巻き込む必要はありません。あの宇宙船なら、その存在そのものでその要件を満たせるでしょう。あのように派手な演出も不要です。どちらかと言えば秘匿しておきたかったくらいではないでしょうか」
ゲイリー中尉が渋々同意する。
「それはまあ確かに……。戦略的にも戦術的にも秘匿しておいた方が都合のいいことが多いでしょうね」
ベティが話を続ける。
「ラスタマラ家の狙いは、ある時点からイスバルだけでなく、星間宇宙軍もその標的にされていたのだと思います」
ゲイリー中尉がそれを聞いて、はっとしたような顔をする。
「ああ……。それがあの王子の『宣戦布告』ってわけか。全くラスタマラ家の奴ら……!」
あたしは例によって話についていけなくなってきたので口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれよ。あたしにもわかるように話してくれって……」
ゲイリー中尉が言葉を続ける。
「いいか? 肝心なのは奴らの目的だ。まずイスバルの実権を握るだけとした場合、手っ取り早いのは?」
あたしは渋々言葉を返す。
「ファティマ王女がいなくなること……」
ゲイリー中尉が、クスリと笑って話を続ける。
「随分穏やかな言い方だが……、まあそうだ。どんな手段であれ、ファティマ王女さえいなくなれば、後はなんとでもなる。結局国政を維持しなきゃいけないことには変わりないんだからな。誰が国王を務めていようとだ。しかしここでラスタマラ家の奴らは考える。どちらにしても星間宇宙軍がどのような形であれ、絡んでくることは間違いないだろうと。これまで他の案件でもいくらもあったことだ」
ベティがゲイリー中尉のあとを続ける。
「ラスタマラ家はファナでの一件や、クリスたちの指名手配が取り消されたことについて、かなり業を煮やしていたと考えられます。他のことではどのようなことでも思い通りにしていたラスタマラ家が、星間宇宙軍やクリスたちが絡むと途端にうまくいかなくなるのです。一般的に極端に支配欲の強い人間は、自分たちの思い通りにさせない存在を認めません。ただ自分たちの思う通りにさせないという、ただそれだけの理由でその存在を否定、もしくは取り除こうとするのです」
ゲイリー中尉がため息をついて話を続ける。
「これまでの奴らなら取れる手段も限られていた。いいとこ死の商人稼業に力を入れるくらいだ。これまで星間宇宙軍が戦争状態にある双方の星政府に対して戦争終結に向けて働きかけているところへ、裏でラスタマラ家が双方の勢力に武器弾薬を供給して戦火を拡大させようとした何てことはしょっちゅうだった。だからうちの上層部は皆、ラスタマラ家の奴らが大嫌いなんだよ。そしてそんな奴らが、突然新しい『力』を手に入れた」
ベティも珍しくため息をついて、ゲイリー中尉に続けて言う。
「あの宇宙船はこの銀河に技術革新をもたらす、まさに次世代の宇宙船です。よい目的にのみ使うなら、エネルギー問題もかなり解決したと考えられます。ジャンヌ・ダルク号にも搭載されてはいますが、仮想質量発生装置は半永久機関すら実現しているのです。それをラスタマラ家の人達は……」
クリスが口を挟んだ。
「成程……。あの宇宙船さえあれば、事実上ラスタマラ家は星間宇宙軍の軍事力を圧倒することができる。それであえてスクルテオ星系の星々を戦争状態に持ち込み、星間宇宙軍ごとアトル王子の……ラスタマラ家の反対勢力を粛清しようと考えた……と?」
ベティがクリスに答えて言う。
「そうです。残念ながら現在のジャンヌ・ダルク号では、あの宇宙船には敵いません。私が女媧に対抗することはできても、ジャンヌ・ダルク号自体は戦うことを目的に建造されてはいないからです。大変不本意ではありますが、あの宇宙船……仮に戎克号としましょうか、戎克号に対抗するには、ジャンヌ・ダルク号と私自身の機能改修が必要です」
あたしは驚いて言った。
「機能改修?! そんなこと一体どうやってできるっていうんだい?!」
そうしてベティは、決意めいた口調で言ったんだ。
「一旦、創造のイマジナリーズの母星に帰りましょう」
to be continued...
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