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イマジナリーズ  作者: マキシ
第三章 王と戦争
31/38

宣戦布告

「諸君らが無事であったことを、まずは喜ぼうではないか」

 ミネルバ大佐はそう言ってくれた。ありがたいことだ。


 クリスがモニタに映るミネルバ大佐に頭を下げる。

「……お気遣い感謝いたしますが、任務を全うできなかったことは事実です。申し訳ありませんでした。……それで今、軍の方の状況はいかがでしょうか」


 ミネルバ大佐が苦笑して言う。

「そうだな……。残念ながら、お世辞にもよいとは言えない状況だ。イスバル王室は星間宇宙軍の軍人がファティマ王女をかどわかし、イスバル国家に混乱を招いていると上層部に訴えてきているところだ。早々にファティマ王女を引き渡せとね。私も各部署の上層部から、ひっきりなしに状況を聞かれている真っ最中だよ。……それで聞きにくいところではあるのだが、ファティマ王女は今、何をされているのかね?」


 クリスが眉を(ひそ)めて答える。

「何も……。イスバルから脱出してからというもの、未だにお食事も喉を通らない状況であられます。幸いにもお付きのキアラという女性を王女とご一緒に救出できておりますので、引き続き彼女にファティマ様の身の回りのお世話をお願いしているところですが……」


 ミネルバ大佐が珍しく歯が痛くなったような表情で言う。

「それは不幸中の幸いといったところではあるが……、ファティマ王女ご自身から状況の説明をしていただくことはできないかね? こちらも時間稼ぎには限界があるものでね」

「……その件につきましては、改めてご報告させてください」

 クリスはそう言うのがやっとだった。


「どうだい? 様子は?」

 あたしはファティマ王女が休んでいる部屋から出てきたキアラ女史に聞いた。

 キアラ女史が苦しそうな表情で答える。

「何も……お変わりになりません。余程衝撃が大きかったご様子です」

 無理もない。王族とは言ってもまだ十五歳の少女なのだ。ショックを受けない方がおかしい。……酷な話だ。

 あたしはキアラ女史に気になっていたことを聞いた。

「キアラさんとシャムさんの方はどうなんだい? ……お二人だってショックだったろ?」

 キアラ女史が力のこもらない笑顔で言う。

「はい。お気遣いありがとうございます。私もシャムも、こう見えて王族側近を務めるにあたってそれなりの訓練は積んでいるんですよ。肉体的にも、精神的にもです」


「王女はまだ……?」

 ジャンヌ・ダルク号の通路の奥から、心配そうな顔でこちらを伺っているのはパットことパトリシア少尉だ。あたしはパットに答えて言う。

「ああ……。王宮でのことが余程ショックだったらしい。驚くくらい気丈な少女だったのに、酷な話だよ」

 パットがため息をついて言う。

「無理もないよ。あたしだって初めての任務で人が撃たれるところを見た時は、しばらく恐くて眠れなかったもの……。しかもそれ、ハタチ過ぎてからの話だよ?」

 そうだな……。もしからしたら普段気丈に振舞っている分、精神的なショックには弱いなんていうこともあるのかもしれない。立ち直れないなんてこともあるだろうか……?


「……状況を教えてください」

 突然聞こえてきたファティマ王女の声に、あたしもパットもキアラ女史も、口から心臓が飛び出すくらい驚いた。部屋からよろよろと出てきたファティマ王女に、すぐ様キアラ女史が駆け寄って言う。

「ファティマ様! お休みになっていらっしゃらなくてよろしいのですか?!」

 王女の目に光はなく、足元はふらつき、顔色は真っ青のままだった。

「……心配をかけました。私は休んでなどいられません。恐らくイスバルは混乱の最中にあるでしょう。早く私をイスバルに返してください」


「恐れながら、ファティマ様」

 いつの間にかクリスが近くまで来ていた。続けて王女に話しかける。

「今イスバルに戻れば、第一王妃暗殺の首謀者として断罪されるだけです。ここはどうかご辛抱いただくよう、お願い申し上げます」


「イスバルがそれを私に望むのなら!」

 ファティマ王女は初めて声を荒げて言った。

「……私は死など厭いません。イスバルの為に死ぬのなら本望です」

 その言葉を聞いて、あたしはさすがに腹が立ったんだ。


 ゴンッ!

 あたしはファティマ王女の頭にゲンコツを食らわせてしまった。ファティマ王女が目を丸くしてあたしを見る。

「……???」

「頭を冷やしてくれ、王女。今イスバルに戻ったりしたら、ラスタマラ家の思惑通りに処刑されてしまうだけだ。そんなことラスタマラ家の奴ら以外、望んでいる人なんていないよ。あんたはイスバル国民を愛しているんだろう? イスバル国民だって同じだよ。……そのイスバル国民の前で、あんたを処刑させるようなことをしないでくれ」

 キアラ女史とクリス、パットまで目を丸くしていたが、あたしがそう言うと何も言わずに俯いた。


「うふふふふ……、あはははは!」

 突然ファティマ王女が笑い出した。キアラ女史がファティマ王女に心配そうな顔を向ける。

「ファティマ様……?」


 ファティマ王女の顔は青白いままだったが、目には光が灯ってきていた。

「頭にゲンコツをいただくのなんて久しぶり……。お母様を思い出しました。私が小さい頃、あまり聞き分けがないと時々お母様からゲンコツをいただいていたのですよ。キアラは知りませんでしたか?」

 キアラ女史が涙ぐんだ笑顔をファティマ王女に向ける。

「存じませんでした……。ファティマ様は七歳の頃には、もう大人顔負けのお人でしたから……」


「危うくお母様にきついお叱りを受けるような事態になるところでした。感謝します、ジョアン殿。これからのことを相談させていただきたいところですが、まずは食事を摂ります。キアラ? 頼んでいいかしら?」

 ファティマ王女がそう言うと、キアラ女史が弾けるような笑顔で答える。

「はい! すぐに温かいお食事をご用意いたします! こちらへ!」


 キアラ女史に連れられてファティマ王女が食堂に向かって歩き出した後、クリスがあたしに向かって言う。

「……危うく国際問題になるところでしたわ」

 それを聞いてパットが噴き出す。

「ぷっ! くっくっくっ……あっはっはっはっ!」

「笑いすぎだよ、パット」

 あたしが、にやりと笑ってそう言うと、パットが言い返す。

「だってぇ、ジョアンらしいと思って……。ねぇ? ベティさん?」


 一部始終の話を聞いていたらしいベティが、ほっとしたような声で言う。

「そうですね、さすがはジョアン姉さまです。……ところでパトリシアさん、そろそろ私を呼ぶときの『さん』づけはおやめになりませんか?」

 パットが、ニカッと笑って言う。

「そお? じゃあ、あたしもパットでいいよ!」

 クリスも、にっこり笑って言う。

「あらあら。いつの間にか、みんな仲良しね」


 ファティマ王女は食堂でキアラ女史の作った食事を摂った。この時ばかりはベティはキアラ女史に調理を任せ、手伝う以上のことはしなかった。今の王女に必要なのは、全きイスバルの伝統料理だと判断したのだ。

 ファティマ王女はひどい空腹であるはずなのに、完璧なマナーでゆっくりと食事を摂った。あたしとデイジーなどは、その様子に見とれてしまうほどだった。

 その後、数時間の睡眠をとったファティマ王女が言う。

「ありがとう。お陰様で少し体調も整いました。ミネルバ大佐とお話しさせてください」


 ジャンヌ・ダルク号ブリッジの正面モニタに映し出されたミネルバ大佐がファティマ王女に頭を下げる。

「お初にお目にかかります、ファティマ王女様。星間宇宙軍大佐、ミネルバです」

 王宮内ではないので、イスバル様式の挨拶ではない。

 ファティマ王女が笑顔で答える。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした、ミネルバ大佐殿。星間宇宙軍のご協力には、言葉に尽くせぬ程の感謝をしております。状況を教えてくださいますか?」


 ミネルバ大佐は、ほっとした様な笑顔になった後、事務的な口調でイスバル王室からの抗議や、星間宇宙軍上層部からの情報提示請求などについてファティマ王女に伝えた。

 ファティマ王女が頭を下げて言う。

「一族の者が随分ご迷惑をおかけしているようですね。兄に変わってお詫び申し上げます。今後の方針ですが、まずは味方の数を少しでも増やす為、星系内の私を支持してくれている星政府を廻って、状況説明と改めての協力要請を行いたいと思っています。星間宇宙軍には、ご協力をお願いできるでしょうか」


 ミネルバ大佐が、にっこり笑って言う。

「勿論でございます、ファティマ王女様。それでご面倒かもしれませんが、まずは星間宇宙軍の何人かの上層部の人間と直接お話していただくようにお願いしたいのですが、宜しいでしょうか」

 ファティマ王女も答えて言う。

「はい。直接お話して、お詫びとご協力のお願いを致しましょう。その方たちとお話できるように計らってください」


 それからファティマ王女は、星間宇宙軍の上層部の何人かとモニタ越しに会談したんだ。

 星間宇宙軍上層部の老将校が言う。

「成程、状況はわかりました。……災難でございましたな。我々としましても、ラスタマラ家の好きにさせるのは面白くありませんのでな。どこまでもとはお約束できませんが、できる限りのことはさせていただきましょう」


 ファティマ王女が頭を下げる。

「ありがとうございます……。星間宇宙軍の方々には色々とお世話になりました。感謝の言葉もありません。……兄のことも申し訳なく思っています。父王は私の母である第二王妃を迎えるにあたり、一人目の伴侶である第一王妃に負い目を感じていたようです。それが為に兄を我儘放題にさせてしまいました。王族として自覚が足りなかったと言わざるを得ません」

 老将校が苦笑して言う。

「そう厳しいことを仰いますな……。それが人の情と言うものでありましょう。諸悪の根源は、そうした人の情につけ込むラスタマラ家の奴ばらです。彼奴(きゃつ)らはどこまでも力をつけてきておりますが、どこかで歯止めをかけてやらねばなりますまい」


 そうしてファティマ王女とあたしらは、スクルテオ星系のファティマ王女派の星政府を回り、状況の説明と協力要請を繰り返して行った。

 ある星政府の首相が言う。

「左様なことが……。それは大変でございましたな。そういう事情であれば、私どももできる限りのことは致しましょう。ところで私のところの国民たちは、ファティマ王女が大好きでしてな。できましたらお声掛けなどいただけませんかな」


 ファティマ王女はその申し出を受けた。屋外は危険ということで、その星の放送局からヴィデオ受信機を通した人々に対する意思表明を行ったのだ。

「私の兄がご迷惑をお掛けしております。彼はラスタマラ家の言うがままに踊り、自身の母が彼等の策謀によって手にかけられたことにすら気が付いていないのです。重大な責任を持つ者にとって無知は罪です。私はイスバルに戻って事態を正すつもりでおります。どうぞ皆様には温かいご支援をいただきますよう、お願い申し上げます!」

 その星の人達は、健気な十五歳の王女を熱烈な声で応援した。


 ファティマ王女とあたしらは各星政府を回る際、同じようにヴィデオ受信機を通した各星政府国民に対する意思表明を行うようにした。効果はてき面で、どの星の人達も健気な王女が大好きになった。あたしらは一度感じた絶望感から、抜け出すことができると感じられるようになった。


 そんな時だった。突如ベティが動揺した声を上げる。

「大変です、皆さん! これを見てください!」

 そう言ってベティが見せてくれたのは、スクルテオ星系のある惑星を映し出した映像だった。

「これは……?」

 あたしは事態がわからずに聞いた。


 ベティが深刻な声になって言う。

「アトル王子の言うことと、これからこの映像で起こることを見てください」

 アトル王子の言うことが聞こえる。

「我が妹が諸君らに迷惑をかけているようで申し訳なく思う。しかし心配には及ばない、すぐに妹は私に許してくれと懇願するようになるだろう。ファティマ! これを見ろ!」


 その惑星は星系内で随分昔に放棄された移民星のように見えた。移民された後、惑星状況の変化などで住環境の維持が困難になり、放棄される星が時々あるのだ。画面に見える星はかなり古い移民星のようで、住人はいないように見えた。

 ベティが深刻な声のまま言う。

「ここからです」


 その星はゆらゆらと揺らめいたと思うと、少しずつヒビが広がり、たちまち崩れて消えていってしまった。そして一瞬光ったかと思うと、その星のあった辺りには何もなくなってしまった。

 ベティが説明してくれる。

「あの移民星は突如現れたナノブラックホールに引き寄せられ、粉々になって吸い込まれてしまいました。ナノブラックホールは移民星の質量を飲み込んでから蒸発するように計算されて生成されていたようで、移民星を飲み込んだ後、その質量をエネルギーとして放出して一緒に蒸発してしまいました。こんなことができるのは、あの宇宙船(ふね)しかありません」


 アトル王子の声が再び響く。

「どうだファティマ! これぞ正義の力だ! 偉大なるイスバルは、お前の味方をする星政府に対して、宣戦を布告する! お前が自らの過ちを認め、今すぐイスバルに戻って私に許しを乞わないということであれば、お前に味方するような心得違いの星どもを、住民ごと古い移民星と同じ運命にしてやる! はぁっはぁっはぁあ!!」



to be continued...

読んでくださってありがとうございます!

皆様に幸多からんことを!

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