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イマジナリーズ  作者: マキシ
第三章 王と戦争
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王宮の惨劇

「大楯!!」

 クリスの声が響く。と同時に王子、王女を含む会議式典参加者達の前に大楯が出現する。

 危機が迫っていることを知っているのはインカムを付けたクリス部隊(ユニット)とゲイリー部隊(ユニット)のメンバだけなので、突然目の前に大楯が出現した会議式典出席者だけでなく、王宮前広場に集まった国民たちまで戸惑いを見せて騒ぎ出した。


「何事だ?!」

 アトル王子が声を上げた。ファティマ王女も事態を悟って声を上げる。

「敵襲ですか?!」

 クリスが大声で答える。

「敵襲です! 皆様、王宮の中へご避難ください!」


 王宮前広場では、エリック少尉とパット少尉の声が響いでいる。

「王宮近衛兵! 緊急事態だ! 国民たちを広場から退避させろ! 早く!!」


 しかしここでアトル王子がいつもの文句を言い始める。

「貴様ら! 国外軍人の分際で会議式典の邪魔をするつもりか?! 我々を守るのが役目だというなら、このまま守って見せろ!」

 王子が余計なことを言ったお陰で、避難を始めた会議出席者たちが動きを止めてしまった。突然現れた金属製の盾も彼らに僅かな安心感を与えてしまったようだ。何てこった!


 『女媧(ジョカ)』なる女の声が響く。

「あっはっはっはァ?! 残念(ざァんねん)ですわァ、クリスティーナさァん! タングステン合金なんかで彼等の強化レーザーライフルは防げませんわよォおお!!」


「飛行物体が王宮に到達します!!」

 ベティの悲痛な声が響く。ベティのこんな声を聞くのは初めてだった。


 突然何もない横一線の空間から、耐Gスーツに身を包んだらしい人の姿が次々と現れた。どうやら飛行物体が王宮前を通過する際に飛び出してきたらしい。

 ベティの声が響く。

「敵兵確認! その数、十二です!」

 彼らはパラシュートを開いてゆっくりと落下しつつ、皆それぞれ手にしている巨大なライフルのような武器をバルコニーの方に向けていた。


「ライフルの照準は私が完全補正しておりますからァ、落下しながらでも命中率は百%……」

 女媧(ジョカ)の声が途切れる。どうやらベティが女媧(ジョカ)のアタックを防げるようになった様だ。とはいえ危機的状況は全く変わっていない。

 あたしは『風』になって飛び出した。


 彼等に近づいて行くと、もうトリガに指が掛かっているのが見える。あたしは『風』になってしまうとインカムによるベティのサポートも受けられないので、ライフルの射程もわからなかった。くっそ! せめてそれ位聞いてから飛び出すんだった!


 いくら訓練されたあたしの刃の嵐(ブレイド・ストーム)でも、こうも距離を取って広がっている十二人もの敵兵を数秒以内に無力化することなど不可能だ。ブライアンと言う男は、どこまでもこちらの弱みを突いてくるように見えた。

 このままではファティマ王女が……、あの健気な十五歳の少女の命が……。そう思ったあたしは、今まで感じたことのなかった危機感が急激に心の底から沸き起こって来るのを感じていた。


 突然、あたしの周囲の風景が止まる。

 そしてあたしは、スタンリー中尉との訓練に入ってすぐに見せてもらった、母さんの『血塗れの嵐(ブラッディ・ストーム)』の映像を思い出していた。


 母さんの『血塗れの嵐(ブラッディ・ストーム)』は、あたしが変化(チェンジ)している『風』とは根本的に違うもののように見えたんだ。うまく言えないが『風』という現象ではなく、母さんを取り巻く空間そのものになっているような、そんな印象を受けたんだ。

 『母さん』は地上百ヤード、直径二百ヤード程の半球の範囲で凄まじい嵐となり、その嵐に含まれた無数の極小カミソリのようなカマイタチで敵兵たちを血に染めた。装甲なども猛烈な数の斬撃でズタズタになっていた。

 少なくともその時のあたしには、とてもではないが手の届かない領域に思えて『血塗れの嵐(ブラッディ・ストーム)』を追うことは一旦諦めていたんだ。


 その瞬間、『あたし』はその範囲が直径二百ヤード程の球状に広がった。あたしは『あたし』の中で起こっていることの全てを肌身で感じることができた。


 十二人の敵兵たちの息遣いと鼓動を感じる……。彼等には標的(ターゲット)に対する敵意などはなかったが、固く冷たい使命感から必ず任務をやり遂げるという決意があった。

 そして次の瞬間、あたしは叫んでいた。

血塗れの嵐(ブラッディ・ストーム)!!」


 ビュォオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 十二人の敵兵達をすっぽり覆っていた『あたし』は、凄まじい嵐とそれに含まれた極小のカマイタチで彼等全てを文字通り血に染めた。彼等の命を取るところまではしたくなかったが、僅かでも手加減を誤ることは、ファティマ王女が狙撃されてしまうことを意味していた。


 血塗れになった十二人の敵兵達の指全てがライフルのトリガから離れたことを感じたあたしは、ようやく嵐を止めた。王宮前広場には彼等十二人の血が霧雨のように降っていたが、まだ十二人の敵兵達から僅かな息遣いを感じていたので、あたしは少し安心していたんだ。王宮前広場では逃げ遅れた国民たちが、真っ赤な霧雨をその身に浴びて悲鳴を上げていた。


 そしてあたしが地上近くまで降りてきたとき、あたしは突如感じたバルコニー内の殺意に戦慄した。

「クリス! 法務大臣を止めろぉ!!」

 あたしと距離のあったクリスは、あたしの声が聞きとれずに不思議な顔でバルコニー内を見回していた。


 ファティマ王女派の法務大臣が、第一王妃の背後に忍び寄ったかと思うと、左手を王妃の体の前に回して動けないようにした。

 デイジーが反応して法務大臣に駆け寄ろうとするが、ゲイリー中尉が止める。

「よせ! ナイフを持ってる!」


 王妃が突然のことに動揺して叫ぶ。

「何をするか!? 無礼……」

 法務大臣は血の気のない表情のまま、右手に握りしめたナイフを振りかざす。

「ファティマ王女様のご命令でございます! お覚悟!」

 法務大臣はそう言って、ナイフで第一王妃の喉を切り裂いた。


 第一王妃の喉から血が噴き出し、顔からみるみる血の気が失せて倒れた。法務大臣が再び叫ぶ。

「偉大なるイスバルに! ファティマ王女様に栄光あれ!」

 法務大臣は自分の喉も切り裂いて、第一王妃の上に崩れ落ちた。数秒、バルコニーにいた全員が凍り付いたようにその場から動けなくなった。たった一人を除いてだ。


 はっとしたクリスがファティマ王女の方を見ると、ファティマ王女の顔からは血の気が引いて真っ青になっていた。口からは言葉にならない声が漏れる。

「あ……、あ……?」

 一体何が起こっているのか、一人を除く全員が理解できずにいた。

少しずつ法務大臣が絶命する前に口にした『王女の命令』という言葉が皆の頭によみがえってくる。


 最初に動き出したのはアトル王子だ。法務大臣の下敷きになったままの第一王妃に駈け寄って叫び声を上げる。

「うあぁぁあああ! 母上ぇええええ!!」

 すかさずロバート氏が王子に駆け寄って鋭く声を掛ける。

「王子、お気を確かに! まずは犯人を捕らえることが先決では?!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたアトル王子が、ロバート氏に反応して声を上げる。

「ファティマぁあああ! よくも母上をぉおおおお! 近衛兵! ファティマを捕らえろぉお!!」


 激高したアトル王子に涙に塗れた憎悪の表情を向けられたファティマ王女は、真っ青な顔で首を振っているだけだった。

(ちが)……、わた……」

 近衛兵たちはどうしてよいかわからず、ただおろおろとしているだけだった。


 あたしは地上でパット達が国民代表たちを避難し終えたことを見届けてから、バルコニーに移動して能力を解除した。

「クリス! ファティマ王女を連れて逃げろ!」


 あたしの声に反応したクリスが、ファティマ王女に駆け寄って言う。

「ファティマ様、ここは一旦国外へ避難いたしましょう」

「い……(いや)……」

 ファティマ王女は嫌がったが、クリスは耳を貸さずに王女を抱きかかえてバルコニーから飛び出し、能力を発動する。

「六枚の大翼(たいよく)!」

 クリスの背中から三対六枚の大きな翼が現れて羽ばたき、王宮上空で待機しているジャンヌ・ダルク号に向けて飛び上がってゆく。

「奴らを逃がすな!」

 ロバート氏が声を上げる。近衛兵たちがおろおろしながらバルコニーを後にする。


 成り行きを見届けつつ、ゲイリー中尉がキアラ女史とシャム氏を退避させる。

「キアラさん、シャムさん。こちらです、お急ぎを!」

 ゲイリー中尉が先導して、まだ茫然としたままの二人をバルコニーから連れ出す。デイジーとヒックス伍長は二人の後について、後から追って来る者がいないことを確認しながら退避する。アトル王子とロバート氏はバルコニーの外に目が向いているので、キアラ女史達の動きには気付いていないようだった。


 王宮前広場まで来たゲイリー中尉達は、エリック少尉、パット少尉とも合流して、事前に配置してあった緊急脱出用小型宇宙船(ポッド)に乗り込み、できるだけ目立たないように王宮から離れた。

 ゲイリー中尉が独り言ちる。

小型宇宙船(ポッド)を用意しておいて助かったな。こんな事態になるとは予想できなかったが……」


 クリスはファティマ王女を抱きかかえたままジャンヌ・ダルク号に向かって飛びながら、思いの外小柄なファティマ王女に驚いていた。

「こんなに軽いなんて……」

 ファティマ王女は初めての飛行にも関わらず何も反応を見せず、茫然とした表情でクリスに抱きかかえられているままだった。

「……」


 ファティマ王女を抱えたクリスが飛び去り、ゲイリー中尉達が脱出したことを見届けてから、あたしもこっそり『風』になってバルコニーを後にした。とその時、王宮前広場に落下した直後はまだ息があったはずの十二人の敵兵たちから小さな爆発が起こっているのが見えた。……どうやら完全に絶命してしまったようだ。

「なんてことを……」

 証拠を残さないためだろうか……。あたしはラスタマラ家の徹底した非情さに、これまで感じたことがないくらいの強い怒りを覚えていた。


 ファティマ王女を抱えたクリスのジャンヌ・ダルク号到着とゲイリー中尉達の乗った緊急脱出用小型宇宙船(ポッド)の収容、それにあたしがジャンヌ・ダルク号に乗り込んだことを確認してから、ベティが静かに言った。

「皆さん、お席についてください。イスバルから脱出します。」


 あたしらの初任務は、こうして失敗に終わった。



to be continued...

読んでくださってありがとうございます!

皆様に幸多からんことを!

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