全イスバル臨時合同会議
「あーー! ジョアーーン!!」
王室所有の宇宙港に迎えに行ったあたしらに手を振っているのは、パットことパトリシア少尉。精鋭ゲイリー部隊の紅一点だ。
「久しぶりだね、パット。元気だった?」
あたしは久しぶりにゲイリー部隊の連中に会えて嬉しかった。パットが笑顔で答える。
「元気、元気! ここんとこ重たい任務もなかったから、今回うちに声が掛かってうれしかったよ」
クリスがゲイリー部隊のリーダー、ゲイリー中尉に右手を差し出しながら笑顔で声を掛ける。
「お久しぶりですわ、ゲイリー中尉。やはりあなた方が派遣されてきましたのね」
ゲイリー中尉も、にやりと笑って差し出されたクリスの右手を握りしめる。
「ある程度、話は聞いていますよ。中々厄介な状況のようですね。まずは詳しい状況を伺いたいですが、ともあれ我々でできることなら何でもお手伝いしますよ」
「お久しぶりです、クリス大尉。お元気そうで何よりです」
キリリとした顔をクリスに向けて挨拶しているのは、エリック少尉。クリスも笑顔で答える。
「お久しぶりですわ、エリック少尉。頼りにしていますよ」
「勿論っす! 俺がくりゃ万事OKっすよ、頼りにしてくださいっす!」
エリック少尉の顔が一瞬でへらへら顔に変わってしまった……。
「デイジー! 元気だったか? 風邪なんかひいてないか? 俺のところに嫁に来る準備はできたか?」
ヒックス准尉は相変わらずのお調子者らしい。もっとも彼は、あらゆる作戦行動から後方支援、諜報活動までこなせるゲイリー部隊随一の優秀な軍人なのだ。まだ軍に所属してからの年数が浅く、准尉という階級ではあるが、星間宇宙軍きっての精鋭、ゲイリー部隊に准士官という階級で所属しているのは、その証と言える。
クリスは全イスバル臨時合同会議開催にあたり、ファティマ王女に了承を得てミネルバ大佐に増援を依頼したのだが、その増援としてゲイリー部隊の連中が派遣されてきたってわけだ。
ファティマ王女に増援許可を依頼した日の夜のことだ。クリスとあたし、それにデイジーは、ベティも加えて改めてクリスの部屋で今後のことについて話し合っていた。
「増援に来るのは、ゲイリー中尉の部隊かもしれませんわね」
クリスはそのことをある程度予想していた。あたしは不思議に思ってクリスに聞いたんだ。
「へえ? そりゃ彼等が来るなら嬉しいけど、顔馴染みだからってゲイリー中尉のところの連中が来るとは限らないんじゃないか? クリスには何か思い当たることでもあるのかい?」
あたしがクリスにそう聞くと、クリスが苦笑いをして言ったんだ。
「……少し言いにくいんですけれど、私たちが軍に所属して間もない頃、ヒックス准尉が私たちに声を掛けてくれたのは、偶然ではなかったらしいんですの」
あたしはその意味を掴みかねて、改めてクリスに聞く。
「どういう意味だい?」
デイジーが口を挟む。
「何となくわかる……。あえて僕たちが軍に馴染みやすいようにしてくれてるような感じはしてたから……」
真剣か……。何も感じていなかったのは、あたしだけらしい。二人ともその時はスタンリー中尉との訓練で随分消耗していたはずだが、よくそんなことに気が回ったものだ。……それとも、単にあたしがニブイだけなのだろうか……。
「ジョアンはスタンリー中尉との訓練で一番消耗していましたから……。気になさることはないと思いますよ」
そんなフォローをしてくれたのはベティ。やっぱり我が妹分は優しいぜ……。
デイジーが不思議そうな顔でクリスに聞く。
「……でもだからって、今度の増援がゲイリー部隊だっていうのは、僕もわからないよ。どういうことなの? クリス?」
クリスが言いにくそうに答える。
「ヒックス准尉が初めて私たちに声を掛けてくれた日の夜、ベティに頼んでゲイリー部隊の実績を調べてもらったら、ものすごい実績だったので驚いたのです。それでそれとなく彼等に話を聞いてみると、食事の時間帯もほぼ私たちと重なっているようでしたから、誰かの意思が働いて彼等が私たちと接触している可能性についてベティに話したのです。そうしたら……」
ベティが後を続ける。
「それで私がヘレナにそれとなく聞いたところ……、ヘレナから『そんなこともあるかもしれません……。ああ勿論、悪い意図などありませんよ! 大佐はクリス部隊の人達が軍に馴染めていなさそうなのでご心配なさっていたのです。ああ、お姉さま! このことはどうか大佐にはご内密に……』と言うことを聞いたのです」
あたしはAIが『内緒にして欲しい』と言ったことに少し驚いたが、それほどヘレナは人に近い感覚を持っているということなのだろうかと思った。ヘレナはまだ試験段階のAIだという話だったが……。
おっと、そんなことよりゲイリー部隊の話だ。
あたしは少しおかしくなって言った。
「なんだ、ミネルバ大佐って何だか……、あたしらのお母さんみたいだな」
クリスが、プッと吹き出して言う。
「本当! そう言われればそうですわ。少しおせっかいと思わなくもないですけれど、気にしてもらえるのはありがたいですわね。……で、そのお母さんとしては、私たちが軍に馴染めるように協力を頼むのなら、可能な限り優秀な軍人を選ぶだろうということですわ」
あたしは、やっとクリスの言うことが腑に落ちて、何だか笑ってしまった。
「あっはっはっは! ミネルバ母さんとしちゃ、あたしらが困っている時に誰に協力を頼むかっていえば、あたしらが軍に馴染めるように協力を頼んだ相手と同じってわけか、やっとクリスの言っていることがわかったよ」
デイジーも、くすくす笑いながら言う。
「ミネルバさんって見た目はすごくクールそうなのに、随分面倒見のいい人なんだね。母さんがミネルバさんを頼る様に言ったのって、きっとそういうところもあるんだね」
クリスが改めてあたしらに言う。
「背景の事情が何にせよ、臨時合同会議にあたって彼等程優秀な人たちに協力し貰えるのなら、とても心強いですわ。少数精鋭という方向性も今度の任務に必要な要素の一つですから……。到着するのが彼等にせよ、そうでないにせよ、増援が到着し次第情報を共有して、会議には万全な体制で臨みたいところですわね」
そうしてあたしらは、イスバルに到着したゲイリー部隊の連中と現状の情報を共有するための打ち合わせに入った。
まずゲイリー中尉が口を開く。
「まず確認させて欲しいんだが……。ジャンヌ・ダルク号の情報っていうのは、どこまで共有してもらえるんだ? ミネルバ大佐から聞いた話では、軍所属の宇宙船ではなく、クリス部隊が軍に所属するにあたって持ち込んだ私有船だって事だったが……」
クリスが答えて言う。
「できる限りの情報は共有しますわ。ただ技術的なところは私では説明できませんから、詳しいところは都度、うちのAIのベティに聞くようにしてください」
一緒に作戦行動をする以上、必要な情報を共有することは、ゲイリー部隊メンバの命に関わることだ。ゲイリー中尉としては一番気になるところだろう。クリスも腹を括った様だ。
ベティが自己紹介をする。
「初めまして、ゲイリー部隊の皆様。AIのベティと申します。できる限り皆様のサポートをさせていただきます。どうぞ宜しくお願いいたします」
パットが驚いたように言う。
「初めまして、ベティさん……。驚いた……。こう言っては何だけど、とてもAIと話しているとは思えません。……あ、気に障ったらごめんなさい……」
ベティが答えて言う。
「いいえ、どうぞお気になさらず。私がAIだということは事実ですし、そう認識していただくことは、作戦行動でも必要なことだと考えております」
ゲイリー中尉が、にやりと笑って言う。
「成程……。軍が試験的にサポートAIを導入しているって話を聞いたことはあるが、どうもジャンヌ・ダルク号はその先を行っているようだな。実感としてジャンヌ・ダルク号の凄さが分かってきたように思いますよ、クリス大尉」
クリスが状況説明を始める。
「まず現状について改めて説明します。数日前、ベティがイスバル近郊の宙域で正体不明の重力波を検出しました。これはジャンヌ・ダルク号がステルス機能を使用した時と同じ現象だとベティは言っています」
ゲイリー中尉が質問する。
「具体的には?」
ベティが答えて言う。
「はい。ジャンヌ・ダルク号の最も重要な機能として、通常空間に干渉するものがあります。通常空間に干渉することで、空間を歪めて外部からの光学探査やレーダー波などを透過させたり、航行時には宇宙船を進行方向に『落下』させて巡航させることが可能なのです。その代わり機能を使った時特有の重力波が発生するのですが、現在の星間宇宙軍にその重力波を検出する技術はまだありません」
ゲイリー中尉が呆れたように言う。
「そんなことが必要になることが今までなかったからな……。エライことをさらっと言うね、ベティさん。率直に言ってジャンヌ・ダルク号の技術体系は、軍の何年位先を行っているんです?」
ベティはおずおずとした口調になって答える。
「……通常空間に干渉するには、操作都度に高度なプログラミングが必要なこともあり、非常に高機能なAIが欠かせません。そういう意味でも、……少々言いにくいのですが、ざっと五十年程は先に行っているかと……」
ゲイリー中尉が頭を抱えて言う。
「そうだな……。こちとら基本的には、未だに燃料を燃やして宇宙船の推力にしている技術体系から抜け出せていないからな……。そんでそのびっくり技術体系を、敵さんも持っているってわけか……。こりゃ確かにエライことだな……」
それからあたしらは、クリス部隊、ゲイリー部隊のそれぞれで、どう分担して王族の護衛をするかを話し合った。ざっくり言えばクリス部隊がファティマ王女一行、ゲイリー中尉とヒックス准尉がアトル王子一行、会議に出席する各領主と大臣諸侯、パット少尉とエリック少尉が一般国民の安全を担当することになった。
ファティマ王女一行以外の護衛担当が薄く感じるところだが、恐らく標的になるのはファティマ王女であり、その他の護衛対象については数百人の王室近衛隊がいることもあるので、それで充分に思えた。
ゲイリー中尉が言う。
「こういう時は、頭数だけあっても仕方ないことが多いからな。うちの部隊は王室近衛隊の指揮を執ることがメインになるでしょうから、こんなものでしょう」
それからの数日間、クリス部隊とゲイリー部隊、それに王宮近衛隊との意識合わせの場を何回かこなした後、あたしらとゲイリー部隊の連中は、臨時合同会議に臨む準備ができたと感じていた。
そうして全イスバル臨時合同会議の日がやってきた。
宮殿の大広間に集まったのは、六つの領地から派遣されてきた代表者とその補佐をする人、王宮の大臣諸侯、アトル王子とファティマ王女、ロバート氏とキアラ女史、そして王族の護衛としてクリス部隊とゲイリー部隊のメンバだ。
アトル王子が不快感を隠さずに言う。
「何だ、目障りな星間宇宙軍の奴らが増えているじゃないか」
ゲイリー中尉が表情も変えずに言う。
「偉大なるアトル王子様。ご不快にお感じになられますのもご尤もでございます。卑しいながらも我々はイスバルの未来を担う王族の方々をお守りするようファティマ様から仰せつかっておりますので、何卒ご辛抱いただくよう、伏してお願い申し上げます」
こんなことはゲイリー中尉も慣れっこのようだ。言い返す言葉を思いつかなかったのか、アトル王子は、フンと鼻を鳴らすだけだった。
出席者の全員が席に着き、全ての護衛担当が配置についてから、臨時合同会議を招集したファティマ王女が会議開催を宣言した。
「それでは、第十一回全イスバル臨時合同会議を開催します」
王宮の上空にはジャンヌ・ダルク号が待機しており、少なくともミサイルのような兵器であればジャンヌ・ダルク号から狙撃できるようにしていた。ジャンヌ・ダルク号は建物を守ることであれば、その機能を生かすことができる。王宮内や入り組んだ街中といった状況では難しいが。
そして王宮前広場の隅には、事前にファティマ王女から許可をもらっていた緊急脱出用小型宇宙船を配置する。王宮内ではファティマ王女を守り切れないと判断した時には、この小型宇宙船で避難するのだ。
会議で話し合われることは、既に会議参加者全員に伝えられていた。主題はたった一つ。イスバルの王位継承権を持つ者が、次期国王となる意思表明を行うことだ。
会議開催中にファティマ王女が危険に晒されることは考えにくかった。広い大広間では、護衛の者よりも王族の近くに寄るのは難しいのだ。
王位継承の意思表明は、アトル王子から行うことになっていた。彼は席を立って堂々と言い放った。
「私はイスバル国王位を継承する意思があることをここに宣言する! 私が国王になった暁には、イスバルは更なる発展を遂げると断言しよう。なぜなら全銀河最大の実業家であるラスタマラ家が、私の支持を表明してくれているからである。イスバル王家とラスタマラ家は、このアトルの国王即位をもって、共に全銀河の覇者となるものである!」
アトル王子派の三領地の代表と大臣たちが、アトル王子に盛大な拍手を送る。王女派は……、まあそれなりの拍手を送った。クリスとあたしは儀礼的な拍手を送り、デイジーはやっぱりあくびをかみ殺すのに苦労していた。
そして次にファティマ王女が席を立って言った。
「私がこの場にいることに疑念を持つ者もいるかもしれません。何しろ私はまだ成人前の身であり、それが為に正式には王位を継ぐ資格を持っていないからです。しかし私は宣言します、イスバルの次期国王を継承する意思があることを。イスバルの為にこの身を、生涯を、運命を捧げることをです。但し成人前の身であることから、私の場合は暫定王位という形式を提示いたします」
「暫定王位だと?! そんなことを認めるものか! 王位を何だと思っているのだ、お前は!」
アトル王子がいきり立つ。意外にも王子をなだめたのは、隣に座っているラスタマラ家のエージェント、ロバート氏だった。
「王子……、偉大なるアトル王子様。どうぞお気をお静めください。王子がお気になさるようなことではございません」
王子が気にすることではない、か……。あたしは何か引っかかるものを感じたが、クリスの方を見ても特に気にしている様子はなかった。あたしには、『王女が何と言おうと結果は変わらない』とロバート氏が言っているように感じたのだが、気にしすぎだろうか……。
ともあれアトル王子のようにいきり立つような者こそいなかったが、大広間は騒然とした空気になった。しかしいくら『暫定王位』なるものが初めて耳にするものであったにせよ、王族が口にしたことだ。各領地の代表も、それなりの敬意を示さざるを得ないのだ。
これが王女が言っていた『何とかなる』ということなのだろうか。専制君主国家における王族の権威というものがどういうものか、あたしは初めて肌身に感じたように思った。すぐに受け入れられることこそ難しいのかもしれないが、かといって無視することなどできないのだ。
暫く大広間は騒然としていたが、会議の形としては主題である『王位継承権のある者による王位継承の意思表明』が終わったので、臨時合同会議はその内容を国民に伝えるためにその場を大広間から王宮前広場に向かうバルコニーに移すことになった。
王宮には王宮前の広場に向かって大きなバルコニーがあり、王宮前広場には既に国民代表として選出された数百人の人々が集まっていた。会議の後、各領地代表、大臣諸侯、そしてアトル王子とファティマ王女がバルコニーから国民代表に向けて会議の結果を伝えるのだ。
今回の臨時合同会議の場合は、国民代表に伝えるべき内容があるのは王子と王女のみなので、二人以外の会議出席者はバルコニーの後ろ側で控えていることになる。
バルコニーから行われる会議内容の国民代表への通達は、一つの式典のような側面を持つこともあり、会議に出席しなかった者が同席することを許される。今回の場合はキアラ女史の弟のシャム氏や、アトル王子の母である第一王妃が列席していた。勿論、護衛担当であるあたしらクリス部隊やゲイリー部隊のゲイリー中尉とヒックス准尉もだ。パット少尉とエリック少尉は、王室近衛隊と王宮前広場の方に回っている。
バルコニーに全員が移動し終わり、アトル王子とファティマ王女がバルコニーの端から国民代表に向かって手を振ると、国民代表たちは大騒ぎになった。特にファティマ王女を賛美する声が声高に聞こえてきたが、アトル王子は聞こえないふりをしているようだった。
ファティマ王女が口を開く。
「私の愛するイスバル国民たち、集まってくれて本当にありがとう。本日は全イスバル臨時合同会議で話されたことを皆様へお伝えいたします」
ファティマ王女の後、アトル王子が広場に向かって言う。
「イスバルの国民諸君! 先日も同様のことを伝えたが、私はイスバル国王として王位継承する意思があることをここに宣言する! アトル国王即位をもって、偉大なるイスバルは更なる発展を遂げるであろう!!」
国民代表からは、パラパラと拍手が聞こえてきたが、それ以上の反応はなかった。アトル王子は不満そうだったが、なんとか笑顔で手を振っていた。
そして続いてファティマ王女が国民代表に向かって話し出した。
「私の国民たち! 待たせてしまったことを本当に申し訳なく思っています。私はこのイスバルの国王となる意思があることを皆様にお伝えいたします! どうかこのイスバルの未来の為に、皆様のお力をお貸しください!!」
国民代表は歓喜の声に沸いた。その声の大きさは轟音と言ってもいいくらいで、イスバル国民がいかにファティマ王女に期待しているかを示すものだった。アトル王子は、やっぱり不満そうに引きつった笑顔を浮かべていた。
その時だ。突然インカムからベティの声が響いた。
「緊急事態です! 正体不明の重力波が超高速で王宮に向かっています。王宮到着まで後二秒程! あまりに高速な回避行動の為、ジャンヌ・ダルク号からの狙撃は困難です! 皆さん、飛行物体からの攻撃に備えてください!」
そして続いて、信じられないような声がインカムから響く。
「ヤッホォオ! ベティお姉様!! やっと隙ができましたのねェ、苦労しましたわァ! 初めてご挨拶させていただきまァあす! 私は女媧って言うのォ! あのくそったれブライアンに生み出された、あなたの妹ですよォおおお!!」
to be continued...
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