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イマジナリーズ  作者: マキシ
第一章 イマジナリーズ達
12/38

解放

 目を覚ました時、あたしはジャンヌ・ダルク号の医務室のベッドに寝かされていた。体を起こすと、デイジーがあたしの寝ている横に突っ伏して眠っているのが見えた。デイジーの脇で寝ていたキィが、頭を上げてあくびをひとつする。

 あたしはデイジーに声を掛けた。

「デイジー?」


「ジョアン! 目を覚ましたんですね、よかった」

 ベティの声がした。あたしはどういう状況なのかわからなかった。

「ジョアンは丸二日目を覚まさなかったんです。もう気が気じゃありませんでしたよ……」

 ベティが泣き声をあげる。くそ……、ベティにあたしを医務室で介抱させちまうとは不覚だった。

「泣くなよベティ、あたしは大丈夫だから。それより状況を説明してくれないか」


 あたしはあたしとクリスがデイジーを助けに行った日のことをベティに説明してもらった。あたしとクリスは、どうやらクリスの故郷を襲った支配(ドミネイト)のイマジナリーズの能力で気を失った。クリスはバイクの走行状態を維持できずに転倒、瞬時に状況を把握したベティは苦渋の選択を迫られた。

「クリスを置いて行かなくてはならなかったのは、辛かったのですが……」


 ベティは少なくともすぐにラスタマラ家の連中や例のイマジナリーズがすぐにクリスに危害を加えることはないと判断、あたしとデイジーの保護を最優先としてその場を離脱、ジャンヌ・ダルク号に戻ってからは、最速で出港の手続き、準備を済ませて、ラスタマラ家が宇宙港をおさえる前にジャンヌ・ダルク号を宇宙港から出港させたそうだ。

 さすがベティ……。クリスを置いて行かなくてはならなかったのは、さぞ辛かっただろう……。


「ここはどの辺りなんだ?」

 あたしはジャンヌ・ダルク号の現在地が気になって聞いた。

「この辺りはファナから三百マイルほど離れたフェルディナ星の公海上です」

 あたしは思い切って聞いた。

「今、クリスはどうしてるんだ?」

「クリスはラスタマラ家専用の医療施設に収容されています。大きなけがはないようです」

 ベティは感情を込めない声で言った。あたしは続けて聞いた。

「クリスはこれからどうなるんだ?」

 ベティは少し苦しそうに言った。

「ファナからは移動させるそうです。そのことについては、少し気になることが……」


「なんだい?」

 あたしはベティの口調が気になって聞いた。ベティは泣くのを我慢しているような声で言う。

「クリスを移送するのに宇宙船(ふね)を使うようなことを言っているんです。行き先については、まだ情報がないのですが……」

 あたしは驚いて言った。

「クリスを他の星に移すっていうのか?!」


「まだ宇宙船(ふね)の航路情報が出てこないので何とも言えないのですが、もしかしたらクリスを他の星に移動させると見せかけて、ジョアンを誘い出したいのかもしれません」

 ベティはそう言ったが、あたしはその意味を掴みかねた。

「あたしを?」


「はい。古いイマジナリーズの記録にあるのですが、イマジナリーズ能力者の間には相性のようなものがあるのです。支配(ドミネイト)の能力には、変化(チェンジ)の能力は天敵なんですよ」

 ベティはそう言ったが、わたしはますますわからなくなった。

「天敵? だってあたしはあいつの支配(ドミネイト)の能力で気絶させられたんだぜ?」

 ベティが説明してくれる。

「まず能力の発動速度なのですが、面と向かった場合、支配(ドミネイト)の能力発動速度より変化(チェンジ)の能力発動速度の方が速いんです」

 なるほど……。面と向かった場合なら『風』の方が早いってわけだ。


 ベティが続ける。

「それと頼りにしてよい情報かはわかりませんが、変化(チェンジ)の能力発動中は支配(ドミネイト)の能力が効きにくくなるらしいです。もしかしたら支配(ドミネイト)の能力は、人か動物にのみ有効な能力なのかもしれませんね。いずれにせよ、ラスタマラ家のイマジナリーズから見ればジョアンが邪魔な存在であることに変わりはありません」


「あの……」

 デイジーが目を覚まして、あたしに声を掛けた。

「よう、デイジー。あたしを看病してくれてたのか? ありがとな」

 デイジーは涙で顔をくしゃくしゃにしながら首を振った。この子はあたしのこともクリスのことも、自分のせいだと思っているのだ。

 あたしはデイジーに言った。

「デイジー、お前はまた自分のせいだと思ってるな? 悪い癖だぞ? あたしやクリスに起こったことは、全てあたしらが自分たちの責任でやったことなんだ。デイジーが気にすることじゃないんだよ」


「はい……」

 デイジーは静かに頷いた。

「さて……、クリスの救出作戦を考えないとな。ベティ? 何かアイデアは?」

 ベティは比較的いつものベティの口調に戻って言った。

「ラスタマラ家専用の医療施設にいる間は、警備が厳重すぎて手を出せません。クリスを救出できるとすれば、やはりラスタマラ家の宇宙船(ふね)で移送しているときに宇宙船(ふね)に乗り込むのが一番現実的です。しかし……」

「相手もそれを待っている可能性がある、か……」

 あたしはベティに続けて言った。


「あの……、実は今まで黙っていたことがあるんです……」

 デイジーがおずおずと話し出した。さっきまでのデイジーとは雰囲気が違って見えたので、あたしは少し興味を持った。にやっと笑って言う。

「なんだい? 怒らないからいってみな?」


 デイジーは口を尖らせて言った。

「いじわる言わないでください……。母さんが言ってたことなんですけど、母さんや僕のようなタイプの能力者にはいくつか特徴があって、その一つは相手が同じ支配(ドミネイト)の能力者でも他の人と同じように支配(ドミネイト)できてしまうというものなんです」


 あたしは前にデイジーから聞いていた、同じ村の子に支配(ドミネイト)の能力を使ってしまったという話を思い出したが、デイジーが気にするだろうから口には出さなかった。

「ということは、やつに触ることさえできれば支配(ドミネイト)の能力が効くってことか……」

 あたしは考えながら言った。しかし……。

「でもそれは、デイジーがあのラスタマラ家のイマジナリーズの至近距離にいる必要があるということです。あまり現実的ではないのでは……」

 ベティが言う。あたしも同感だが……。


「デイジーのその能力は、ラスタマラ家のイマジナリーズには知られてないのかな? デイジー?」

 デイジーはあまり自信がなさそうに答えた。

「多分……、母さんはこのことをお祖母ちゃんから聞いたって言ってました。その他は誰も知らないはずだって……」


 あたしはデイジーを抱きしめて言った。

「デイジー……。こちらに相手の知らない能力があるっていうのは、すごく大きな利点(アドバンテージ)だ。でもとても危険なことでもある。あたしはデイジーにはやつとの闘いに加わって欲しくないんだ」

 デイジーはあたしをぎゅうっと抱きしめ返して言った。

「ありがとう、ジョアン。僕を守ってくれるって言ってくれたもんね。でもクリスティーナさんは僕を助けてくれたもの……。あの時のクリスティーナさん、かっこよかった……」


 あたしは自分を不甲斐ないと思いながら言った。

「そうだろう? クリスは格好いいだろう? でもやっぱりデイジーを危ない目に合わせるのは……」

 おずおずとベティが口を挟む。

「敵の知らない要素を保持することは、確かに大きな利点(アドバンテージ)ですが、それだけでは危険(リスク)が大きすぎます。クリスがラスタマラ家の宇宙船内で、どういう状態なのかもわからないんですよ」


「よし。じゃあまず、ジャンヌ・ダルク号でラスタマラ家の宇宙船(ふね)から捕捉されないくらいの距離まで近づいた後、あたしが『風』になってラスタマラ家の宇宙船(ふね)に潜入して、クリスの様子を探ってくる。それでクリスの状態がわかったら、一度ジャンヌ・ダルク号に戻って作戦を練り直して、あぶなくなさそうなら、次はデイジーと一緒に潜入する」

 あたしがそう言うと、デイジーはまたおずおずと口を開いた。

「あの……、実はもう一つお話していないことが……」


 あたしはまた、にやっと笑って言った。

「なんだい? 怒らないから言ってみな?」

 デイジーはまた口を尖らせて言う。

「もう……、いじわるですね、ジョアンは。……実は僕の本当の能力は支配(ドミネイト)じゃないんです」

「なんだって? どういうことだい?」

 あたしはどういうことかわからずに聞いた。デイジーは説明して言った。

「それは…………」


 あたしはデイジーの話を聞いて驚いた。イマジナリーズにそんな能力者がいたと聞いたことがなかったからだ。

「驚いたぜ。そんな話は初めて聞いた。ベティは?」

「いえ……。私が持っている記録にもありません。確かにその能力を監禁されているクリスに対して使えれば危険(リスク)はずっと低くなるかもしれません」

 ベティも驚いたようだ。あたしは言った。

「よし。作戦に目途が付いたな。まずあたしが敵船内を調査した後、改めてデイジーの能力を考慮に入れた作戦を考えるってことだ。いいかい? ベティ?」


 ベティは心配しているような声で答えた。

「はい。ただいずれの場合でも作戦全体を考えれば危険(リスク)は決して低くありません。くれぐれも気を付けて行動するようにしてください」


 それからベティが、ラスタマラ家の宇宙船(ふね)でクリスが移送される日時の情報と、その宇宙船(ふね)の予定航路情報を入手したので、あたしらは行動を起こすことにした。

「まっすぐクリスを他の星へ移送することを考えた場合、宇宙船(ふね)の予定航路が不自然すぎます。やはりラスタマラ家のイマジナリーズは、ジョアンを誘い出したいようですね」


「よし。それならジャンヌ・ダルク号は、クリスを乗せたラスタマラ家の宇宙船(ふね)を頭から抑えられるように、できるだけ高い航路で待ち伏せるようにしよう。……誘い出されてやるさ。奴らが考えてないような方法でな」


 そしてあたしらは、ラスタマラ家の宇宙船(ふね)の予定航路上でその宇宙船ふねを待ち伏せることにした。あたしとデイジーは、ジャンヌ・ダルク号のブリッジでラスタマラ家の宇宙船(ふね)を待った。

「ところでベティ……。ジャンヌ・ダルク号って、どのくらい遠くなら相手のレーダーに引っかからないでいられるんだ?」


 ベティは、えっへんと言った様子で答えた。

「この宇宙船(ふね)の自慢の一つなのですが、ジャンヌ・ダルク号独自のステルスシステムは、たとえ敵の目の前にいても相手のレーダーに捕捉されることはありません。ただしシステムでできることは、システムで破れるものです。あまり過信せず、敵船に潜入する際は充分気を付けるようにしてください」

 あたしには少し難しい話だった……。まあ気を付けるに越したことはないってことだな。


「来ました! ラスタマラ家の宇宙船(ふね)です!」

 ベティが声をあげる。ジャンヌ・ダルク号のブリッジに緊張が走る。あたしはブリッジ正面のモニタに映し出されたラスタマラ家の宇宙船(ふね)を見た。随分大きいな……。ジャンヌ・ダルク号の五倍くらいあるように見える……。

 そしてベティが驚いたような声をあげた。

「甲板に……クリスが……」


 あたしとデイジーは、モニタに映し出されたラスタマラ家の宇宙船(ふね)に目が釘付けになった。ラスタマラ家の宇宙船(ふね)の甲板には、舳先近くに金属製のポールが立てられていた。そのポールに繫がれているのは……。

「クリス……」

 あたしはそう呟いた後、ベティに聞いた。

「ベティ? わかる範囲でいいから、クリスの状況を教えてくれ」


「ラスタマラ家の宇宙船(ふね)は軍艦ではなさそうですが、甲板上に多数の対人用と思われる武装の類が見えます。そしてそのすべてが、クリスに向けていられているようです……」

 なるほど……。隠れるところもない甲板上にクリスを置いて、助けに来た人間をハチの巣にしようってことか……。

「クリスはあのままじゃ、向こうのイマジナリーズに支配(ドミネイト)されっぱなしなんだろう。確かにこりゃ、あたしだけじゃどうにもならないな……」

「僕も行きます!」

 デイジーが言う。


「ここまで来てこんなこというのもなんだけど、やっぱりデイジーが行くのはあぶないよ」

 あたしは、やっぱりデイジーを作戦に参加させることに躊躇したんだ。


「あの……多分、向こうのイマジナリーズの人、僕を傷つけないと思います」

 デイジーがそんなことを言ったが、あたしは信じられなかった。

「ほんとか? いきなりそんなこといわれても信じられないよ」


「本当かもしれません」

 ベティが口を挟む。

「デイジーを医務室で診察した時、ファナで負ったけがの治療をしましたが、それ以外のけが等は全くなくて栄養状態もとてもよかったんです。テリエス家では健康にもかなり配慮されて監禁されていたのではないでしょうか」

 ベティは説明してくれたが、あたしは首をひねった。

「同じ支配(ドミネイト)のイマジナリーズだからかな? さらっておいて?」


 デイジーが言う。

「僕をさらったらしい人は、見た目も雰囲気も怖い人で、ほとんど口も聞きませんでしたけど、僕をこの星に連れてきたときに一言だけ言ったんです。『もっと他の世界を見る必要がある』って」

 それは賛成だが……、どちらにしてもあまり迷ってもいられない。


「クリスの話に戻そう。対人武装なら、あたしのカマイタチで壊すこともできるかもしれない。ただあたしがクリスが繋がれているワイヤを切断できたとしても、クリスが逃げるまでに使える時間は最大でも二秒ってとこだろう。クリスとデイジーは、海に向かって飛び出す以外にできることはなさそうだぞ」

「それでいいです。クリスティーナさんと海に飛び出して、クリスティーナさんに僕の能力を使います」

 デイジーが妙に自信のあるような様子で言った。


「デイジーの本当の能力ってやつか……。ぶっつけ本番っていうのがな……」

 あたしがそう言うと、デイジーは答えて言った。

「母さんはこの能力を『不可能を可能にする力』って言っていました。どうなるかは正直僕にもわかりませんが、何とかなると思っています」


 くそ! 他に手段がない上に時間もない。うかうかしているとラスタマラ家の宇宙船(ふね)はクリスを甲板に置いたまま宇宙に出ようとすらするかもしれない。あたしはデイジーに言った。

「予備のパラシュートを忘れずに持っていくんだぞ。それじゃ作戦決行だ!」


 あたしとデイジーは、ジャンヌ・ダルク号の後部ハッチ前にいた。あたしはデイジーに言った。

「一緒に飛び出た後、十秒数えたらパラシュートを開くんだ。そしたらあたしが『風』になってデイジーをクリスの近くまで運ぶ。デイジーは、あたしがクリスの繋がれているワイヤーを切断したら、すぐにクリスと一緒に宇宙船(ふね)から飛び出すんだ。でもあぶないと思ったら、クリスのことは忘れてすぐに海へ飛び出すんだぞ。わかったな?」


 デイジーは何も言わずに、グッと親指を立てた。

「それじゃいくぜ!」

 あたしとデイジーは、ジャンヌ・ダルク号を飛び出した。


 少しして、デイジーがパラシュートを開く。あたしはデイジーのパラシュートを『風』で包んで、できるだけ直線距離でデイジーをラスタマラ家の甲板に運んだ。

「クリスティーナさん!」

 デイジーがクリスと宇宙船(ふね)の武装の間に降りる。しまった! あれじゃ的になるだけだ!


 しかし、ラスタマラ家の宇宙船(ふね)は撃って来なかった。やっぱりデイジーを傷つけたくないのか? 例のイマジナリーズらしい男の声が響く。

「どけ! 邪魔だ!」

 デイジーが言い返す。

「どきません! 僕はこの人たちと行きます!」


 あたしはその間にクリスが繋がれているワイヤーを切断する。

「『カマイタチ』!」

 『風』の状態は解除されたが、甲板の上には降りられないので、そのまま海に向かって落ちていく。

「切ったぞ! 逃げろ!」


 デイジーは、クリスを促して海へ向かって飛んだ。

 クリスがあきれたように言う。

「なんて無茶を……、ジョアン! この子のパラシュートを開いて! 早く!」


 あたしは落下しながら二人を見ていたが、再び能力を発動して二人のそばまで行った。デイジーのパラシュートはぐるぐると絡まったまま開きそうにない。デイジーが叫ぶ。

「クリスティーナさん! 時間がないんです。何も言わずに僕の言うことを受け入れて、復唱してください!」


 クリスは、デイジーが初めて見せた気迫に感じ入ったようだ。にっこり笑って言う。

「わかりましたわ、デイジー。あなたに任せます」

 デイジーは、クリスをぎゅうっと抱きしめてから叫び声をあげた。

想像力(イマジネーション)は、全てを可能にする!!」

 クリスがデイジーの後に続けて言う。

想像力(イマジネーション)は、すべてを可能に……する!」


 ……ドクン!!


 あたしはその時、クリスの体が光ったと思った。クリスはその時、子どもの頃に触れた白い大きな鳥のことを思い出していたそうだ。

「なんてこと……、今なら……」

 クリスはそう呟いた後、また何やら口ずさみ始めた。

「組成と構成、骨……、筋肉、皮膚……、そして羽根……」


 クリスとデイジーは落下し続けている。ラスタマラ家の宇宙船(ふね)は、さすがに落下中の人間という小さな的を攻撃することは諦めたようだ。


 そして、クリスが叫んだ。

「形状は……翼!」


 クリスの背中から長く伸びる骨が形成されていって、その周りを筋肉と皮膚が覆っていった。そして最後に、そこから白くて美しい羽根が生える。

 あれは……翼だ! クリスの背中に白くて大きな翼が現れた!!

 

 クリスが言う。

「ジョアン! ラスタマラ家の宇宙船(ふね)から離れましょう!」

 クリスは、生成されたばかりの大きな翼で何度か羽ばたいて、デイジーを抱えたままものすごい速さで飛び始めた。


「これが私の翼……、夢みたい……」

 クリスが文字通り夢を見ているような表情で言った。どうやら、デイジーの能力を使った作戦はうまくいったようだ。あたしはクリスと一緒に飛びながら言った。

「よかった! クリス! デイジー! 早く帰ろう、ベティが待ってるぜ!」


 その頃、ラスタマラ家のイマジナリーズはこんなことを言っていたそうだ。

「まさか、まさか……。あの子は支配(ドミネイト)のイマジナリーズから稀に派生すると言われる、解放(リリース)の能力者だったのか……」



to be continued...

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