5_ローデシアの話_5
「ヨイドレえ。お前、いい度胸しているな? 私から逃げておいて、こうも抜け抜けと現れるとは」
「いやっ! 誤解です! 道に...... 「言い訳をするなっ!」」
訓練場に響き渡る隊長の怒号に、周囲の木剣がぶつかる音もピタリと止まってしまった。
まじで、言い訳させてくれ。
わざとじゃ無いんだ。
隊長とはぐれた後、"ローデシア城" と "訓練場" という単語を覚えていた俺は直接行くことにした。
幸いにも、過去にオーグナーの挨拶でローデシア城を訪れた経験があり、メイン通りから、ローデシア城へ行く道だけはなんとか覚えていた。
まずはメイン通りに向かおう。
メイン通りに行けばなんとかなる。
メイン通りは人が多い道。つまりは、人が多い方に行けばたどり着くはず。
そう考えて、適当に道を選んだのが間違いだった。
奇妙な男に絡まれた。
ハンドベルを振り回しながら、うるさい音を立てて俺の進路を邪魔する。
"おっぱい! あるよ! オニさん、ボンボンする? ボンボン!"
なんだコイツ、とは思ったものの、地元の人っぽかったので道を聞いた。
"マカセテ! トラストミー! こっち、こっちね"
俺は人選をミスった。
ボンボンニキについて行くべきでは無かったのだ。
そうして、隊長とはぐれたのが朝方だったにも関わらず、再びこうして会えたのが次の日のことだ。
「ヨイドレ。私は、お前が真人間になると言ったのが、嬉しかったんだ。
私が聞いていた噂と、本当のお前は違った。そうやって思った」
ひょえー 何も言えねえ。何も言えねえ。
「それが何だ? 一瞬でも信じた私が馬鹿らしい!」
激怒だよ。
......どう、するか。
道に迷った事を言うか? しかし、大半は俺がボンボンニキを信じた事が原因だ。俺に非がある。
ここで道に迷ったと言っても、言い訳のように聞こえるだろう。
そして、それは心象が悪い。
......
模範的回答こそ正義。
「裏切ってしまい、すいませんでした。
ただ、隊長。俺は真人間になりたいんです! だからこうして戻ってきました!
もう、隊長しか居ないんです! おれ、隊長に見捨てられたらダメ人間になっちゃいます!」
隊長は「ヨイドレ、お前......」みたいに呟き、流されそうな感じではある。
しかし、すぐに首を振る。そして俺の事を睨みつける。
「っく! この人たらしが! 剣をとれ! その腐った性根を正してやる!」
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「隊長、本当に勘弁してくださいよ」
「お前には厳しくしないと駄目だと理解した。殺す気で来い」
訓練所にいた兵士たちがぞろぞろと集まってきて、彼らが交わす小声の会話が耳に入る。
"おい、隊長代理が試合をするみたいだぞ。相手のやつは......白髪?"
"あいつ、オーグナーの所の悪童だろ? 確か無能って聞いたぞ"
"何秒持つと思う? 俺は10秒持たないと見るね"
困った。
周りから聞こえる話を聞くと、どうも隊長は相当強いらしい。
得物を構えるその姿は自然で、戦いに慣れている感じがする。
まあ、無能な俺が相手なのだ。万が一にも負けないと思っているのだろう。そんな余裕を滲ませる。
どうしよう。これは結構、目立っていると思う。
恐らく、隊長は強い。しかし、それよりもクッコロ先輩の方が絶対に強い筈だ。
そんなクッコロ先輩直伝の強化魔法を使えば、少なくとも、ノースウッドの冒険者たちに負けることは無かった。
......だからと言って、ここでいい勝負をするのは良くない。
師匠からは力を見せるなと言われている。別に、破ることだって出来るけど、出来る範囲では守りたい。
あまり、戦わない方向で話を進めよう。
「隊長! ハンデが欲しいです!」
「ハンデ? 戯けたことを言ってないで、早くしろ」
「隊長、俺は悲しいですよ。こちとら無能なんですよ? そんな無能を一方的に叩きのめして、良いんですか? 神様はその行いを見ていますよ?」
教会の人間は、何故か神様がどうこう言うと、お願いを聞いてくれることが多い。
例えば、神に誓うだとか。
これで隊長も譲歩してくれると思う。
「っく...... ハンデは何だ?」
「5分間、俺が倒れずにいられたら許してください」
「5分? まあ良いだろう」
よし。
5分間、訓練場を逃げ回ってうやむやにしよう!
ただ、教会の騎士がどれほどの実力か、ここで確かめておきたい。
......考えたくはないが、この先、彼らと戦う局面があるかもしれない。
最初は全力で挑もう。




