5_ローデシアの話_4
元々、アッチノヤマダンジョンは、ただの山でした。
それは大昔の話。
ノースウッドが海側、
そして、ローデシアが内陸側、
その間に、大きな山があるもんだから。
それは不便だろうって、互いの領土の支配者がドワーフ達を雇ってトンネルを掘った。
穴掘りが得意なドワーフ。
山をくり抜く一大プロジェクト。
そのリーダに任命されたのは、深刻な酒狂い。
そんな奴が指示するわけだから、穴はあっちに行ったり、こっちに行ったり。フラフラになっちまった訳です。
リーダーは呑みすぎで、上も下も、右も左も分かりません。
しかし、気が付いたのです。
真っすぐ掘れば良いのだ、と。
そうして、ぶっ倒れた時に下を向いてたので、真下に掘り進める様に指示を出しました。
皆がイカれていると思う指示でしたが、これが、この国の未来を変えたのです。
ダンジョンコアを掘り当てました。
資源を生み出す宝。
生贄一つ渡してダンジョンを作る、旧世界の遺物です。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「そうしてアッチの山ダンジョンは、ダンジョンになった訳です」
今はイザベラさんに首根っこを掴まれて、知らない道を歩いている。
「なんだ、酒狂いって。それは本当なのか?」
「どうでしょう。ノースウッドに伝わる伝承ですから。......あの? 逃げないので放して欲しいです」
なんか、俺は勘違いされているみたいだ。
俺の性根を叩きのめすと言われて、拉致されて今に至る。
イザベラさんに近づくため、いろんな話題を振りながら少しずつ距離を詰めた結果、ようやく彼女の態度が軟化してきた。
「お前、人たらしと言われないか?」
「昔、言われたことあります」
エライ子様に。
「だろうな。色街ではそれが通用したかもしれないが、私には通用しない」
「......はい」
なんてこった。
意味がわかりません。
「本当に逃げませんって。神に誓いますから」
「神に? 軽々しく言うなたわけめ。......まあでも、神に誓うのなら、信用してやろう」
やっと解放された。
首が少し痛むが、とにかく自由だ。
取り敢えず、どこに向かっているのかを聞いてみよう。
「イザベラさん、質問し...... 「隊長と呼べ」」
鋭い視線、逆らう余地などないかの様子。
......隊長と呼ぼう。
「た、隊長。俺は一体、どこに連れて行かれてるんですか?」
「ローデシア城の訓練所だ」
え、なんで?
「お前の腐った性根を叩き直すことが、枢機卿から言われた命。私にはお前を真人間にする義務がある」
うっそやろ。
そんな命令、絶対してなかったよ。
......どうするか。
ティナさんの身に危険が及んだとき、頼れるのはこの人...... だと思う。
だから、心象を良くしておきたい。
正直、隊長は俺のことを誤解していると思う。
誤解を解くように行動しよう。
「分かりました。隊長、よろしくお願いします! おれ、真人間になります!」
模範的回答こそ正義。
「ヨイドレ...... いいぞ、その意気だ! 絶対に真人間になろう! 私も全力で手伝ってやる!」
隊長は意気揚々と、これからの訓練計画をあれこれと説明し始めた。
......ふと思い至った。
稽古をつけてもらえるなら、それは悪い話ではない。
クッコロ先輩から長らく指導を受けてきたが、その大半は魔素の理解と制御に関するものだった。
曰く、俺達が何かに注意を向ける時、その方向に魔素は流れる。その魔素の流れを読んで、操り、その先に剣を振るってやれば良い。という流派らしい。構えすらない。
ただただ曲剣をだらしなく持ち、魔素を読んで適した時にのみ振るう。その姿は、一見するとふざけているようにも見える剣技。
隙をわざと見せると、相手はそこを突く。それ自体も、魔素を操作していると言える。
そう、クッコロ先輩は言っていた。
「ヨイドレ氏、ちょっと良いお?」
そばに居たオタ先輩が声を掛けてきた。
隊長は自分の考えを整理するかのように、訓練計画についてひたすらに語り続けていた。
自分の世界に没頭している感じがする。少し位は話せそうだ。
俺は隊長から少し離れた。
小声でオタ先輩と話す。
「どうしましたか?」
「この街にはいつまで滞在するんだお?」
「まだ聞いていないですね。ただ、隊長の様子では、今日は出発しないんじゃないかな?」
「ギルド行ってきてもいいかお? この街的に、ドワーフの受付嬢だと思うんだお」
「ああ、そうですね。俺はしばらく動けそうに無いので、お願いします」
あ。いま不可視のバクを解いておこうか。
そうすればギルドの受付嬢と話せるんじゃあないか。
「不可視のバクを解きますか?」
「いや、それは危ないお」
「危ない? 何がです?」
「おいらは存在自体がバグだから、見えない様になってるんだお。
だから、人に見られた瞬間にアラート鳴っちゃうお」
なるほど?
人に見られると、神の使徒がやってきてしまうみたいだ。
ただ、俺が紹介した時は大丈夫らしい。なんだか変な感じだ。
「なんで、俺が紹介したら大丈夫なんですか?」
「それがバグだお。ヨイドレ氏経由でホワイトリストに載るから、アラートが起きないのかもしれないお」
うーんこの。よく分からない。
「ヨイドレ氏のそれは、バグを修正するというよりも...... プロパティを変える感じかもしれないお。不可視は仕様だお」
......考えるのを止めよう。
「まあ、帰ったらギルドの話聞かせて下さい。時間を見つけて、俺も行きますから」
「頼むお。箱はちゃんと持ってるかお?」
「勿論」
懐から、オタ先輩から借りた、小さな黒い箱をとり出して見せる。
「何かあれば、手紙入れてお。じゃあ行ってくるお!」
オタ先輩はそう言うと、人混みの中に消えた。
さて。隊長のところに戻ろう。
......
あれ。
た、隊長。見当たんないんだけど。
え、うそ。
隊長、迷子になっちゃったよ。
いや、迷子は俺か。
......これって、逃げた判定されるんじゃあないか。




