5_ローデシアの話_3
「まあ固くなるな、座れ」
デッブは対面のソファを指す。それは先ほどまで司祭が座っていた所だ。
俺が席に座ると、デッブは足を組み直す。
それは、何処となく偉そうな感じで。
「こうして二人で話すのも初めてだろう? そう緊張するな」
確かに、デッブと二人で話すというのはこれが初めてだ。
デッブがどういった立ち位置なのか、確認しておいた方が良いだろう。
教会と敵対しているのか、乃至は魔王と繋がっているのか。
「此方も幾つか聞きたい事があるんですが、良いですか?」
「うん? なんだ?」
「先ほど、マリウスという名前について心当たりがあるみたいでした。何か知っていますか?」
「......魔王という存在を知っているか?」
「ええ。数百年に一度姿を現す、世界の厄災だと聞いてます」
「マリウスがそれだ」
デッブや司祭はマリウスが魔王だと知っているみたいだ。
しかし、名前だけでマリウスを魔王だと決めつける事なんて、あるのか?
「名前が同じだけ、って事は無いんですか?」
「魔王については幾つか文献が残っておる。禁書扱いだがな。
金色の瞳、アンデッドや魔物を従える力。それに、魔女の予......」
デッブは途中で何かを言い淀むも、「いや、それよりも」と別の話を続ける。
「ティナからは、グレイがマリウスを退けたと聞いている。どういうことだ?」
わあ、ティナさん。
ちゃんと約束を守ってくれてる。
しかし、デッブは俺の力を分かっている。
無理して、ごまかさなくても良いだろう。
「そう言う事にしてください。師匠からは目立つなと言われていますから」
「そう、か...... ワシは本来、ノースウッドへ行く予定など無かった」
うん? 何の話だ。
「巡礼の旅の途中、この街に立ち寄った時の事だ。
冒険者が手紙を持ってきた。それは黒い手紙で、丸い封蝋が付けられた手紙。
お前がオーグナー邸で持っていた手紙の様にな」
師匠か?
「お前はその事について何も知らないのだろう? 手紙にはそう書いてあった」
どういうことだ。
「何が書いてあったんですか?」
「半ば脅しのような事だ。知り得ぬ事まで書いてあり、未来の......
まあよい。ワシはあれを書いた者と直接話したい。クッコロ殿では無いだろう?」
どう、するか。
師匠に確認を取りたいけど、今は何処に居るのか知らない。
「何とも言えません」
「......そうか。ワシには、お前たちの力が必要だ。
核とお前たちの力があれば、教会の全ては我らのものとなる。
どうだ? お前たちには多大な報酬を支払うぞ」
デッブは眉間に深い皺を寄せ、まっすぐに俺の目を見つめながらそう話す。
その眼差しには、疑いの余地もない覚悟を滲じませて。
これは、知らない方が良い類の話だ。
デッブは教会内で権力闘争をしているのだろう。
そして、そんな話を聞いてしまった俺......
ハッキリと断るのは避けた方が良い。
拒めば、相手に余計な不信感を抱かせるかもしれない。
「俺一人では決める事は出来ません。相談してみます」
「あい分かった。お前達は共犯者だ、信用はしておる」
デッブは "共犯者" とわざとらしく言葉を強調した。
その響きに、嫌な感じがしてならない。
なんだか、面倒な事に巻き込まれている気がする。
「あと、聞きたいのですが。デッブさんにとって、魔王は敵なんですか?」
「うん? ......勿論そうだが。何かあるのか?」
「いやいや、特に深い意味は無いです」
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
デッブとの話が終わり、部屋を出ると、グレイやティナさんが誰かと話していた。
その後ろ髪は腰まで伸び、血のように鮮やかな赤い色をしている。
それに加えて、その人物は割と背が高い。
声から察するに、女性みたいだ。
「グレイ殿が、マリウスを退けたのか?」
「そうだ。まあまあ強かったが、俺よりかは弱かったな」
「......ティナ様、彼が言う話は本当ですか?」
「え、ええ。そうですよ?」
ティナさんの目が泳ぐ。
何となくだけど、話している内容が分かる気がする。
「イザベラ。司祭から話は聞いているか? ああよい、定型の礼などいらん」
デッブが声を掛けると、イザベラと呼ばれた赤髪の女性は慌てて振り向いた。長い手足に加えて引き締まった体が目を引き、その姿にはどこか気品を感じさせる。
「グレイ殿が巡礼の警護に加わると。それと、マリウスの件も」
「そう言う事だ、役割はお前に任せる。
......ああ、それと。こいつの事もお前に任せる」
デッブが俺の背を叩く。
「ヨイドレ、後はイザベラを頼れ」
そう言って、デッブはティナさんと司祭を呼んで、また小部屋に入っていった。
え、頼れって......
イザベラさんは、まるで俺のことを測りかねるような、不思議な目つきでこちらを見ている。
とりあえず自己紹介でもしておくか。
「初めまして。ヨイドレ、オーグナと言います。
聖都までよろしくお願いします」
「白髪、そうかお前......」
イザベラさんの目が鋭く、俺を射抜くようだ。
その視線から察するに、どうも好かれてはいないらしい。
白髪は目立つ。
もしかすると、俺の事を知っているかもしれない。
それは無能なヨイドレだという事を。
「イザベラ、カスタードだ。色々話は聞いているぞ、オーグナーの悪童?」
オーグナーの悪童?
何それ、初耳なんだけど。
「よろしくお願いします。イザベラさん」
「イザベラさんだあ? 隊長と呼べ。
色街では甘やかされたかもしれんが、私の前では通用しないぞ。
お前のその曲がった性根を正してやる。覚悟しておけ」
おん? 隊長、何か、色々と誤解されてる気がする。




