5_ローデシアの話_2
小部屋は一見、簡素だが、どこか圧迫感を感じる。
テーブルと長いソファー、それに無数の本が詰まった本棚。
オーグナーの屋敷にある応接室と似た感じだ。
窓には鉄格子がはめられ、壁もやけに厚く感じる。
デッブとティナさんはソファに座り、司祭と向かい合って話をしている。
彼らの間には張り詰めた緊張感が漂い、会話は少し硬い印象を受けた。
「それで、調査の結果はどうだ?」
「はい。魔物も、その狂暴性を増しています。あと、気になる事が」
「気になる事?」
「アンデッドや魔物が聖都に集まっている様なのです」
「ほう」
「最低最悪を聖都で見たという話もあります。どうも、今回も奴等が手引きをしているのではないかと」
「ノースウッドの山も様子がおかしかった。おい」
デッブが此方へ振り返る。
それはちょいと偉そうな感じで。
「山であった事を話せ」
......
長い沈黙。
隣のグレイが小突いて来た。
なんだよ、俺が話すのか。
司祭にあっちのヤマダンジョンでの出来事を伝えた。
それはアンデッドが意思を持って移動していた事だとか、群れの規模、リッチが居た事等。
「リッチはアンデッドなのに火に耐性がある様に感じま......」
その途中、またグレイが小突いて来る。
話を止め、視線をグレイに向けると、何か言いたげな顔をしている。
......なるほど。
恐らく、俺の報告にグレイは不満があるのだろう。
任せとけ。
グレイ伝説、いっちょかましてやるか。
「リッチは火に耐性がありましたが、グレイさんが仕留めました」
「ぐ、グレイ殿がリッチを討伐したのですか?」
司祭は真剣な眼差しを此方に向ける。
「はい。グレイさんは剣術はすさまじく、一振りするだけで100体ものアンデッドを...... 粉々にする程です。
あのリッチですら、相手になっていませんでしたよ。ええ、まったく」
傍に居るグレイをちょいと横目で見ると、口元が緩んでいる。
いい感じみたいだ。
しかし。
俺的に、グレイのその姿勢にちょっと納得いかない。
こんなもんじゃないだろう。グレイ伝説。
まだ甘いだろうが俺。こんな話で満足するんじゃあねえ、グレイ。
グレイ伝説、もっと攻めれるはずだ。
......そうだ、ぎりぎりの戦いになった後、7色に光って、新の力に目覚めるんだ。
そして残った余力で剣を振るうと、空は割れ、一筋の光が差す。
第二章、対マリウス。いっちゃいますか。
「しかし、まだグレイさんの戦いは終わりません。そこで正体不明の敵が現れたのです。
それはマリウスと名乗って......」
マリウスの名を出したとき、司祭は顔色を変えた。
そして、大きな声で話を遮る。
「ちょっと待て! いま、マリウスと言ったかっ!?」
「え、はい」
「そいつの瞳の色は何だった!?」
瞳の色? 何故そんなことを......
「黄金、でした」
ティナさんが俺の代わりに答えた。
瞳の色など、よくもまあ覚えているものだ。
「ティナ様、大丈夫だったのですか!?」
「はい。その......」
ティナさんが此方に振り返り視線を向ける。それは何かを伺うような感じだ。
「グレイさんに助けて頂いて」
司祭は驚いた様子。
「なんと...... 枢機卿。彼らはティナ様の事情を知っているのですか?」
「ここで余計な話はするな」
司祭は重く頷く。
「グレイ殿、マリウスは討伐出来たのですか?」
「え? ま、マリウスですか?」
まずい。グレイに話させると、色々面倒になるかもしれない。
「司祭様。グレイさんは...... ぎりぎりの戦いでした。それは意識も朦朧としていたはずです。
そして、マリウスはグレイさんに恐れをなして逃げました。......グレイさんに勝てないと考えたのでしょう」
こんな感じで大丈夫だろう。
恐らく。
たぶん。
きっと。
恐る恐る、司祭の様子を伺う。
彼は何故か目に涙をにじませていた。
そしてグレイの傍まで急ぎ寄ると、膝をつき手を合わせる。
「貴方様は...... 我々の希望」
「き、希望......? 俺が?」
この司祭の反応。
彼はマリウスが魔王だと、知っているんじゃあないか。
そう考えれば、この反応にも納得が出来る。
......
魔王。この世界の絶対的な悪の象徴。
不死者や魔物を束ねる王。
それは数百年周期で眠りから覚め、大厄災を起こす。
生者にとっての死と同じように、切り離す事が出来ない存在だと。
そして、それを封印する役目を持つのが勇者という存在。
そのように聞いている。
そんな魔王ですら恐れる存在。
......グレイ。
深く考えるのはやめよう。まあ、なんとかなるだろ。
「グレイ。お前との契約はノースウッドと、この街の往復だったな。報酬は幾らだった?」
「え、白銀貨3枚です」
「金貨6枚やる。聖騎士団と共に、聖都まで巡礼の護衛をせぬか?」
「金貨ろっ! やります! お願いします!」
金貨6枚。白銀貨3枚の20倍だ。
というか、グレイって教会の関係者じゃ無かったのか。
「司祭、騎士団長は今どこに居る?」
「城の訓練所です。使いを出したので、此処で待っていれば来るでしょう」
「分かった。団長が来たらグレイの件、処理してくれ。ワシは人もど...... ヨイドレと話がある。全員席を外せ」




