4_ティナの話_1
それはティナが、聖都で自身の身代わりとなる女性と面会した時の話だ。
彼女の名はエライコ、セルバーティ。
その翡翠色の瞳は、すべてを受け入れたかのように静かで、冷たい諦めの感情を滲ませる。
「手、貸して」
エライコはぶっきらぼうにそう言って、ティナに手を差し出す。
ティナはゆっくりと手を伸ばす。
手を重ね、数拍するとエライコは一言。
「変わらない」
そして、抑揚のない声で続きを話す。
「魔王、名はマリウス。それは黄金の瞳が特徴的な化物。寒い場所よ。貴方は死ぬわ」
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「その娘は教会の者だろう」
ティナはその目を見ると、震えが止まらなくなった。
黄金の瞳、それは死を連想させるような冷たい瞳。
目を逸らしたいのに、逸らす事が出来ない。
それは蛇に睨まれたカエルの様に。
そんな時、ティナの視界は真っ暗に。
傍に居るヨイドレが、ティナの目を覆った。
「ちょっ! ヨイドレ君! 真っ暗にッ......」
ヨイドレは暴れるティナの体を抱く。そうしてティナの耳元、小声で話す。
「大丈夫です。落ち着いて」
その声は、今の状況など何て事が無いような。そんな感じの声色。
まるで、絶対に大丈夫だと。そう確信しているような。
ヨイドレのそんな声を聞くと、ティナはこう思う。
"大丈夫。この人と一緒に居れば、大丈夫"
それは幼子が、親に抱くようなそれと似ているかもしれない。
それ程までに、ヨイドレの傍は心地が良い。
ティナは暖かな闇を受け入れ、ヨイドレに体を委ねた。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「全てが終わった時に、また相まみえよう」
「ちょっ! ちゃんと答え......」
......
その会話を最後に、沈黙が続く。
「あ、あの。ヨイドレ君?」
「......ごめんなさい。もう大丈夫です」
ティナの視界が開け、目に入るは大量のアンデッドの残骸。
そして、魔王の姿はそこには無かった。
「ティナさん。ちょっと動かないでくださいね」
ヨイドレはそう言って、ティナから少し離れる。
そうして、筒状の何かを懐から取り出すと、虫を追い払うかの如くそれを振るう。
暫くすると、ヨイドレはティナの元を離れ、リッチの残骸に近づく。
そして、先ほどと同じように筒状の何かを振るう。
ティナはそんな姿を見つめながら考える。
ヨイドレがこの数のアンデッドを祓った、と。
それも、少しも動かずに。
ただ、アンデッドを払う事が出来るのは聖職者、それか勇者だけのはず。
......
他にも疑問は残る。
魔王と普通に会話をしていた。それはヨイドレには呪いが掛けられているという話。
ティナの目に映るヨイドレ。
その姿はシルクの様な白い髪と、青い目が綺麗な人。
まるで、物語から出てきた勇者の様だろう。
「あの、ヨイドレ君? 聞きたい......「ティナさん! 聞いてください!」」
ティナが話そうとすると、ヨイドレは被せ気味に話す。
「これは全部グレイさんがやりました!」
「え? いや、ヨイドレく......」
「グレイさんです!」
「そんな、嘘......」
「グレイさんです!」
「グレイさ......」
「グレイさんです!」
ティナは混乱した。
先ほどまでのヨイドレとはがらりと変わり、今は誰がどう見ても可笑しいと思うくらい声を張る。
その様子から、嘘を付いている事は明らか。
嘘をつく理由......
そこでティナは気づいてしまった。
先ほどの魔王との会話、それがこれだと。
「呪、なのね?」
「グレ...... はい?」
「やっぱり。その所為で話せないのね?」
「......はい」
ヨイドレは少し、ティナから目を逸らす。
ティナから見れば、心なしかその表情は憂い気に見えるだろう。
何という事だろうか。
ティナが知るヨイドレ、オーグナーという人物の評判は良くはない。
神に愛された子と呼ばれていた。しかしその実、何も持たぬ無能者だった男。
それが分かった後、ヨイドレは家を離れ、娼館が多く犇くストリートで遊び惚けていたという話を聞いたことがある。
そして、それが原因で家を追い出されたのだと。
ティナから見たヨイドレの印象は、その話とは異なる。
ティナは考える。
これほどの力を持ちながら、世間で言われるような汚名を着せられる理由を。
そして、その汚名を晴らそうとしないヨイドレ。
......まさか。呪。
「ヨイドレ君、あなた...... ううん。私があなたを救うわ」
ティナはヨイドレの手を取ろうとする。
しかし、ヨイドレは後ずさりしてそれを躱す。
それは少し怯えているかのように。
ティナは、ヨイドレと初めて話した時も、ヨイドレが同じような反応をしていた事を思い出す。
あれはまるで、人と触れ合うのを怖がっているかの様にも見えたかもしれない。
何故、人を怖がるのか。
ティナは考える。
そうして一つの推測に達した。
......まさか、呪。
きっと、その呪の所為で沢山の酷い目にあったのだろう。
「大丈夫。私はあなたの味方だから」
「......え? あ、ありがとうございます。
と、とりあえず。
後で説明するのでグレイを連れてサイトに戻りましょう」
名前を改稿します。
セラフィム -> デッブ




