3_ノースウッドからローデシアの話_9
「それならば、お前が教会の者と一緒に居る事も理解が出来る。手間を掛けたな。もう行って良いぞ」
師匠が言っていた通りだ。
マリウスの気配は弱くなった。
それは害意が無くなったかのように。
......しかし、何故?
「俺が聖都へ行く事に、何かあるんですか?」
「......なるほどな」
マリウスは何を言う訳でもなく、ただ頷く。
そうして腰から杖のような何かを引き抜き、それを掲げた。
周囲のアンデッド共から黒いふわふわが滲む。
そうして、それらは吸い込まれるかの様に杖に集まる。
黒いふわふわの抜けたアンデッド共は、その場で倒れて動かなくなった。
「全てが終わった時に、また相まみえよう」
「ちょっ! ちゃんと答え......」
俺が止める前に、マリウスの元にコウモリが群がる。
それはマリウスの全身を隠す位の数だ。
そうして集まった大量のコウモリは散る。
そこにマリウスは姿は無い。
......いったい、何なのか。まじで意味が分からない。
師匠に問い詰めたいけれども、今は師匠が何処に居るのかすら知らない。
......マリウスの奴は、ピエリデスがどうだとか言っていた。
あれは師匠の名前なのだろうか。
......
考え事をしていたら、腕の袖を引っ張られた。
ティナさんだ。忘れてた。
目を隠した際にティナさんが暴れるものだから、彼女の後ろから抱き着くような感じになっている。
それは聖女に対して、けっこう失礼な感じだろう。
......どうしよう。マジで色々どうしよう。
マリウスとの話も突っ込まれるかもだし、グレイの事もある。
......どうするか。
「あ、あの。ヨイドレ君?」
また、腕の袖を引っ張られた。
とりあえず、ティナさんを離そう。
そうして...... なんか、良い感じに言い訳をするんだ。
大丈夫。俺なら出来る。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「ヨイドレの奴が足が竦んで動けねえっていうからよ? だから、俺はヨイドレを庇いながらリッチと戦った訳よ。なあ? ヨイドレ?」
「はい。そっす。グレイさん凄かったっす」
この話、何回目だろうか。
グレイの武勇伝をつまみに、何人かの護衛達と一緒に焚き火を囲む。
最初こそ多くの護衛がグレイの話を聞く為に集まっていたが、同じ話を8回程度くり返した辺りから徐々に護衛達は少なくなっていった。
正直、この場を離れたい。
そしてオタ先輩に話を聞きたい。
俺の背後から、誰かが近づいてくるような感じがする。
足音は小さい。恐らくはティナさんだろう。
「だろ? なんたって俺は...... ティ、ティナ様! お、俺の隣にどうぞ! 肌寒いでしょう? ささ、俺のブランケットを使ってください!」
「こんばんは。グレイさん、ありがとうございます。でもグレイさんも寒いでしょうから、大丈夫ですよ?」
ティナさんは俺の隣に座る。それは肩が触れる程度の距離だ。
......なぜ、俺の隣に座る。
俺はちょいと横にずれた。
「皆さん、火の番ありがとうございます」
ティナさんがそう話すと、護衛達はそれぞれ言葉を発する。
先程グレイのクソ話を聞いていた時には虚ろだった護衛達の目は、心なしか輝いているような感じがする。
できた子だ。
流石は、本物の聖女と言った感じだろうか。
俺はティナさんと護衛達の会話を聞き流しながら、火に薪をくべる。
この山の夜は冷える。
この子の身に何かあれば、エライコ様の処刑に近付くという話だった。
体を冷やさないように、何か温かい物を呑ませておいた方が良いだろう。
俺はポットを火に当て、茶の準備を始めた。
......
本物の聖女、か。
何とも複雑な気分だ。神は何故、エライコ様を苦しめるのだろうか。
師匠は過去、神と会う方法があると話していた。
もし、そんな事が出来るなら俺は......
いや。そもそも、師匠は何なのだろうか。
マリウスと名乗る魔王は、師匠と何らかの関係があるように感じた。
現状分かっている事から察するに、魔王が去った理由は "核" という魔道具を盗む事と何か関係があるのだろうか。
......
師匠と魔王。そしてオーグナーとデッブ。
分からない事は多い。
ただ、今の状況を見るに俺は教会の敵なのだろう。
そしてそれは、隣に居るティナさんの敵であり、更にはエライコ様の敵だという事。
......本当に、このまま師匠について行っても良いのだろうか。
考え事をしていると、"くしゅん" と、すぐ隣から可愛らしいクシャミの音が聞こえた。
この山の夜は冷える。
俺は使っていたブランケットを、ティナさんに押し付けるように渡した。
「ん。使って。俺は使わないですから」
「え、あ。ありがと」
「お茶淹れるけど、カップ俺のでも良いですか?」
「は、はい」
ティナさんが纏う、白い魔素の膜が薄くなる。
恐らく、何か緊張しているのだろう。
俺は使っていた二つ重ねのカップ、その一つを取り、その中に用意していた茶を淹れた。
そうして、それをハンカチで包みティナさんに渡す。
「熱いから、気を付けてください」
何となくだけれど、懐かしい気分だ。
エライコ様と城を抜け出した時には、こうやってよくお茶を入れた。
一つのカップは俺が使い、もう一つのカップはエライコ様が使うんだ。
......
物思いにふけっていると、ティナさんが此方に体を近づけてきた。
「こ、こうすれば二人で入れる、でしょ?」
そう言ってティナさんは顔を伏せながら、ブランケットを広げた。
そうして、肩を寄せて俺をその中に入れる。
「え? ああ。ありがとうございます」
「うん」
何て言うか、ちょっと落ち着かない。
彼女の体温と、ブランケットの柔らかな感触。
それよりも何より、グレイの視線が怖い。
無だ。無になれ。
そんな俺の心内をよそに、ティナさんの顔がふっと俺の耳元へと近づく。
甘い香りと共に、彼女の吐息が耳の縁を撫でるようにかかる。
「ヨイドレ君? あの、さっきの事で話があるんだけど。ちょっといい?」
執筆環境が変わった関係で全てのタイトルを変えました。
9月の後半から10月の間は時間が取れる様になったので、週一ペースで投稿します。
がんばるぞー!




