3_ノースウッドからローデシアの話_7
俺は即座にそこらに落ちる礫を幾つか拾う。
炎上する木の傍に居るリッチに対して、それをぶん投げる。
「オタ先輩はグレイを見てて。俺が注意を引きます」
礫はリッチに当たる。
しかし、それはローブを破る程度で、リッチにはほとんど影響を与えていないようだ。
それなら。
俺はリッチが使っていた魔法を想像する。
それは炎のような色をした魔素を手に集め、限界まで溜めて。
そして、紅蓮に発光したそれを顕現させる。
この攻撃はリッチに当たる。
俺はそう確信してる。
手に溜めたそれを、リッチに向けて開放させた。
その瞬間、空気が一瞬にして振動し、地面は激しく揺る。
爆炎と共に巨大な火柱が天を貫くように上がり。
それは轟音を立てながら、周囲に熱と光をまき散らす。
......リッチの気配は未だ消えない。
曲剣を抜いて前へ出る。
アンデッド共もまだ居るから、足を削ぎ落としておこう。
それが終わったら、グレイを担いでサイトに戻って......
え、やばいよ。
グレイ生きてるよね。
何て言い訳しようか......
付近からアンデッドが襲い来る。
俺はそれを躱しつつ、曲剣を振るい、その腕をそぎ落とす。
そうして、それに蹴りを入れて地面に転がす。
それにしても、クッコロ先輩の曲剣はすこぶる切れ味が良い。
それは切っている感覚がない位には。
俺はリッチが居るであろう場所に声を掛ける。
それは、炎と煙が渦巻くその地点に向かって。
「こんばんは! リッチさん!」
アンデッドが長く生きると、特別な個体はリッチという上位種になる。
それは、言葉を介し、魔法を使う。
バグを操るリッチだ。
会話が出来たとしても不思議じゃあない。
「俺に敵意はありませんよ! 少しお話をしませんか?」
......
返事はない。
俺の近くにどす黒い靄が生まれる。
後ちょいとすれば、リッチが近くへやって来るだろう。
周囲からアンデッド共が次々と近づいてくる。
それはゴブリンや、巨大な狼の形をした奴等だ。
既に倒された人型のアンデッドが、そこらの死体に乗り移ったのだろう。
アンデッドは祓わない限りは死体に乗り移る。
その為、頭を潰すのではなく、一部分を奪う戦い方をしたほうが得策だ。
俺は迫り来るアンデッドを避けながら、反撃を加える。
それはゴブリンの腕を切り飛ばし、大きな狼の四肢を斬り落として。
すぐさま、視線をどす黒い靄の方へと向ける。
それは先ほどよりも濃い。
そこにリッチが現れ、俺の横から攻撃を仕掛けてくるだろう。
俺は躊躇なく霧の中へと飛び込んだ。
直ぐにリッチが姿を現し、俺目掛けてロッドを振るう。
来ると分かっていれば避けるのは容易い。
リッチの懐に入ると、その攻撃は空を切る。
この距離ならば、触れられる。
右手で "ポンポン" とリッチの体を2回叩く。
すぐさま後方に跳んで、リッチと距離を取った。
「オタ先輩、リッチのバグを封じたのでグレイの奴を......」
俺がオタ先輩に話掛けようと後ろにちょいと目をやると、ティナさんが居た。
......なんで?
彼女は何か驚いているかのように、その鮮やかな灰色の瞳を大きく見開く。
「なんで!?」
ティナさんの隣では、オタ先輩が此方に向かって手を振っている。
そのすぐ近くにはグレイが倒れている。
やべえ。
どうしよう。
周囲のアンデッド共に対処しつつ、ティナさんの方へと跳ぶ。
「ティナさん! 何で居るの!?」
「な、なんでって。爆発音が聞こえたから、助けに......」
ティナさんが話す合間にも、狼の姿をしたアンデッドが襲い来る。
俺はティナさんの手を掴み、抱き寄せた。
「よ、ヨイドレ君!!? ちょ、ちょっ......「はしたないです! けどごめん許して!」」
そのまま此方に飛び掛かるアンデッドを蹴り飛ばす。
......
どうしよう。
どうするか。
師匠からは俺の力を人前で見せるな、と言われている。
その力っていうのは、魔法の事だったり、俺のバグの事だったりだろう。
もしかしたら、それが原因で師匠の計画、乃至はエライコ様を救うのに問題が出るかもしれない。
「ティナさん、いつから見ていましたか?」
俺の腕の中で、ティナさんがぼそぼそと言葉を漏らす。
「グレイさんがリッチに吹き飛ばされて、ヨイドレ君が...... そ、そうだ。君、どうして魔法を?」
うわ、やっちまってるやつだこれ。
どうしよう。
......いや、ちょっと待て。
俺はノースウッドで、ギルド受付嬢であるリタさんや、冒険者の前でバグを使っている。
それは、オタ先輩の不可視のバグを封じる事で、オタ先輩を紹介するというもの。
つまりは、まあ、起っちまった事を考えたって、仕方ないよな。
ダイジョウブ。
なんとかな......
ちょっと待て、俺は天才的な事をひらめいたぞ。
こうなったら、ティナさんを巻き込もう。
グレイはティナさんに惚れている。
これで、グレイの奴をうまくコントロールするんだ。
近くで倒れるグレイを確認すると、それは無傷と言っても良い状態。
もしかして、ティナさんが治癒魔法を掛けたのか?
しかし、意識は戻っていない様子だ。
「ティナさん、聞いてください。グレイさんは...... 実は高貴な血を引くお方なんです」
俺は周囲を警戒しながら話を続ける。
未だ、アンデッドは此方を狙う。
「そして俺は、それを陰で支える...... 奴です?」
「な、なんで疑問形なの?」
いや、いけない。
俺が弱気なら、それは嘘っぽく聞こえてしまう。
「陰で支える奴です!」
「え、ええ? そんな......「色々あって、俺の事が知られると困るんです!」」
もうこうなれば自棄だよ。強引に押し切ろう。
「とにかく! 後で事情を話します。今はサイトまで逃げましょう」




