3_ノースウッドからローデシアの話_4
「なに? 頂上を目指して、か?」
「はい。何か意思を持っているような感じでした」
俺が遭遇したアンデッドの事を話すと、デッブは自身の髭をちょいと弄り、黙り込む。
アンデッド。動く死体は当て所なく彷徨う。
近くに生者が居れば、ただただ襲い掛かり、死者の世界へと引きずり込む。
そんな単純な奴等だ。
だからこそ、何か目的を持って動くアンデッドというのは妙なのだ。
「上位種...... 人もどき。この辺りでリッチが出るという話はあるか?」
「聞いたことないですね。あ、全体的に魔物が増えているという話は聞いています」
「ふーむ? 魔物が増えているという事は、それだけ死体も増える。突然変異で上位種になる事もある」
「先日来た時には、アンデッドはそんなに多く居ませんでした。ええと、たしか1週間程前...... あっ」
俺は嫌なことを思い出した。
それはギルドの実地講習で、オタ先輩とアッチノヤマダンジョンに来た時の話だ。
"あっ、い、いや、何でもないお"
そう話すオタ先輩の近くには黒いふわふわが漂っていた。
俺はすぐにオタ先輩の方を見る。
すると、オタ先輩は顔をちょいと逸らした。
「うん? どうした? 何か心当たりでもあるのか?」
「い、いや。何でだろうな! まったく、不思議ですよ!」
「......まあよい。聖女の信託によれば、魔王の復活も近いらしい。それに呼応して、アンデッドも増えているのかもしれん」
あ、そうだ。
デッブは教会の偉い奴だ。
エライコ様の事について、何か知っているかもしれない。
「戻るぞ。アンデッドは祓わねばならん。陣の準備をする」
ただ、今はこのトラブルを解決する事に集中をしよう。
もしかしたら、俺達のせいかもしれない。
「俺に何か出来る事はありますか? 戦うのは苦手ですが、出来る事はします」
「......苦手? まあよい。それならまず、護衛を連れてアンデッドの様子を確認をしろ。もしもサイトに近ければ15分...... いや30分は足止めをしろ」
「分かりました」
「そしてもう一つ、ティナとは話すな」
「え、ああ。分かりました。理由とか聞いても良いですか?」
「......お前は、さぞ女に好かれるだろうな?」
おん?
何言ってんだ?
「あんまり、意識したことないです」
「......クソガキが。わしのティナに指一本でも触れて見ろ。ぶっ〇してやる」
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「お前、無能なんだろ?」
サイトを離れる間際、一緒に偵察にゆく護衛が俺に声を掛けてきた。
「はい。足を引っ張らない様に気を付けます」
護衛の奴は大きなため息を付く。
それはちょいとわざとらしく。
「全く、とんだ貧乏くじを引かされたもんだ。何かあっても助けないからな」
「ええ? 助けてくださいよ。お願いします」
こいつは俺の事情を知っているみたいだ。
ノースウッドの奴なのだろうか。
それとも、俺が無能だという事が各地に広まっているのか。
確認してみるか。
「護衛のお兄さんは、何処の出身の人なんですか?」
「はあ? なんでお前なんかに言わなきゃいけない」
あまり、好かれては居ないみたいだ。
そんな時、ティナさんがあっち側に見えた。
彼女はちょいと手を振り、こっちへ駆けてくる。
「お二人共、どうかお気を付けてください」
「ティナ様! 任せてください!」
護衛の野郎は背筋を伸ばし、敬礼をする。
それは大層、張り切っている様子で。
ティナさんの向こう側。
あっちの方で陣を引いているデッブに視線を向けると、奴が此方をみていた。
......
デッブはすぐ、首を切るかのような手ぶりをする。
デッブおこなんだけど。
というか、ティナさんのこと好きなの?
ティナさんとデッブとでは結構、歳が離れている気がする。
「ヨイドレ君も、無理はしないでくださいね?」
俺は無言で頷いた。
何か話せば、デッブの野郎に殺されちまう。
「......今からでも、他の方にお願いすることも出来ます」
おん?
なんでだ?
「怖いのは当然です。私だって神様の加護はあれど、怖いんですよ?」
彼女はそう言って柔和な笑みを見せる。
俺が無能だから、気遣ってくれているのかもしれない。
俺は彼女の向こうっ側、デッブの奴をちょいと見る。
......デッブが此方をガン見している。
陣を描くこともせず、鬼のような形相で。
いや、怖いよ。
勘弁してよ。
「だ、大丈夫です。さっき、護衛のお兄さんも俺のことを助けてくれるって。ねえ? ですよね?」
「任せてください、ティナ様。俺が付いていますから」
男ってのは、可愛い子の前では格好を付けるもんだ。
護衛の野郎、これで俺のことを見捨てることが出来なくなったな? このクソッタレが。
「グレイさん。彼のこと、どうかお願いします」
「はい! この命に代えても。ティナ様の事も俺が守ります!」
護衛の奴はグレイという名らしい。
ティナさんは懐から平たい水筒を取り出す。
そうして、水筒の中身を俺とグレイに振りかけた。
「この聖油により、主が汝の過ちと罪を赦し給わんことを」




