3_ノースウッドからローデシアの話_2
「オタ先輩、反省してください」
「もう、なんも言えないお」
俺がオタ先輩を探している間に、デッブ達の馬車を見失った。
なんてこった。
もうしょうがないから、乗り合いの馬車に2人分の席を支払って乗る事にした。
しかし、その道中。
"ひゃっはー! 皆殺しだぜー!"
とか叫ぶ野党に襲われた。
不可解なのが。他に馬車が近くに居るのに。俺達が乗ってた馬車だけを、野党が襲う。
「オタ先輩、なんかおかしくないですか?」
「そうかお? そんなもんだと思ってたお」
そ、そう?
そうかー
まあ、そんなもんなのかー
と思っていた。
その後も車輪が外れたり、泥沼にはまったり、御者の人の腰がやられたり。
その結果、今、俺が馬を引いている。
しかもお客さんを乗せて。
「オタ先輩。これは絶対におかしいです」
「......スチルを壊した時と似てるお。もしかしたら、ノースウッドに留まるのが師匠の」
オタ先輩の言葉が止まる。
「これは禁則事項、話せないお」
先輩達は皆、師匠の事になると先に続く言葉が止まる。
それは、何らかの呪いなのか。俺にはよく分からない。
「無理して話さなくても大丈夫です。バグってるってことですね?」
「恐らく、そうだお。」
それなら、今後もトラブルは続くのだろう。
まあ、それが分かっていれば良い。
俺に出来る事って言ったら。
それに対処できる様に、力を蓄える事だけだ。
「オタ先輩、手綱を持っててもらえますか?」
俺はオタ先輩に馬の手綱を渡す。
そうしてから、クッコロ先輩に借りた曲剣を手に持ち、鞘を抜く。
......
クッコロ先輩曰く。
これに、魔素を集めるのが修行なんだそう。
曲剣の刃は、黒いふわふわを纏う。
試しに、そのふわふわが動く想像をしてみたが、それらは少しも動かない。
黒いふわふわを操作するのは難しい。
今の俺では無理だろう。
次は、冷たい色をした魔素。
曲剣にそれを集める。
......出来た。
しかし、この曲剣は魔素を纏わせるのが凄く難しい。
もしかしたら、黒いふわふわが何か悪さをしているのかも?
結構難しそうだ。
ただ、出来ないって感じじゃあない。
毎日ひたすらやっていれば、今よりもマシにはなるだろう。
......そう言えば、オタ先輩が箱を出す時には、この黒いふわふわがそこに集まる。
つまりは、オタ先輩は黒いふわふわを操作しているという事だ。
オタ先輩に聞けば、何か黒いふわふわの操作方法が分かるかも知らない。
「オタ先輩? オタ先輩が箱を出す時に、黒いふわふわを動かしてますよね?」
「そうなのかお? おいらはナノマシンの動きとか見えないからよく分からないお」
「なのましん?」
「あーっと、......まそ? だお」
「見えないのに、どうやって動かしているんですか?」
「どうやって? ......感覚? ほら、こんなだお」
そう言ってオタ先輩は右手の平を此方に見せる。
そうして、オタ先輩自身の体から溢れる黒いふわふわ。
それが渦巻く様に掌に集まり、黒い箱が出現した。
「なんか、そこに魔素が集まるような、そんな感覚ですか?」
「......なんだおそれ。単純に変数に格納する感じだお」
オタ先輩の説明はちょっと分からない。
そう言ってオタ先輩は、手綱を持つ方の手で箱を開ける。
そうして中に手を突っ込み、水筒を出した。
「ヨイドレ氏も飲むかお?」
「......いえ、大丈夫です」
オタ先輩は、ちょいと仮面をずらして水筒を呷る。
......そう言えば、オタ先輩の素顔を俺は見たことが無い。
クッコロ先輩なんかは時たま仮面を取るのだけれど、オタ先輩は常に付けっぱなしだ。
「仮面、取らないんですか?」
「うん? ああ、もう慣れてるから問題ないお」
「何か、取らない理由とかあったりするんですか?」
「いや? 特に理由はないお。ただ、着けてると落ち着くんだお。寒い日のマスクみたいなもんだお」
変わってるなあ。
オタ先輩は水筒を箱に入れる。
そうして、掌の箱は黒いふわふわへと変わり、霧散した。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
色々あって、アッチノヤマダンジョンに着いたのは予定よりも遅れた。
「ああ、本当にありがとうね、ヨイドレさん」
「いやいや。腰、気を付けてくださいね」
馬車のおっちゃん。
腰やっちまったのは、もしかしたら俺が関係しているかもしれない。
「ヨイドレ兄ちゃん!」
ちびっ子が此方に手を振る。
野党に襲われた時に助けてやった子だ。
その姉らしき人が、ちょいとこちらに頭を下げる。
やべえ。
何も言えねえ。
野党に襲われたのも、俺の所為かも知らない。
後生、黙っておこう。
もう、日が暮れ始める。
今日はダンジョン街で宿を取るという話だった。
明日、山登りを始めるはずだ。
今から、デッブ達の事を探さなくてはいけない。
......
「馬車のおっちゃん。馬車仲間の人は居ますか? おっちゃんの事が心配だから、お願いしたいんだけど」
「なに、大丈夫だよこれくらい」
「ああ、そのついでに、馬車仲間の人に聞きたい事があるんです。何か豪華な馬車が来なかったか? とか、そんな感じの事」
おっちゃんにそう話すと、おっちゃんは周囲に居た馬車仲間の人達を紹介してくれた。
"あれだよ。確かヨハンの奴が引いて来た馬車だろ"
"何か訳ありな客人だろ。太った奴と、品の良い女だったな"
"何か急いでたよ。確か、中央山道を行くって言ってたかな。え? 宿? それは聞いちゃいねえな"
宿の話は聞いていないみたいだ。
まさか、日が沈む中、進んだりはしないはずだ。




