3_ノースウッドからローデシアの話_1
師匠の店が無くなってから、10日ほど経った。
俺とオタ先輩はノースウッドを出る。
クッコロ先輩はノースウッドに残って、オーグナーの食客として滞在するそうだ。
「クッコロ氏、一人で大丈夫かお」
「問題ない」
「ほんとかお? 買い物とか、一人で出来るかお?」
「出来る。馬鹿に、するな」
どうだろうか、クッコロ先輩は対人関係ポンコツだ。
買い物が出来ないは、あり得る。
「クッコロ先輩。ソワール達に言えば動いてくれるはずです。奴等は、俺に借りがありますから」
クッコロ先輩が俺を見つめる。
それは無表情で、何を考えているのかは分からない。
「......後輩。これ」
クッコロ先輩はそう言って、いつも身に着けるパルノ族の仮面を俺に渡たして来た。
それは壁のような、のっぺりとした仮面だ。
「いいんですか? エルフは目立ちますよ?」
「代わりの、探す。あと、これも」
続けて、クッコロ先輩がいつも使っている曲剣を俺に渡す。
それは、ちょいと黒いふわふわを纏う。
「え、良いんですか?」
クッコロ先輩が持つ曲剣は、マジで綺麗な刀をしているのだ。
それは木目みたいな模様をしていて、この辺なんかでは見たことがない。
「ん。でも、帰ったら、返して」
「やった! ありがとうございます!」
「後輩、修行。その剣の魔素、コントロールする事」
そうか。
修行か。
「魔素って、黒いふわふわの事ですか?」
「そう。でも、それ以外も。その剣に魔素を集める、修行」
なるほど。
最近、俺は魔素を思いの様に動かせるようになってきた。
まあ、それをやると凄い疲れてしまうのだけれど。
師匠曰く、脳に負担が掛かるのだと言っていた。
一般的な言い方ならば、魔力を多く消費するという事だ。
魔素を自身の身や、他人に纏わせることを強化魔法と呼ぶ。
この魔法は割と楽で、それは何か、べったりと張り付くような感覚で、楽に人体にくっつく。
物に魔素を纏わせることを、付与魔法と呼ぶ。
付与魔法は、くっつき易い物と、くっつき難いものがある。
その見分け方はよく分からない。
今の所、その辺の木の枝なんかはくっつき易かった。
あとは、俺が愛用するナイフなんかは、くっつき難い。
「分かりました。クッコロ先輩、本当にありがとうございます」
「ん。自分を磨く、わかった?」
なんだかんだ、クッコロ先輩にはすごくお世話になっている。
何らかの形で、恩を返したい。
「クッコロ先輩。俺に出来る事があれば、何か言ってくださいね」
「じゃあ、名札...... 「それは嫌です」」
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「ヨイドレ様!」
ソワールの野郎だ。
俺がオーグナーの屋敷に滞在している間、ソワールはやたら俺に構って来た。
まあ、ソワールだけではない。
俺が助けた使用人達も、やたら俺の事を構う。
それは鬱陶しい位には。
「どうしましたか?」
「あ、あの。......私、えっと......」
それは、言いたい事が纏まって居ないような。
何か言いたいことがあるのだけれど、どう伝えて良いのか分からないような。
ソワールはそんな感じの様子を暫く続けると、しゅんとした様子で言葉を続けた。
「どうか、お気を付けて」
「ああ、お構いなく」
俺は屋敷の門を通る。
デッブ達との待ち合わせ場所に向かおう。
「ヨイドレ様!」
もう、何なのまじで。
ソワールの野郎が、また声を掛けてきた。
振り返ると、小走りでこちらに来るソワールが見えた。
ソワールが距離を縮めるごとに、俺の中のモヤモヤが膨れ上がる。
それは嫌な感情だ。
大凡、人になんかは見せたく無い。
「どうしましたか?」
「私、私! 両親に売られてこの屋敷に来た時から、ずっと。ずっと人を傷つける様な仕事ばかりしてきました。でも、貴方の世話役になって、弟ができたみたいで楽しくって」
ソワールは、その小さな肩を微かに震わす。
彼女は瞳に涙を宿し、言葉を紡ごうとする彼女の唇が何度も震える。
「貴方は、偽物なんだと聞いて......」
今でも、ボスは俺の事を疑っている。
それは人もどき、だなんて呼ばれるくらいには。
鑑定ができないって言うのは、俺自身、自分であることを証明できないという事だ。
それは、俺が人間であることすら、証明が出来ないという事。
「貴方を、殺そうとしました。でも、今は違います。貴方のことを、ヨイドレ様だと信じています」
「そう、ですか。まあ、大丈夫です。俺は何とも思っていないですから」
正直な所、俺は他人に人もどきだとか言われたって一向に構わない。
寧ろ、化物になったって良い。それでエライコ様が救えるなら。
「じゃあ...... じゃあ、どうして目を合わせてくれないんですか?」
......
なんて言えばいいのだろうか。
ソワールの瞳には、俺が映る。
しかしその実、ソワールは俺の事なんて見ちゃいない。
そうやって、強く感じちまうんだ。
俺はそれが、堪らなく、寂しい。
そして、それを感じれば感じる程に、エライコ様を恋しく思っちまうんだよ。
それは、ソワールがどうとか、そう言う話じゃあない。
すべては俺の問題だ。
「ごめんなさい。失礼でしたね。ソワール? もしも貴方が、俺に対して何か負い目みたいなのがあるなら。それをクッコロせ、師匠に返してください。クッコロ師匠が困っている時には、彼女を助けてあげてください」
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
俺はデッブ達との待ち合わせ場所に来た。
それは、冒険者ギルドの前にある通り。
奴等は、一団でノースウッドに来たらしい。
流石、世間一般に言われる神の使徒ってやつだ。
「ヨイドレ氏。リタ氏、スカウト成功したお」
「スカウト? 何のですか?」
「ギルドの、アイドルグループを作るんだお」
まじかよ、いつの間に。
思い当たるものと言えば......
「実地講習の時ですか?」
リタさんが変な気を使って、俺達は実地講習に参加した。
それはリタさんも一緒に。
俺が居ないで話すとしたら、それくらいだろう。
「そうだお、お願いしたら涙流すほど喜んでたお」
おっと。
また何か、勘違いが起こってる気がする。
オタ先輩とそんな雑談をしていると、あっちの方から、何かの一団みたいなのが見えた。
......デッブだ。
絢爛な装飾が施される馬車の車体、その窓からデッブの奴が見えた。
......
デッブと目が合った気がする。
直ぐに、奴は同行している騎馬護衛に、何か話しかける。
俺の事を指さして、何かを話している様子だ。
話し終えたのだろうか、騎馬護衛が此方に駆けてきた。
「おい、ヨイドレだな?」
「はい。よろしくお願いします」
「ああ。歩いて付いてこい。離れるなよ」
騎馬護衛はそう言って、馬車の隊列に戻る。
馬車はちょいと早い。
「ヨイドレ氏、達者でお」
「いやいや、オタ先輩も行くんですよ。ローデシアにもギルドはありますよ」
「ほら、いくお!」
先輩は、そこらに通り掛かった馬車に飛び乗る。
すると、その馬車はガタンと揺れる。
「先にいってるお!」
そう言ってオタ先輩を載せる馬車は、少し行った所で横道へ逸れる。
デッブ達が乗ってる馬車は、まっすぐ行っちまっているっていうのに。
なんてこった。
見なかったことにしよう。




