2_俺が目覚めた後の話_3
「お待ちしていましたよ。師匠、さんですね。倅が世話になったようで。ささ、どうぞお掛け......」
クッコロ先輩はボスの話を無視して、ソファーに座る。
それは腕を組んで、少し偉そうな感じで。
すげえ、先輩。
俺には真似できねえ。
俺は一言告げて、先輩の隣に座った。
「失礼します」
対面に座るボスの隣には、デッブという奴が座っている。
うっわ。
めっちゃ睨んでくるんだけど。
デッブ、めっちゃ睨んでくる。
「ワシは、そなたがゴキブリ野郎って言ったこと、覚えてるからな」
マジかよ。
こんなギスギスした状態で旅に出るのかよ。
俺無理だよ。
「い、嫌だな、デッブさん。ご、誤解です。
う、受け取り側の相違と言いますか、か、価値観の違いですよ。
ゴキブリとクワガタって同じでしょう? 素早いクワガタです!」
俺がそう話すと、デッブは表情を変えずにボソリと呟く。
「クワガタ、か」
「そう! クワガタ。高機動型クワガタがゴキブリです! いやあ、デッブさんってかっこいいですよね」
「......そう思うか?」
おいおい。
俺の話術、光ってんな。
今日、来てるわ。
波に乗ってる。
「もちろんです! いやあ、俺デッブさんと旅するのが楽しみだなあ!」
「......旅?」
やっべ。
俺、やっちまってる気がする。
「いやいやいや。語り合いたいって事です。男と男同士の......ね?」
ごめんなさい。もう、無理です。
帰りたいです。
言葉を濁してみたけど、変な誤解を生みそうです。
心なしかデッブは、顔が引きつっている様な気もする。
そんな折、ボスが咳を一つした。
それはちょいとわざとらしく。
「所で、師匠というのは名ではあるまい?
パルノ族の方だとは分かるが、どうせ金で買ったものだろう。
面を取って頂けますかな?」
......
俺は隣に座るクッコロ先輩を小突く。
「っん。後輩、それやめて」
「クッコロ......師匠。話掛けられてます」
「......急かされるの、きらい」
もう、嫌だよ。
カオスだよ。
......
何拍かの沈黙の後、クッコロ先輩は面を取る。
するとボスはちょいと目を見開く。
それはエルフが珍しいからだろう。
「クッ、コロ。頭が高い、人間共。頭を、垂れろ」
......
ボスは俺を見る。
それはちょいと戸惑っているような感じで。
「え、エルフの挨拶です。クッコロさんと言います」
「そ、そうか。挨拶か......挨拶? まあ、良いだろう。さて、クッコロ殿。手紙の件で聞きたいことがあるのだが?」
「......なに?」
「聖都の魔道具を掠める代わりに、倅を学園に通わせるのは問題ない。しかし、それでクッコロ殿に何のメリットがある? まさか慈善の為だとは言わんだろう?」
「......知らない。でも、後輩、困ってたら助ける」
ボスは俺を見る。
それはちょいと困惑している様な感じで。
それと共にクッコロ先輩が俺の服を引っ張る。
俺はそちらに顔を向けた。
「帰りたい」
おおう、マジかよクッコロ先輩。
諦めるの早すぎだよ。
......まったく。しようがない先輩だ。
「こっち側にも利ならありますよ。俺の代、学園には様々な要人の子達が通うでしょう。俺達の目的はその中の一人です」
「ふむ? それは誰だ? 名前を教えろ」
エライコ様だ。
しかし、相手に手の内を晒す必要は無いだろう。
「ボスだって、知ってしまったらデメリットになる事があるって、知っているでしょう? 仮に知ってしまったとして、困るのはボスの方でしょうね」
「......なるほど。所でヨイドレ、お前が裏切った時にはソワール達を殺す」
落ち着け。
弱みは見せるな。
オーグナーの奴等はそれに付け込む。
「それが俺の枷になると思っているんですか?」
「なるな、お前は愚かな奴だ。わざわざ庇ったりしたのがその証拠だろう?」
「......そう、どうぞ勝手にしてください」
......愚かな奴。
確かに、俺は愚かな奴だ。
見捨てるのが正しい選択だと、理解はしている。
それでも、体が動いちまうんだよ。
それは、愚か以外の何でも無い。
「そもそも、ボスは勘違いしていますよ。
俺達に利があって、あなた方にも利がある。
その関係が続く限りは仲間でしょう?」
ボスが考える事は分かる。
何せ、俺も同じ質の人間だ。
違う所と言えば、俺にはエライコ様が居て、彼女に顔向けできない事はしない。
「きっと、ボスは支払う利が少ない事を気にしているんですよね?
安心してくださいよ。
師匠は他にも、あなた方に動いて欲しい事があるみたいですから」




