2_俺が目覚めた後の話_1
あれ...... 俺......
どうしたんだっけか......
ボスに手紙を渡して...... それから俺は......
俺は......
やばい!
俺はすぐさま身を起こす。
急いで周囲を見渡し、状況を確認した。
これと言って特徴の無い部屋だ。
テーブルや棚等があり、床にはペルシャ柄の絨毯が広がる。
近くの窓からは光が差し、外からか鳥の鳴き声なんかも聞こえる。
「此処は...... オーグナーの屋敷か?」
窓から見える景色には見覚えがあった。
俺が幼い頃に訓練をしていた広場が見える。
俺が窓辺で外を眺めていると、部屋の戸を叩く音が聞こえた。
「失礼しま...... ヨイドレ様! 嗚呼、良かった。意識が戻ったんですね!」
......ソワールの野郎だ。
俺はちょいと身構える。
それはいつ、何があっても良い様に。
ソワールはこちらへとやってきて、俺の体に触れようとする。
俺はちょいと下がってそれを躱した。
うん?
そう言えば体が軽い。
もしかして、オーグナーの奴等は俺に治癒魔法でも掛けたのだろうか。
「状況が知りたいです。あなた方は俺の事を殺そうとしていましたよね?」
ソワールはちょいと気まずそうな感じで目をそらす。
そうして言葉を紡ぐ様に話始めた。
曰く、今までの事はすまなかったと。
命を救ってもらって、感謝していると。
ボスも俺の事を認め、学園に通う為に準備をしていると。
「そう...... ですか」
目的は達成したみたいだ。
ただ、何故か分からないけれど、俺は、ちっとも嬉しくなかった。
ボスに認められたい。
俺はそう思って、ずっと、ずっと自分を磨いてきた。
それが今、ようやく叶ったんだ。
「気を付けてください。当主様はヨイドレ様の事を利用しようとしています。私達はあなた様に命を救われた身、私達はあなたの力になります」
そう言ってソワールは、こちらへ寄り縋ろうとする。
俺は後ろに下がり、それを躱した。
「ありがとう。でも、俺の事は気にしないでください」
「っん。そ、そんな...... 私は、あなたに尽くしたいんです」
心が、乾く感じがした。
......エライコ様に会いたい。
何故だか分からないけど、堪らなくエライコ様と話したい。
「ちょっと外出したいんだけど、良いかな?」
「っいえ。まだ安静になさっていた方が、良いのでは?」
「......少しだけですから。そうだ、ソワールは俺の力になってくれるんですよね?」
最悪な気分だ。
それはソワールがどうだとか、そう言う話じゃあない。
よく分からないけど、最悪な気分だ。
......ここに居たら、心が腐ってしまいそうだ。
師匠の店に戻って、早いとこ聖都へ行くための話がしたい。
......こんな所、居たく無い。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「やあやあご苦労様! オタ君から話は聞いてるよ。流石だね」
「......もう体がボロボロなんですけど」
「まあまあ。その様子なら治癒魔法は掛けて貰ったんでしょ? 結果良ければすべて良しさ」
こ、こいつ......
そう言う問題じゃあないだろ。
師匠はいつもの様にソファーに掛ける。
それはちょいと気だるそうな感じで。
「生きているから良いものの...... 説明はしてくれるんですよね?」
「ええ? 説明? ......あっ! 君のボールペンを見せてくれる?」
「......はい、どうぞ」
師匠はボールペンを受け取ると、ちょっと見た後に俺に返す。
「結構とれたね。ええと、説明っていうのは手紙の内容かな?」
「手紙には何が書いてあったんですか?」
「何って、簡単な事さ。オーグナーの悪事。そして私達が、彼の求める物を持っているって事をね」
「求める物?」
「まあ、それはおいおい」
......師匠が話す内、悪事の部分ならば理解できる。
オーグナーはノースウッドの暗部を仕切る。
表向きは貿易と花屋、しかしその実、金を作る為にシノギを削る。
殺し、麻薬の製造と密売、ダンジョンを使った資金洗浄、密入国斡旋。
金を作る者が偉いのだと、俺はボスからそう教わって生きてきた。
「もし、もしも。ボスが手紙を読まなければどうしていたんですか?」
「読むよ。もし、君が死んでいたとしても。どう転がっても、一つに繋がるのさ」
「......どういうことです?」
「80%のお膳立てをしてやりゃあ、後は誰がやったって、同じような動きをするのさ。まあ、そんな事より、これからの話をしようか。君にはお願いがあるんだ」
「......俺は聖都に行きたいんですけど」
「あゝ大丈夫。君はエライコさんに会いに行きたいんでしょ? お願いは聖都での事さ」
何だってやってやるよ。
エライコ様が助かるのなら。
「分かりました。お願いって、何ですか?」
「まず、君の実家に神の使徒を名乗る奴が居るだろう? ええと、名前は...... 何だったっけ?」
「デッブという人です...... 質問良いですか?」
デッブという奴は、教会の中でも特に位が高いらしい。
しかし、そいつはボスに従っていた。
何故オーグナーなんかチンピラの下に付くのだろうか。
何故、師匠はあいつ程度を恐れるのか。
「師匠は以前、外に出ると神の使徒に追いかけ回されると言っていましたよね?」
「うん? まあそうだね。外に出た瞬間に見つかってしまうよ」
「そんなに、力を持つ奴には見えませんでした」
「え? あー! ごめん! 伝えるのを忘れてたよ。教会の奴等は皆、インチキ野郎さ。神の名を使って、利権を独占する事しか考えちゃいない。まったく、嫌になっちまうよね?」
どういうことだ?
「彼らの他にも...... いや、神様は存在するんですか?」
「するよ。神は居る」
「......神様が本当に居るなら、そんな人達を野放しにはしないはずです」
「君はきっと勘違いしているんじゃあないかな? 神様は、人間も愛しているんだよ。それはその、醜い部分を含めてね。あゝ、そんな事よりも」
師匠は何か思い出したかの様に手を叩く。
"ぱんッ!" という音が室内に木霊した。
「君はちょいと経ったら、デッブ君? と旅に出る事になる。それは聖都へと向かう旅さ」
......続きを聞こう。
「君の実家の狙いは、聖都からとある旧世界の遺物を盗み出す事。それは大昔に核って呼ばれていた魔道具だ」
核?
確か、師匠の昔話で聞いたことがある。
それは大きな都市が丸ごと吹き飛ぶ様な代物らしい。
「君には結界を破る力がある。しかし、教会内部までは潜り込めない。つまりはデッブ君の手引きが必要って訳さ」
話の流れは見えてきた。
しかし、オーグナーの連中にそんな危ない魔道具を渡して良いのか?
......そんな事は、間違っている。
俺には、それが正しい事だなんて、思えない。
「オーグナーの連中に、そんな魔道具を渡したら危ないと思います」
「嫌だな。君は私の事を勘違いしているよ? 私だって、そんな危ない物を彼等に渡す気はない。そこで、これさ」
師匠は机の上に転がっていた丸い球を手に取り、それを此方に放る。
俺は急な事で、慌ててそれを両手で捕まえた。
丸い球だ。
つるつるしてて、気持ちが良い。
そして、少し黒いふわふわを纏う。
よく見ると、真ん中には何かボタンのようなものが付いている。
「なんです? こ...... 「それ、その真ん中のボタンを押してみて?」」
真ん中のボタン?
俺は師匠に言われてボタンを押してみる。
すると丸い球はピカピカと光ったり、消えたり。
なんだこれ。
ちょっと綺麗だ。
「それが核さ。ボタンを押せば、爆発する」
はい?
っはい!?




