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1_ノースウッドの話_n+1_6




 そうだなあ、何から話そうか......




 先ず、君は私の事をどう考えてる?


 良い奴?

 それとも悪い奴?


 ......






 先に答えを言っておくとね、私は大多数の奴等にとっては、とっても悪い奴なんだ。

 何故なら。

 スチルっていうのは神様が作ったものだからね。


 そりゃあ、神様が作ったものには意味がある。

 それを壊すんだから、相応の(ひずみ)だって起こってしまうものさ。


 それは大多数の奴等にとっては、とっても迷惑な事。


 だって、そうでしょう?

 大多数の奴等は、幸せが約束されてるんだぜ?


 でもその一方でね、少数側の奴等は泣きを見なければいけないのさ。

 それは君と、エライコさんみたいにね?



 ......それって、巫山戯(ふざけ)た話でしょう?


 私は、そう言うのが、どうしても我慢ならないんだ。

 インチキ野郎がまかり通って、

 その一方で、君みたいな子が傷ついて、泣きを見る様な世界に。



 だからさ、私は世界中でスチルを壊して回る事にしたんだ。



 ......悲しいけどね、私はとっても悪い奴なんだぜ?


 外へ出ただけで神の使徒からは追いかけ回され、世界中の奴等は私の話に耳も向けない。


 それどころか、視界にすら入れないんだ。


 そんなもんだから、助けてやった子にすら敵意を向けられた事だってあるよ。



 ......でもまあ、それもしようがない事かもね。


 なにせ、私はとっても悪い奴なんだからさ。



 ♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦



 師匠は伏し目がちに話す。

 それはまるで独り言の様な感じで、何か物悲しそうに。


 正直な話。

 俺は師匠に少し同情している。


 勿論、師匠の話が嘘だって事もあり得る。


 しかし、師匠の話を聞くと、何故か心が揺さぶられるのだ。

 それは俺が少数側の人間だからなのか。

 それとも師匠が、何か特別な魔法を使っているのか。


 どうするか。



 ......いや、考えても仕方ないか。

 嘘か本当か分からない話を聞いても、何も解決はしない。



 思い出せよ。

 俺の目的は一つだけだ。

 俺が辛い時、いつもエライコ様が隣に居た。

 恩は返す、それが(すじ)ってもんだ。



「俺は、悪いとか、良いとか。もうどっちでもいいです。ただ、エライコ様を助けたいです。スチルを壊す事が悪い事だとしても、彼女が助かるなら俺はやります」


「......流石。ただ、君は特別だよ。君がスチルを壊す事は、悪くない」


 ん?

 どういう意味だ?


「君は本当に特別なんだよ。この前試してみて分かった事だけど、君は本当にバグってるんだ」


 師匠がいつもバグという単語をいうから、それがどんな意味なのかはなんとなく分かる。

 それは挙動がおかしいという事。


「例えばね。私とか、君の先輩達がスチルを壊すとバグが起きて周囲に災害が起こる。にもかかわらず、君がスチルを壊しても何も起きなかったんだ」


「......まって、俺、いつスチルを壊したんですか?」

「うん? お使いでクレープ買いに行った時だよ? アイスの時も何も起きなかったね」


 こ、こいつ。

 マジで何てことさせてんだよ。


 というか、さっきは冗談だって言っていただろう。


 本当に師匠は、もう、よく分からない。


 なに。師匠なんなの。


「やや、ごめんって。そんな顔しないでよ? 良い事を教えてあげるから。君が気になっている黒いふわふわだけどね、それはバグの塊さ」


 バグの塊?


「黒いふわふわには無限の可能性が含まれているんだ。そして、それが君とエライコさんを救う唯一のカギになるだろうね」

「無限の可能性?」


「そうそう。例えばオタ君なんかだと箱を出すでしょう? あれ、何だと思う?」


 何って......


 オタ先輩は自由に箱を出す事が出来るそうだ。

 それは大きな箱だとか、細長い箱、はたまた透明な箱だとか。


 いつもオタ先輩は箱を使って、魔物の攻撃などを防いでいた。

 それが壊れる所を、俺は一度も見たことが無い。


「魔法...... じゃあないですよね。スキルじゃないんですか?」


「いやいや、あんな出鱈目なスキルないよ。スキルっていうのは技術的な能力を指すんだ。例えば、剣士ならば剣を扱うスキルだとか、魔法使いなら、魔法を扱うスキル。それぞれ個人に付与する技能でしょう?」


「......じゃあ、あれは何です?」

「バグさ。オタ君のあれは世界の理に干渉しているんだ。箱の中は外界と完全に遮断されてる」


 世界の理に干渉している?

 まるで、旧世界の遺物みたいだ。


「それじゃあ、師匠も同じような力を持ってるんですか?」

「そうだね。まあ、ささやかな物さ。気にする必要はないよ」


 いや、気になるだろう。

 師匠のバグは何なのだろうか。



「さて、話を戻して。スチルを壊す時にね、黒いふわふわが一緒に出るんだ。それを集めて、大きな黒いふわふわにする事で、どんな未来だって掴むことが出来る。それは、君とエライコさんが何のしがらみも無く、幸せに暮らせる未来だってね?」



 ......エライコ様と幸せに暮らす未来。


 それは普通なら絶対に叶わぬ未来だろう。

 なんせ、エライコ様は聖女様だ。


 チンピラ貴族のオーグナーなんかとは、住む世界が違う。


 もし、スチルを壊したって、

 それで、エライコ様を助けたって。


 俺がエライコ様の傍に居続ける事なんて、出来やしない。






 ......駄目だ。

 クソッタレな考えが頭に浮かんじまう。


 黒いふわふわを集める事で、エライコ様と一緒に居られるようになるだなんて。

 それはエライコ様が望む事なのか?

 俺の都合で道理を曲げて、無理やりエライコ様と一緒に居る事は正しい事なのか?



 ......俺には、それが正しい事だなんて、思えない。



「......まあ、深くは考えないでよ? スチルを壊せば黒いふわふわが出てくるんだ。それがあると世界中の子達も助かる。だから、君にはスチルを壊したときに出てくる黒いふわふわを集めて欲しいんだ」


「それは、手伝います。師匠には恩もありま...... ん?」


 師匠が言うには、俺がお使いをしている最中にスチルを壊したと言っていた。

 しかし、その時に黒いふわふわなんて見ていない。


「先ほど、師匠は俺がスチルを壊したって言っていましたよね? 黒いふわふわなんて見なかったんですけど」

「うん。あの程度のスチルなら発生する歪だって少ないから、黒いふわふわだって殆ど出ないよ?」


「そうなんですか? もしかして、スチルにも種類があるんですか?」


「いやいや、そう言う事じゃあないね。神が定めた運命から大きく外れる程、歪は大きくなるんだ。そして、それに応じて黒いふわふわだって大量に出る。まあ、それによって起こる災害も大きくなっちゃうんだけど。逆もまた然り(しかり)さ」


 ああ、そうか。

 てっきり、師匠は起こる災害など考えず、俺にスチルを壊させたのかと思ていた。

 ちゃんと、その辺りは考えているのか。


 今日の師匠は何故か、色々な事を教えてくれる。

 他に話したい事は何かあるだろうか?

 

 ......


 俺の小指の痣と、エライコ様の事くらいか?


 聖都に一度、エライコ様の様子を見に行きたい。


「あと、質問なのですが。俺の小指の痣って何です?」

「あゝ、それは気にしなくていいよ」


 俺は以前にも同様な質問をしたことがある。


 その時と同じ反応だ。


 答える気が無いらしい。


「......友達に聞いたら、呪いの類じゃないかって言われたんですけど」

「うーん。仮にそれが呪いの類だとして、君には何の問題も無いんでしょう?」


 たしかに、これによって何か変わったという事はない。


「私が思うにね、むしろそれ、カッコいいと思うよ?」


 カッコいいって何だよ。

 適当過ぎるだろ。


「いや、寧ろ。それはお洒落(しゃれ)の為にある感じじゃあない? きっとそうさ、意味なんて無いよ。無意味さ。まったく、色々な事を勘ぐるのは良くない癖だぜ? グリグリになっちゃうよ」


 どうやら答える気が無いらしい。

 これ以上聞いても無駄だろう。



 師匠は、本当に分からない。

 この小指にも、何か意味があるのかもしれないし、何もないのかもしれない。

 しかし、何か不吉な物なんじゃあないかと思ってしまうのだ。


 確か "指切り" と言ったか。

 師匠と指切りをした後、気が付かない内に痣が出来ていた。



"私が住んでいた所ではこういうまじないがあってね。指切りを結んだ相手とは必ず約束をたがえないんだ"



 約束をたがえない。


 その約束とは、師匠のお願いを聞く事。

 一方で、嫌だったら断っても良いと話していた。

 しかし、それは普通のお願いと何ら変わらないのでは?



 ......まてよ。


 "私が住んでいた所" と言っていた。


 つまり指切りという風習がある所を探れば、師匠の事が何か分かるのか?



 ......いやいや、待て。

 俺の目的はそれじゃあ無いだろう。



 ......とりあえず、師匠には恩がある。

 恩を仇で返す様な真似はしたくはない。


「分かりました。あと、エライコ様の事で相談があるんですけど」

「どうしたの? なんだって話してくれよ。なんせ私は君の師匠だぜ?」


 うーん。

 どう話すか。


 とりあえず、またエライコ様が治癒魔法を使えないかどうかの確認をして、聖都に様子を見に行く許可を貰おう。出来れば早い方が良い。


 オーグナーとのしがらみを片付けたらすぐにでも行きたい。


「あの、勿論、師匠の事を疑ってる訳では無いのですが。エライコ様は治癒魔法が使えないんですよね?」

「そうだね。まあ、君みたいな前例もあるから、絶対そうだとは言えないけどさ」


「一度、エライコ様の様子を見に行きたいんですけど。どうですか?」

「いいよ? それでも、私のお願い事を先に済ませてから行ってくれる?」


「オーグナーとの事ですか? それって今月中には片付きますか?」

「いやいや。その他にもやってもらいたい事は沢山あるんだ」


 沢山......


 俺は出来れば早くいきたい。


「......出来れば、オーグナーとの事を片付けたらすぐに行きたいんですけど」





 俺は恐る恐るそうやって、師匠に話した。





 すると、師匠は背筋を伸ばし腕を組む。

 それは自らを抱くような感じで、右手だけを唇にやって。

 それは、何かを考えている様な感じだ。





「うーん、ごめん。それはちょっと難しいな。ただ、私は君の事を尊重したいと思ってる。一つ、一つだけ。大きなスチルを壊す必要がある。それは本当に、君とエライコさんの未来に関わるものなんだ。だから1年程度は......うん? いやいや。ちょっと待っててね?」


  そう言うと師匠は机の上に置いてあった1冊の本を手に取る。

  姿勢を崩し、ソファーの上で胡坐(あぐら)をかいて本を読み始めた。


「えーっと、確か。このタイミングで勇者とその師匠が...... あう、あー。予めボスをどうにかすれば...... ううーん。あ、店の場所を変えて対応すればいけるかも? ここはクッコロちゃんに任せておいて...... うーん。タロウ君に合流出来れば何とかなる? いや、何とかするか......」


  師匠は本を読みながら唸る。

  あーでもない、こーでもないと独り言をつぶやいては、時折体を揺らして上を向く。

  何かを考えている様だ。


「最短で5カ月後って感じだね。8月には君は聖都に居る感じで調整できる。これ以上はちょっと厳しいな。それでも大丈夫?」


 師匠も色々と俺の事を考えてくれているみたいだ。

 少なくとも、俺にはそう見える。


 ......5か月後か。

 師匠がそれ以上が厳しいというなら、そう言う事なのだろう。



 それにしても。

 5か月後にはエライコ様に会えるのかよ。


 なんか、そうやって考えると、何かめっちゃ緊張するわ。

 やべえ。


 どうしよう。


 どうしよう!



「おいおい。顔がにやけてるぜ? 君がそんなに喜んでくれるなら、私はとっても嬉しいよ。まあでも、先に、君の実家の事を済ませなきゃいけないでしょ? 私のお願いを聞いてくれる?」

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