1_ノースウッドの話_n+1_5
「師匠! 今日こそ説明してください!」
「おお、今日は元気だね? 何かあったの?」
師匠は謎な事が多すぎる。
今日こそ色々、問いただしてやるんだ。
しかし。
先に、さっきあった事を報告しとこう。
「......さっき、教会でソワールと会って、ボスとの仲介をお願いしました。3日後また教会に行ってきます。あと、尾行されました。オーグナーの奴等です。撒きましたけど」
「流石! あゝ、尾行なら大丈夫だよ。外でたむろしてる君の先輩が、怪しい奴は止めてくれるのさ。そう言う契約なんだ」
は、あれは先輩だったのか!?
この店がある通りは、ファングーラオという名のメイン通りからちょいと道を外れた路地裏にある。
そこは昼でも薄暗く、そこらかしこに素行が良くない者達がたむろしている。
しかし、彼ら彼女等は何故か俺に親切なのだ。
「な、なんでそう言う事を黙ってるんです?」
「別に黙ってるってわけじゃあ無いよ? 単純に聞かれなかったからってだけだね」
「......じゃあ、聞いたら教えてくれるんですか?」
「おいおい、私を誰だと思ってるのさ? 君の師匠だぜ? なんだって答えてやるよ」
師匠はそう話すと片肘をソファのひじ掛けに乗せ、そこに寄り掛かるようにして座る。
その姿勢は何処か気だるげだ。
「あゝでもね? 私が君の疑問に答えたとして、それが本当の事かどうかなんて、君はどうやって判断するの? 嘘か本当か分からない話を聞いて、君の疑問は本当に解決するのかな? それでもいいなら質問すると良いさ」
何だよそれ。
師匠はいつもこんな感じだ。
師匠が本当の事を話すという保証はない。
どうする?
なにか質問するか?
......
「教会は、俺の手紙を盗み見ていたんですか?」
真正面から何かを質問しても、師匠はのらりくらりとはぐらかすだけだろう。
細かい質問を沢山して、師匠の事を探ろう。
「そりゃあそうでしょ? 建前的には聖女様に渡す手紙だぜ?」
まあ、そうか。
そんな感じはしていた。
しかし、何故オーグナーは俺が魔法を使えるという事にこだわっているのだろうか。手紙の内容を監視したり、俺を尾行するだなんて、明らかに固執しているだろう。
ソワールの事も気になる。
師匠は何故、ソワールの行動を分かっていたのだろうか。
「何故、ソワールが教会に来ることを知っていたんですか?」
「べつに知らないよ? ただ、人間なんてそんなもんさ。80%のお膳立てをしてやりゃあ、後は誰がやったって、同じような動きをするだろうね」
「......つまり、ソワールにそう仕向けたってことですか?」
「うーん、それはちょっと違うかも。だって、私がした事って言ったら、そうだね......」
師匠は足を組みなおして話を続ける。
「せいぜい君をお使いに行かせたり、クッコロちゃんに君の事を任せたり、君にお願いして手紙の内容を変えて貰ったり、それくらいさ。あとは君の実家が色々と勘ぐってるってだけの話だね」
勘ぐってる?
「どういうことです?」
「うん? 君が反乱分子と繋がってるだとか、オーグナーの悲願を叶える為の障害になりそうだ...... 「ちょ、ちょっと待ってください」」
おいおい、なんでそんな話になる。
俺はそんな事、考えた事も無いぞ。
「そんな、突拍子もない話...... 何故そんな話になるんです?」
「何故って...... そうだなあ。少し話は変わるけど、君はパルノ族についてどこまで知ってる?」
「パルノ族? いつも壁みたいな仮面をしている人たちですよね? 確か、部族の掟で人に素顔を見せる事が禁止されてるって聞きました」
「そうだね、それは正しい。でも、ちょっと情報が不足しているみたいかな? パルノっていうのは古い言葉で、粉を撒く奴の事を指しているのさ。本物のパルノ族なんて、手で数えるほどしかいないかな」
そうして師匠はパルノ族について話し始めた。
曰く、
パルノ族の起源は特権的な力を持つ者達が、身分を隠して仕事をする為に作った架空の部族なのだと。
そういった背景がある為、冒険者ギルドのような機関は迂闊に身元を調べる事が出来ない。
それは脛に傷を持つ者からしてみればありがたい話。
裏稼業のブローカ達はパルノ族の者と結婚する事で戸籍を手にし、その戸籍を元に身分証を発行して名義を貸し出すのだそうだ。
「そんな曰くがある奴と、アッチへ行ったり、コッチへ行ったり。こそこそ何かをしてりゃあ、勘ぐっちまうのもしょうがないよね?」
「......その為に、俺をクッコロ先輩に付けたり、意味の無いお使いをさせたりしていたんですか?」
「いやいや、まさか。オタ君は魔素が見えないから、教えるのにはクッコロちゃんが適任でしょう? 意味の無いお使いだって、そんなことはないよ? 私は甘いものが食べたかったんだ」
「......クレープやら、アイスが、エライコ様に関わる大切な事だって言っていませんでしたか?」
「ごめん! 冗談言ってた!」
こ、こいつ。
「やや、ごめんって。機嫌を直してよ、何せ私はこの店から出られないんだ。好きな物だって食べられ...... 「ちょ、いまなんて?」」
師匠は店から出られない?
それは初耳だ。
確かに、俺はこの店に来てから師匠が外出している所を見たことが無い。
しかし、それが本当の事かは分からない。
何故なら、俺はたいてい先輩達と行動を共にしている。
その間、師匠は外出しているのかもしれない。
「ええ? だから甘いものが食べたかったんだって」
「......師匠は、店から出られないんですか?」
「うん? 話したこと無かった?」
「......無いですよ。なんで出られないんですか?」
「私が外へ出ると、おっかない奴が追っかけてくるんだよね。この前外に出た時なんか、殺されるかと思ったよ」
「おっかない奴?」
「そう。それはもう、とってもおっかない奴なんだ。君なんてきっと、頭からひと齧りさ。あゝもう、考えただけで悪寒が走るよ。寒い寒い」
おっかない奴?
師匠が怖がるなんて、少し意外だ。
「それは、クッコロ先輩とか、オタ先輩でも敵わないんですか?」
「無理だね。まあ、正攻法じゃあ無理ってだけの話...... どうぞ? ソファに掛けたら?」
ん?
まあ、立ち話もあれだし。
師匠から勧められ、俺はダイニングテーブルの手前にあったソファの、一つ隣のソファに腰を掛ける。
それは師匠から見て、テーブルを挟んで斜め前の席だ。
「......この際だから、君にスチルの話もしておこうかな。少し長くなってしまうかもしれないけど、大丈夫? 予定とかない?」




