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1_ノースウッドの話_n+1_4

「ヨイドレ様! 嗚呼(ああ)、良かったご無事で......」

「ソワール! 久しぶりです」


 ソワールは俺がオーグナーに居たときに世話になったメイドだ。

 俺の身の回りの事をしてくれていた。


「さあ、どうぞこちらに早く。当主様には秘密で来ています」


 ソワールは俺に寄り(すが)り、腕を引っ張る。

 そうして懺悔室(ざんげしつ)の中に俺を(いざな)うと、部屋の戸を閉めた。




 それは狭い密室。

 ソワールの体温が熱く感じる。




「ソワール? そんなにくっつかれると緊張しちゃうんですけど。何かあった?」

「なんかって...... もう。心配したんですからね? 屋敷を去って、一体どこに居たんですか? ちゃんとご飯は食べていますか?」


 ソワールはそう言って俺の体をまさぐる。

 彼女の指が俺の体を滑る度、なんだか、変な感覚になる。


 心臓がうるさい。


 俺は彼女をちょいと押して、距離を取った。

 それは不自然にならない程度に。


「ソワールこそ元気そうで良かった。ほら、今じゃ俺の方が背が高いですよ?」

「そうですね。嗚呼(ああ)、もう。こんなに(たくま)しく成長して」


 ソワールは仕事の途中で抜け出して来たのか、給仕服の上にクリーム色のチェスターコートを羽織る。


 外は寒いんだけれども、此処は何だか、暑い。

 狭い密室は妙に暑く、頭がぼんやりとする。


 それはソワールも同じなのか、彼女の火照った頬を見ると、俺はなんだかくすぐったい感じがした。



「......最後に会ってからもう2年経ってますよ。そりゃあ俺だってデカくなります」

「ヨイドレ様? 言葉遣いもちょっと悪くなりましたね?」


「あはは、確かに。友達の影響かも」


「......今までどこに居たんですか? 心配したんですから」


 彼女がそう言って俺に縋ると、何か甘い香りが俺の鼻腔(びくう)(とろ)かす。


「8区の辺りです。友達の所でお世話になってました」



 これは嘘だ。



 師匠の店は1区のファングーラオという通りにある。

 そこは安宿が多く、多くの旅人が集まる。


 ノースウッドは幾つかの区に分かれる。


 師匠の店、冒険者ギルド、それに此処、教会があるのは1区。

 その隣にはエライの城や、国の要職に就く高官などが住まう2区がある。


 8区はこのどれからも離れた場所に在る。


 それはクッコロ先輩が嵌っている酒場、トンチキ野郎亭がある場所でもある。



「そんな、あそこの辺りは危ないでしょう?」

「まあそうですね。治安は悪いですよね。......ソワールの方は? 俺の所為で、色々苦労を掛けたと思うんですけど」


「苦労だなんて、そんなことはありません。でも...... でも。私は、今でもヨイドレ様が私達を導くお方だと思っているんです」


「......俺は無能だったんですよ。ただ髪が白いってだけの...... 「そんな事ありませんっ」」


 ソワールは俺の外套を強く掴む。


「きっと、鑑定が間違っていたんです。ヨイドレ様? 私、ヨイドレ様が屋敷を去ってから胸に穴が空いたようなんです。本来であれば当主様に誓いを立てた身、それでも、それがいけない事でも、あなた様を慕っているんです」


 密室に漂う魔素は淡く光る。

 その光はぼーっとした薄い紅色。

 その光は時折強くなったり、弱くなったり。


「ヨイドレ様? 聞いていますか?」

「ああごめん。ちょっとぼーっとしてた」


「......もう。ヨイドレ様? 私考える事があるんです。もし、もしヨイドレ様が魔法を使えたら。そうしたら、きっと当主様もヨイドレ様を認めるでしょう? 私はヨイドレ様にお仕えするんです。それは身も、心も」


 俺は彼女をちょいと押して、距離を取った。

 それは不自然にならない程度に。


「ソワール? ちょっと、見せたいものがあるんだ」

「んっ、なんです?」


 俺はソワールに手のひらを見せる。


「なにも、ないですね?」

「まあ、ちょっと待って」



 そして、想像した。


 辺りを漂う魔素は、ふわりふわりと俺の(てのひら)に集まる。

 そして魔素は水へと変わり、水の塊、それが球体となる。



 ソワールの驚く声が聞こえた。



 俺はそんなもんに構わずに、更に想像する。


 (てのひら)に集まる魔素は、膜を張り球体を包む。

 やがてその球体は沸騰(ふっとう)し、氷の塊へと姿を変える。



 ......



 俺がソワールに魔法を見せてやると、ソワールは興奮した様子で何言かを話しているのだけれど、俺にはソワールが話している事なんて、何も、頭に入って来やしなかった。


 それは別に、ソワールがどうだとか、そう言う事じゃあない。



 師匠は、何なのだろうか。



 師匠は偶に、俺に予言めいた事を話す。

 そして、それはいつも当たる。


 例えばこれは先日の事、俺が師匠の店を掃除していた時の話だ。


 師匠がいつも掛けるソファーの傍を通ると呼び止められて、お願い事をされた時の話。



 ♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦



「ちょっと! 助けて!」

「は、はい!」


 師匠は俺に向かって、大げさに手を振る。

 彼の前に位置するダイニングテーブルには所狭しに本や紙切れが散らばる。


「どうしましたか?」

「ちょっと、私のお願いを聞いてくれる?」


「え、ええ。何ですか?」


「出来るだけ、君の実家と良好な関係を保って欲しいんだよね」

「え、オーグナーとですか?」


 まじかよ。

 それは結構、きつくないか。

 何がきついって、オーグナーの方が俺の事を避けているのだ。


「君は嫌だろうけどね? 学園に通う時の名義を作るのが、割と面倒そうなんだよ」


 ああ、そうか。


 王立学園は、この大陸を支配する王国の首都にある。


 そこは、この街の南東に位置するアッチノ山ダンジョンを越えて、更に南に半月ほど行った場所。

 そこへ入国する為にはビザと呼ばれる書類と、パスポートと呼ばれる身分証が必要になるのだ。


 王国が運営する王立学園は、この大陸の要人が集まる。

 そう言った背景から、別大陸の諜報員や何等かの思惑を持った者が紛れ込む。

 身分が怪しい奴なんて、すぐに取り調べを受けてしまうだろう。


「そうですよね。分かりました」

「出来るなら、正規の方法を使ったほうがトラブルが少ないからね。そこで本題!」



 師匠は指をふらふらとさせる。


「一つ、エライコさんの教会へ渡すほうの手紙、その中で君が魔法を使えるようになった事だとかを、それとなく書いてくれる?」

「手紙に? 良いんですか?」


「まあ、それとなくね。がっつりと書いたらダメだよ? それを20時30分前後に出すんだ」

「分かりました」


 師匠は指を二つ立てる。


「二つ、しばらくすると、君の家のメイドさん。ええと、名前は......」

「メイド? もしかして、ソワールの事ですか?」


「そうそう! その子。その子がさ、教会で待っているんだ」


 ふむ?


「そして、君とちょいと世間話なんかするんだろうね。何処に住んでるのかだとか、そんな下らない話さ。彼女、きっと君にもたれ掛かっちゃったりなんかするんだぜ? それはけっこう色っぽくね?」


 ほう?


「彼女は、君が魔法を使える事を確認したいんだ。そして君は、その子の目の前で魔法を使って見せて? 派手だし、火の魔法が良い...... いや、其処はきっと個室だ。狭い個室で、彼女は君に体を密着させたりするんだ。そして、君はちょっとドキドキしちゃったりするんだよね」


 うん?


「あゝごめん。話が逸れたね。とにかく! 彼女が君に魔法について探りを入れたなら、君は彼女に魔法を見せるんだ。最初に水を生成して、その後にそれを凍らせて? 膜を作るやつさ。クッコロちゃんに習ったでしょう?」


「え、ええ習いましたけ...... 「流石! 彼女はきっと大喜び。当主にも話して、オーグナー家に戻ろうだとか言うんじゃあないかな。そこで、君は当主と会う調整をしてもらって?」」


「わかりました?」

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