1_ノースウッドの話_n+1_2
「はい、その依頼票。ノースウッド、自由冒険者ギルド所属のリタが確かにお預かりしました」
そう言ってリタさんはちょこんとお辞儀した。
髪が垂れる。
肩くらいある、明るいアッシュグレーの髪。
片房の生え下がりの三つ編みには、琥珀色の留め具をしている。
確かに、綺麗な人だ。
その整った目鼻立ちは、何処か人形めいて見える。
それはクッコロ先輩と似たような感じ。
しかし、耳はとんがっていない。
リタさんは新人さんだそうで、言伝等の依頼はリタさんが受け持っているみたいだ。
その為、最近は高い頻度で彼女に依頼をお願いしている。
リタさんが辺りをちょろちょろと見る。
そうしてから、すぐに俺に訪ねてきた。
「やっぱり、分からないわ。いまオタさんは居るの?」
オタ先輩は俺の隣に居る。
こんな感じで、オタ先輩と師匠は人から見えないのだそうだ。
それなのにクッコロ先輩は何故か平気。
師匠曰く、バグりすぎて見えないらしい。
「いますよ、オタ先輩です」
俺は隣に居たオタ先輩を右手で "ポンポン" と叩く。
するとリタさんの目の視線がちょいと揺れ、オタ先輩を捉える。
「す、すごい。オタさん? どうなってるのそれ? パルノ族は皆そうなの?」
「い、いや...... おいらたちが変わってるだけだお...... そ、そそ、それより! り、リタ氏? 今日もき、き綺麗だお」
「っふ、ありがと。っていうかきょどり過ぎです。あ、オタさん! 聞きましたよ!? ランクが上がったんですよね?」
「そ、そうだお! よく分からないけどランクが2になったお!」
本来であれば、リタさんにはオタ先輩が見えない。
しかし、師匠が問題なく見えるようにする方法を編み出した。
師匠曰く俺が相手に紹介するという形をとると、相手は問題なく認知する事が出来るみたいだ。
しかし、それはバグっているらしく、その効果の持続時間などは不明。
もしかしたら、何かあるかもしれないと言われた。
だから、師匠からはこれをする事を止められている。
つまり、俺がこうやって、リタさんに先輩を紹介している事や、勝手にギルド員として登録していること等がばれたら怒られてしまうだろう。
これは2人だけの秘密だ。
「この間は、依頼を引き受けてくださって、本当にありがとうございました。助かりました」
「こちらこそありがとうだお! おいら冒険は好きだし、いろんな事が新鮮な感じで楽しいお! 今日は何か残った依頼はあるのかお?」
「ええと、ちょっと、ちょっと待ってくださいね」
リタさんはそう言いながら、卓上にある板型の魔道具を操作する。
その手つきは迷いなく、最初に対応してもらった時と比べてずっと熟れた感じだ。
「うん、喫緊の依頼は無いみたい。あれ? オタさん? 実地講習って受けた?」
「実地講習?」
「記録では、まだ受けてない事になってますよ」
リタさんはそう言って、首を傾げる。
俺はリタさんと先輩の会話に割り込んだ。
「リタさん? 討伐系の依頼は受けないから、実地講習はしなくても良いって思ってるんだけど、駄目ですか?」
「ええ? 受けたほうが良いよ? この前の月見草の依頼だって、本当はダメなんですからね?」
「ヨイドレ氏? 実地講習って何だお?」
「実地講習っていうのはですね......」
冒険者ギルドは様々な仕事を斡旋する。
その中でも、貴重な薬草の採取だったり、ゴブリンを間引いたり、アンデッドの討伐みたいな魔物の危険がある依頼に関しては "魔物の実地講習" というのを受ける決まりになっているのだ。
それは何人かの教官と共に、講習を受ける冒険者達が何日かをダンジョン内部で過ごすというもの。
俺はこの実地講習を、オタ先輩に受けて欲しくない。
何故なら、オタ先輩を色んな人に紹介する事が、何か、得体のしれない感じがするんだ。
それは何か、悪い事をしているんじゃあないかって、そんな感覚。
それは取り返しがつかない、何かを踏み抜いちまってるんじゃあないかって。
「なんだおそれ! 楽しそうだお!」
おいおい、嘘だろ。乗り気だよこの人。
いつも目立ってはいけないって話しているのに、忘れてるんじゃあないか。
「オタ先輩。それは目立ちますよ」
俺がそう言うと、オタ先輩はピタリと動きを止める。
ちょいとしてから、残念そうな声をだす。
「実地講習は、受けられないお」
「なにか、事情があるんですか?」
「いいや、なんにもないお。おいらたちもう行くお! 困った事があったらいつでも言ってお? おいらはこう見えても頼れる男だお、掃除と洗濯なら得意だお!」
リタさんはオタ先輩に何か言いたげな様子だ。
何かを言い淀むも、すぐに口をつぐんで別れの言葉を返す。
「......オタさん。またね?」
リタさんは何か不満そうだ。
なにか、言い訳くらいしておいた方が良いだろうか?
どうしよう?
......
「リタさん。オタ先輩が特殊な体質だってことはお見せしましたよね?」
俺は適当な言い訳を話す事にした。
もっとも、オタ先輩の事情を俺は知らない。
それっぽい話をしておこう。
「え、ええ」
「......オタ先輩は、その所為で実地講習が受けられないんです」
だめだ、それっぽいの何も思いつかない。
まあ、なんとかなるだろ。
「ヨイドレ君が一緒に受ければ、オタさんも受けられる?」
「......そうですね。いやそうじゃないですね」
「え?」
やべ、舐めてたわ。
全然何ともなんねえ。
俺は受付のカウンターにちょいと身を乗り出し、リタさんに顔を近づける。
そうして内緒話を始めた。
「......ここだけの話ですよ? オタ先輩は、高貴な血を引くお方なんです」
「はい」
高貴な血とか、よく分からないけどそれっぽいだろう。
......リタさんは話の続きを待っている。
おかしいな?
俺の予想では、此処で色々察してくれるかと思ったんだけど。
「......しかし、その特殊な体質を恐れられ、城に幽閉されてしまったのです」
「......オタさんは、生まれた時から、誰からも見えなかったんですか?」
「はい。はい?」
ごめんなさい。
しらんです。
適当いってます。
「そ、そんな...... それじゃあ、今までずっと一人ぼっちで......」
「......はい」
やべえ。
これ以上何かを話すと、何かとんでもない誤解を受けそうだ。
早めに切り抜けよう。
「い、いつ、どこに関係者が居るか分かりません。見つかったら捕まってしまうでしょう。だから目立ちたくないんです」
「......わかりました。オタさんは、実地講習を受けたいのかな?」
「ん? まあ、そうかもしれませんね。つまり、別に、サボろうと思って講習を受けないということじゃあないです」
「......わかりました」
よかった。
なんとか切り抜けられたみたいだ。
「じゃあリタさん? このことは秘密で」
俺はそう言ってリタさんから離れる。
そのまま、先輩と共にリタさんに別れを告げてその場を離れた。
最後にクエストボードを確認しに行こう。
「オタ先輩? ギルドのクエストボード確認してきますね?」
「おいらは外で待ってるお。あのあたりはむさくるしいお」
「分かりました」
ギルドの入り口、そのすぐ横の壁。
その場所に人が集まっている。
それはただの壁。しかし、旧世界の遺物らしい。
それは全世界のクエストボードと繋がっているらしく、ギルドで出される3日分の公開依頼はすべてここに貼りだされる。
それは大陸一つ、離れていようとも。
まあ、実際は確認しようがないんだけど。
しかし現実。
商人、果てや国の役人なんかも足しげく通うのだ。
世界で一番情報が早いのがこの壁だという。




