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1_ノースウッドの話_n+1_1

 魔素が見えるようになって、2年が経っただろうか。


 俺は自分が使える時間の殆どを、クッコロ先輩との修行に費やしている。

 

 それは、ノースウッドの南東に位置する "アッチノ山ダンジョン" に拠点を作り、ダンジョンの奥深くに潜る。

 未だ、誰も探索したことが無いような場所まで。


 そうして、どす黒い(もや)を纏うガラクタを見つけると、それを持って師匠の元へ戻る。


 そんな日々を送っている。



「クッコロ先輩、出来る気がしないんですけど」

「じゃあ、しょうがない」



 辺りは明るく、朝霧が漂う。

 

 ダンジョンの奥地で見つけた、 "丸い、つるつるした球" を師匠の元へ届ける為。

 俺は、先輩達と一緒にアッチノ山を下山している。



「俺が思うに、クッコロ先輩が特殊だと思うんですよね」

「そんなこと、ない」



 先輩は真っ平な壁のような仮面を付けている所為で、その表情から感情を読み取ることが出来ない。

 その声は淡々として、感情の見えぬ声色だ。



「クッコロ先輩が相手だと、魔素の(もや)が邪魔なせいで、読み違えるんですよ」



 先輩が言うには、魔素というのは意思をくみ取り動くのだそう。


 だからその魔素を見る事で、相手が何を考え、そして何をするのかが分かるのだという。


 これが口で言うのは容易いが、と言った感じだ。



「後輩? 魔素は、意志をくみ取る。それが本当かとか、関係ない」


「......よく分かりませんよ」



 先輩はそのまま、何を言うでもなく先へ進む。

 そこらには大小さまざまな岩が転がり、その合間を縫う様に木々が生える。


 大体、この人は教えるのが結構下手だと思う。

 そして、奇天烈(きてれつ)だ。



 1年ほど前の事だったろうか。

 俺が魔素の扱いについて一通り教わった頃、クッコロ先輩はこう言った。



"稽古、私達にくっついて回って。私の事を殺せると思った時に攻撃して"



 それから、アッチノ山ダンジョンの攻略なんかをし始めた。


 探索の道中、野営の途中、そしてその帰り道。


 俺はクッコロ先輩に切りかかってみるものの、いつも絶妙なタイミングで避けられる。

 その度、形の良い木の枝で返り討ちにされるのだ。


 攻撃なんか、本当にあたる気がしない。

 もはや安心して切りかかれるという、よく分からない感じだ。



「よ、ヨイドレ氏? おいらにはやめてね? おいら魔素とか、そう言うのよく分からないから、多分死んじゃうお」


 隣を歩くオタ先輩は、おずおずとした感じの声色で話す。

 その表情は、壁のような仮面を付けている所為で分からない。


「よかった、やっぱり普通そうですよね」

「そうだお。っていうか、それ街では絶対やめてお!? 絶対に変な人だお!」


「わ、分かってますよ」

「目立って、下手にスチルなんか壊したら大変だお。おいら、出来ればこの街を瓦礫にしたくないお」


 スチルを壊すと、何か良くない事が起こると聞いた。


 師匠はそれ以外の事は何も教えてくれなかった。



 いったい、師匠は何を考えているのだろうか。



「スチルを壊すと、何か良くない事が起こるって師匠からは聞きましたけど。オタ先輩はスチルを壊した事があるんですか?」

「あるお」


「よくない事って? オタ先輩が壊しときは何か起きましたか?」

「ん? カエルになったお。後は、地面から魔物が生えて来たり、空飛ぶサメが竜巻と一緒にやってきたり、皮膚が裏返ったりもしたお」


 おん?

 何言ってんだ?


「カエルになったら、どうするんですか?」

「エルフの森まで行かなきゃいけないお。まあでも、今はクッコロ氏が居るから大丈夫だお」


 うーん。

 師匠や先輩たちの話はいつもよく分からない。

 何て言うか、珍紛漢(ちんぷんかんぷん)ってやつだ。



「後輩、大丈夫。カエルになっても、戻る方法ある」


 先頭をゆくクッコロ先輩がその歩みを止めて、此方を振り向く。

 それは仮面越しから、此方の事をじっと見ているのだろう。


 俺は何となくだけど、先輩が言おうとしている事が分かった。

 しかし、俺はそれをしたく無い。


「い、嫌ですよ!? 何度言ったって嫌ですからね!?」

「まだ、何も言ってない」

「絶対! 名札をもう一度使えっていうんでしょう!? 絶対いやだからね!? 俺、ほんと嫌ですあれ」


 クッコロ先輩は、いつも俺に名札を使わせたがる。


 何でも、あの状態の時の俺に、一発いい攻撃を貰ったらしい。

 先輩はそれが悔しかったのか、俺に名札を使わせて、もう一度戦いたいそうだ。


 控えめに言っていかれてやがる。



 ♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦



「あ、俺。ギルドと教会に用事があるので、行ってきますね」

「おいらも行くお! ギルドに行くお! クッコロ氏? 先にお店に帰っててお」


「わかった。晩御飯は?」


「今日は俺が当番なので、帰りに串でも買ってきますよ」


「......トンチキ野郎亭」

「せ、先輩。あそこの店好きですね? でも、地味に遠いんですけど」


「これも、稽古」

「いや、うそで...... 買ってきます」



 俺とオタ先輩はクッコロ先輩と別れて、ノースウッド、城下町の "自由冒険者ギルド" がある方へと向かう。



 手紙を出しに行くのだ。


 ギルドで出しても、教会に渡しても、最終的にはどちらも変わらないんだろうけど。

 俺はそうやってエライコ様宛ての手紙を定期的に出している。


 まあ、その手紙の返事は、未だに帰って来やしないけど。


 会いに行った方が早い。

 俺はそう考えている。



「自由冒険者ギルドはほんとうに最高だお。絶対、ギルド受付嬢のアイドルグループを作れば売れるお。おいらが買うお、推しはリタ氏だお」


 ここ最近、俺が手紙を出す時にはいつもオタ先輩も一緒に来る。


 道すがら、下らない事だったりを話したりする所為なのか。

 オタ先輩は何となくだけれど、一番話しやすい先輩だ。


「オタ先輩って、どれくらいの国を訪れたことあります?」

「ん? うーん。もう数えたことないお」


「じゃあ、それだけ沢山のギルドに廻ったってことですよね?」

「そうだお! その中の推しだから、リタ氏は尊いお!」


「おおッ! 思ったんですが、オタ先輩が各地のギルドで交渉して、それでアイドルグループを作るんですよ! 面白そうじゃあないですか?」

「ヨイドレ氏、天才かお? それは楽しそうだお! それ、やりたい事リストに入れるお!」


 オタ先輩は結構変わっている。


 何と言うか、若干、師匠に近い物を感じる。


 先輩の周りを漂う魔素は、どす黒く渦巻く。


 それは、師匠の周りに漂うあれに近い。

 寧ろ、同じものなのか?


「あ、話は変わってしまうのですが。オタ先輩? 魔素は見えないんですよね?」

「うん? 急に何だお。見えないお」


 それならオタ先輩に聞いても分からなそうだ。


 前にクッコロ先輩に聞いたら黒いふわふわと言っていた。意味が分からない。

 師匠にそれとなく聞いてみると、何時もふざけて、(はぐ)らかされる。


「オタ先輩、黒いふわふわって何か知ってます?」

「黒いふわふわ? ああ、スチルを壊したときに出るやつだお。おいらには見えないから、よく分からないんだお」


 そう言えば、先輩は他にもいるのだろうか。

 その人達に聞けば、何か分かるかもしれない。


「そういえば、師匠の所でお世話になって結構長いですが。俺、お二人以外の先輩に会ったことないです」

「え? いやいや何言ってるんだお。そういえば、フェニックス氏がこの前来てたお?」


「はい?」

「フェニックス氏、会って無いのかお? こんな小っちゃくてかわいいフェニックス氏だお」


 先輩は歩きながら、石畳で出来た地面、そのちょいと上の所を "ひょいひょい" っとしている。

 そんなに小さけりゃ、もはや人間じゃあないだろうって感じだ。


 いや、まてよ。


 フェニックスと言えば、不死鳥。

 不死鳥と言えば、鳥。


「たしか、この前カルガモが店に迷い込んでたんですけど」

「ああ、それはフェニックス氏だお」


「......ノースウッドでは、カルガモ、食べるんですね。それで、その」

「おいおい、もしかして。フェニックス氏食べちゃったのかお?」


「い、いや! 違うんですよ。な、なんか...... 妙に素早くて! 逃げました!」


 やばいよ。

 危うく先輩食っちゃうところだった。


「ああよかった、もしもお腹の中だったら、絶対ケモミミ氏に殺さ、ギルドだおー! ついたオー!」

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