ひまわり
量子力学を証明できる天才でも、君と僕が出会えた理由は証明できないだろう。無数の星の中から星座を織り成す線のように君と僕は結ばれたのだ。
君と出会ったのは高校の体育祭。君は他の人と間違えて僕に缶コーヒーを差し出してきた。そのとき僕はポーカーフェイスを装っていたが、心の中では君にチェックメイトされていた……一目惚れだ。
猛アタックの末、僕は君と恋人になった。初めてのデートは君が好きなひまわり畑だった。君はひまわりと一緒に写真を撮ってとせがんだが、僕はひまわりを無視してズームアップした君の笑顔を撮り続けた。だって、百万本のひまわりより君一人の方が何十倍も輝いていたから。
八年後に君と結婚した。恋人から夫婦になった。その三年後に娘が誕生……夫婦から家族になった。
娘が小学校入学前、ランドセルの色で君と言い争いになった。早く字を書けるようにと買い与えたえんぴつで、娘が初めて書いた言葉が「ぱぱ まま けんかしないで」だった……子はかすがいとはよく言ったものだ。
娘もすくすく成長し、君も四十歳を過ぎた。何もかも順調に過ぎていくと思われたある夏の日……
悲劇が起こった。
君が……ガンになった。
すぐに手術が行われた。僕は神社に向かい、夏祭りで賑う屋台や神輿に目もくれずおふだ(御守)を買った。帰り道、月明かりに照らされたひまわり畑で君の無事を祈った。
手術は成功した。だがこれで終わりではない。ガンが転移した君は抗がん剤治療を始めた。抜け落ちる髪を見て君は泣いた。僕は君を悲しませないように明るく振舞っていたが、一人屋根裏部屋で毎日泣いていた。
あれから十数年……。
僕は毎年夏になると、娘を連れて君の実家に行く。君の実家にはひまわり畑があり、僕はそこからひまわりの花を数本切って花束にした。
ひまわり畑を少し進むと墓地がある。僕はひまわりの花束を墓前に供え手を合わせた。
今までありがとう……。
「あなた」
僕は背後から声を掛けられた。声の主は……君だ。
「ずいぶん熱心にお母さんのお墓へ手を合わせているわね」
「だって、お義母さんが君を産んでくれたからこうして君と出会えたんだよ」
「うふふっ……変なの!」
あれから五年後、君のガンは寛解した。だからといって永遠に君と一緒にいられる訳ではない。君と別れるときはいずれ来る。でも、その最期が来るまで君を見続けていたい。君を見守っていきたい。
――あの太陽に向かって咲き続けるひまわりのように。
最後までお読みいただきありがとうございました。過去に妻がガンになったときの出来事を基に書いてみました……私小説みたいなものです。
もうひとつの作品「星座になったアイツ」もぜひご覧ください。