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9話 二人の道程②


 魔力の殆どを与えたノアは、歩くのもやっとな状態となる。自身に与えられた使用人部屋にたどり着くのも、ヨロヨロとした覚束ない足取りになり時間がかかる。


 その状態を知ったリアムは、フィグネリアの部屋から出てきたノアを支えて自分達の部屋へ連れ帰る事を日課とした。


 毎朝ノアは魔力をフィグネリアに与え、そして自室で体力と魔力の回復を待つ。ベッドに生気なくグッタリとして眠るノアを、リアムはいつも悲しそうに見守るしか出来ない。


 しかし、他の使用人達はノアの状態を知る由もない。だからいつもノアを、サボってばかりいるただメシ食らいの役立たずだと罵っていた。


 魔力譲渡の事を他人に話す事は許されていない。それを知っているのはリアムだけだった。

 

 以前二人が孤児院にいた頃、老朽化した教会をノアが魔法で新築のようにした事があった。その時ノアは5歳で、幼い体で膨大な魔力を一気に使ったものだからその場で立てなくなり、意識も朦朧とした状態となったのだが、毎朝フィグネリアの部屋から出てくるノアはその時と同じ状態で、だからリアムはノアから聞かずともそうと知ったのだ。


 そしてノアが、人に魔力を渡す事が出来ると口にしていた事があったのもリアムは思い出す。

 それを聞いていた司祭からは誰にも言わないようにと、キツく言い聞かせられたのだが。


 だからノアに起こっている事をリアムだけは知っていた。そしてノアを庇うように、リアムは人一倍働いた。

 少し動けるようになるのは夕方頃。その時にやっと部屋から出てくるノアに、使用人達の態度は冷たい。ノアは何をさせてもトロい、グズだと皆から罵られる。だがそれは魔力が完全に回復していないからだ。しかしそんな事を言える筈もなく、ノアは自分が出来る事を一生懸命取り組んでいた。


 働かないからと、食事も残飯を与えられる。それを見兼ねたリアムは、いつも自分の分も半分ノアに分けるのだ。

 だからいつも二人はお腹を空かせていた。成長期に必要な栄養を与えられず、二人は同じ年の子らよりも幼く痩せていた。


 それでも二人でいられた事が嬉しかった。それはノアもリアムも同じ気持ちで、より支え合うように生きていった。その時の二人にはそうするしか出来なかったのだ。


 しかしそんなある日、リアムの様子が可怪しい事にノアは気づく。


 いつも元気を装うリアムから笑顔が消えていく。ノアを前にすると笑おうとするのだが、それは無理をしているのだとノアにはすぐに気づいてしまう。物心つく頃には一緒だったリアムの変化に気づけるのはノアだけだった。


 二人は兄妹だと思われており一緒の部屋になっていたのだが、夜中リアムの苦しそうな声でノアは目を覚ました。



「う……うぅ……っ!」


「リアム? リアム、どうしたの?」



 暗がりの中、ノアはリアムのベッドまで歩み寄ると、リアムは冷や汗をかきながら何かに耐えるように体を震わせていた。



「リアム、具合悪いの? 熱でもあるの?」


「なん、でもな……い……大丈夫、だ……」


「大丈夫そうじゃないよ。ねぇ、どうしたの? 苦しいの?」



 ノアに背を向けて見られないようにしているリアムに、ノアはそっと優しく触れるように背中を撫でる。が、その途端、リアムは激しく声を上げた。



「うぁぁっ!!」


「な、なに?! リアム!!」



 痛みに耐えるように体に力を入れ、浅く荒い呼吸を何度も繰り返す。そんなリアムを見たのは初めてで、ノアは思わずリアムの上着を捲った。


 リアムの背中には無数の切り傷や赤い痣が至る所にあって、所々血が滴り落ちていた。

 それを見てノアは驚愕した。なぜこんな事になっているのか、誰がこんな事をしたのか。気にはなったがそれよりもこの状態のリアムを放っておくことは出来ないと考えた。


 だからノアはリアムの背中に手を添え、良くなるようにと念じた。するとノアの掌からは淡い緑の光が放たれた。それはリアムの体を優しく守るように包み込んでいった。その光が少しずつ無くなっていくと、あれほど苦しんでいたリアムの呼吸は楽に、痛みも無くなっていた。



「ノア……何をしたんだ……?」


「あ、その……えっとね、リアムが痛くないようにって、苦しくないようにって願ったの。それだけなの」


「ノア……駄目だ、こんな事をしちゃ……!」


「でも! リアムが痛そうだったもの! それは私が嫌だったもの!」


「ノア! ……よく聞いて。ノアがしてくれた事は嬉しい。すごく有難く思う。でも、この力を他の人に知られちゃいけないんだ。そして、僕にこの力を使った事がバレたら駄目なんだ」


「うん……だけど……」



 リアムはそっとノアを抱き締める。そして優しく慰めるように何度も頭を撫でる。



「ありがとう、ノア。でも言ってる事、分かって欲しい」


「うん……」



 リアムの胸に顔を埋めるようにして、ノアはゆっくりと頷く。それしかその時のノアにはできなかったのだ。







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