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叶えられた前世の願い  作者: レクフル


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17話 リュシアンの想い


 モリエール公爵邸に来てから、シオンは別邸の掃除と庭の手入れに尽力した。


 ジョエルももちろん、シオンと共に率先して作業に取り掛かる。少しでもシオンの負担にならないようにフォローをしつつ、二人で少しずつ少しずつ別邸を綺麗に、庭を美しくしていった。


 食事の用意はいつもセヴランが持って来た。そして何も言わずに辺りを見渡し、ただ様子を伺うようにして立ち去っていく。

 その度にシオンは

「いつも食事をありがとう」

と感謝の念を伝えるのだが、それに答えずセヴランは軽く礼をするだけに留まっている。


 それを見てジョエルはいつも舌打ちをする。シオンはそんなジョエルを困り顔で見守るしかなかった。


 そんな日々を過ごしモリエール公爵邸に来てから5日後、リュシアンが帰って来た。


 それは誰に知らされる事もなかったが、庭の手入れをしているときに騒がしかったのでそうと分かったのだ。


 リュシアンが帰宅したことが分かっても、シオンは出迎えに向かう事をしなかった。リュシアンは自分の顔を見たくないだろうと思ったし、前世の記憶がなくとも悪女と言われているシオンを疎ましく感じるだろうと考えての事だった。


 別邸の庭からリュシアンの姿を探すが、遠くてよく分からない。それでも少しでも目に留めたくて、シオンはただ慌ただしくしている人々の様子を眺め続けるのだった。


 バタバタとしていた使用人達が邸の中へと戻っていく。どうやらリュシアンは邸内へと入って行ったようだ。遠目でもその姿を焼き付けたかったシオンは無意識に溜息をつく。

 仕方がない。分かっていた事だ。だからこんな事で落ち込むな。そう自分に言い聞かせて、シオンは大きく息を吸い込んでから心配そうに見守るジョエルに微笑んだ。


 それからすぐにまた庭の手入れに没頭する。今は自分のしたいことが出来るのだ。それだけで充分。ルストスレーム家にいた頃は部屋から出る事も憚られた。だから今の生活は気に入っている。

 前世に比べれば、ルストスレーム家にいた頃と比べれば、この生活は悪くない。シオンはそう思い込む事にしている。


 その頃リュシアンは魔物討伐から戻ってきて、自室でひと息ついていた。

 

 今回は凶暴な魔物が数体出没し、近隣の村や街が被害に遭っていた。それを捜索し、報告されていた全ての魔物を討伐するのに4日以上もかけてしまった事に反省していた。


 だがそれよりも気になるのはルストスレーム家から嫁いで来たシオンの事だった。


 リュシアンもまた、生まれた頃より前世の記憶を有していた。だからフィグネリアが嫁いだルストスレーム家に嫌悪感しか持たなかったのだが、それよりも何よりも受け入れがたかったのがフィグネリアの娘が自分の婚約者という事だった。


 生まれる前から決まっていた事であり、貴族として生きるリュシアンにとって王命は絶対だ。これを覆す事など出来なかった。

 そして父親である前モリエール公爵に多大なる愛情を受けて育ったリュシアンは、何としてもフィグネリアに恩を返すという父親の意志を無下にする事が出来なかったのだ。


 事故で亡くなるまで両親に慈しみ愛されて育ったリュシアンは、モリエール公爵家をしっかり守る為、そして今以上に繁栄させる為に尽力する事を惜しむつもりは無かった。

 

 だから領地経営の勉強も幼い頃より頑張ったし、剣術も人一倍努力した。リュシアンは誰からも才能があると言われて称えられていたが、それだけではなく(ひとえ)に努力し続けた結果とも言えるものだったのだ。


 そんな日々を送りつつも、リュシアンが一番に思った事はノアの事だった。


 前世で助けられたなったノアを、今度こそどんな事があっても守れる力と権力を手に入れる。そう心に決めて自分を奮い立たせた。前世では殆ど無かった魔力だったが、今は膨大な魔力保持者だ。

 努力を積み重ねた結果、ソードマスターの称号を得る事もできた。

 

 そして何より、どんな傷を負っても(たちま)ち回復できる強靭な体を手に入れた。リュシアンはこの体を以てノアを守るのだと、その為にそう生まれて来たのだと思っていた。


 それがシオンの犠牲により得られた現象だとは、その時のリュシアンには思いも寄らなかったのだ。

 

 

 


 

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