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第10話

 身分が上の令嬢の目は問いかけているらしく待っているようだ。

 自己紹介はまだだったが目を見て話しかけられた。ユーリウスから紹介もされていないが発言を許されたということ。

 平民のタマラの言葉は目の前の貴族令嬢に届くのだろうか。

 膝の上で握りしめていた手に温もりが重なる。ユーリウスが手を握っていた。

 見上げると優しく目を細め顔を覗き込むユーリウスがいる。


「僕の大切な人はとても繊細だから、脅すのはなしだよ」

「わたくしがいつ脅すと? 今のは確認ですわ。身分ゆえのユーリウスの独りよがりかもしれなくてよ」

「すでに返事を貰っている。それからその物言い引っ込めて、怖がっているから」

「まあ、そうなの……?」


 令嬢の声は戸惑いタマラをじっと見てから、急に目を丸くしては小さくため息をついて、じろりととユーリウスに睨みをきかせる。


「それにしても……随分とご執心だこと」

「偶然にも似合うドレスがたまたまその配色だっただけだよ」

「偶然? たまたま?」


 色合いがどうしたのかと改めて着ているドレスを見る。言われてみれはこのドレスは、緑を基調として差し色として黄色や金糸で刺繍がされた物だ。この色は目の前に座る令嬢の色に当てはまる。だがどちらかというとユーリウスの色彩を意識するのが正しい。あの時曖昧に頷いた結果がこのドレスとなったのだ。


「金と緑の宝飾品や小物の数々。頭から指先まで自分の色を纏わせるなんて、これでは足元も想像できるわ。怖がらせてるのはユーリウスではないのかしら」

「タマラさんはこの色が似合うんだから仕方ないだろう」


 ユーリウスからタマラへと顔を移し、コテリと令嬢は首を傾げれば綺麗な金色の髪も揺れた。まばたきを繰り返し思案していたが、目線が合うと笑顔をふっと緩ませ無邪気な少女の表情へと変わった。


「まだ名乗っていなかったわね。わたくしはラウラ・レプコヴァー。レプカ家の分家に当たる娘で、ユーリウスとは親戚の関係ですの。お見知りおいて下さいませね」


 タマラは詰めていた息を開放しておずおずと名乗る。


「はじめましてタマラと申します。レプコヴァー令嬢とお会いできて光栄です」

「ラウラとお呼びになって? タマラ様はいずれユーリウスの妻になるのだもの。わたくしとも仲良くして頂きたいわ」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

「あらあら……とても可愛らしい人なのね。ユーリウスにはもったいないわ。ねぇ、タマラ様。ユーリウスのどこが良かったのかしら。わたくしから見て顔しか取り柄のない気がするのだけれど」

「ラウラ、何言い出すの」

「わたくし、ユーリウスを幼い頃から知っていますけど……本当にお馬鹿さんだったのよ。騎士に憧れて庭から棒切れを拾って剣のようにその棒を振り回し過ぎて自分の頭を打ったり、番犬を敵に見立てて追い立てたら逆に噛みつかれたり、雨の日は大人しくすればいいものの、部屋の中に飾られていた宝剣を振り回してはそこらにあった壺や絵を破損させ、尻拭いをしたのは年下のわたくしでしたの。あれ以来わたくしユーリウスは弟だと思うことに致しましたわ」

「子供の頃の話だろう。なんでそれ今言うかな」


 ユーリウスはがっくりと肩を落として頭を抱えうなだれる。

 ラウラはため息をついて紅茶を一口嚥下する。


「本当に周りを見ない脳き――んん、失礼。騎士の武勇や剣にしか興味がなく、見た目は良いから周りの知り合いから探りを入れられてわたくしとても困っていましたの。事実を話すべきか夢を与えるべきか。よくわたくしとユーリウスとの仲を勘ぐられたものですわ」


 確かにタマラもそう思った。

 一目見て似合いだと感じたのはよく見れば似たような容姿で、しっくりくるのは親戚だったからだと今ならわかる。


「私もそう、思いました」

「それは違うから。ラウラはただの親戚の子だから、誤解しないで」


 慌ててユーリウスは否定した。

 ラウラも憂い顔でゆったりと頷いている。


「そうですわ。違いましてよ。わたくし仲を疑われるのは恥ずかしくて……あぁ、タマラ様、決してタマラ様を貶めたいわけではありませんのよ。わたくしお相手ならば、言葉と文字を駆使する仕事に重きを置く男性を好ましく思っておりますの。縁の下の力持ちといいましょうか」

「悪かったよ、剣しか秀でてなくて」

「今は多少中身が伴ってお利口さんになったのではないかしら。と言っても悪知恵がついたようですけど」

「カシュパルに比べたらまともだと思うけど」

「まぁ、わたくしの婚約者を悪しき様に言わないで下さる? それにユーリウスがやっと手に入――」

「わかった! わかったから! はあ、本当にどうしてこんな子を選んだんだ……」


 ユーリウスの呟きは隣にいたタマラにはしっかり聞こえていた。

 目の前にいるラウラは何事もなくケーキサーバーを手に取っているが多分聞こえているような気がした。皿に載せたプティフールを綺麗な所作で口に運び、味わいに満足したのか静かに吐息を漏らした。


「ねぇ、タマラ様。もし婚約が嫌になったらわたくしに仰って下さいませね。わたくしの兄がまだ一人身ですの。きっと気に入りましてよ。タマラ様がお義理姉様なら大歓迎」


 ラウラは優雅に扇子を広げ、ユーリウスを一瞥してからタマラに淑やかな笑顔を見せる。貴族令嬢らしい微笑みの降臨だ。


「そんなことありえないから。ねえ、タマラさん」


 対してユーリウスは騎士らしく毅然として凛々しい笑顔だ。タマラの手をすくい上げ手の甲に唇を落とす。色気のある上目遣いつきだ。

 二人の笑顔の応酬はどこか不穏な雰囲気で、タマラは逃避するようにいつの間にか目の前に置かれた紅茶を静かに飲んだ。


「でもこれで、煩わしい蝶たちを他の花に向けさせることができましてよ。タマラ様のお陰ですの。今後は茶会や夜会へ行くにも心穏やかにいられますわ」


 ラウラの言葉にちらっとユーリウスを見る。

 心の片隅にあった考えは当たりだったようだ。やはり貴族令嬢たちに見初められている。


「言っておくがタマラさんに迷惑は――」

「わたくしがそんな下手を打つことはなくってよ。ユーリウスこそ浮かれて知らず淑女の仮面に騙されそうで心配ですわ」

「心配ないよ。今度、婚約式するからね。これで知れ渡るでしょ」


 ユーリウスは胸を張った。

 ラウラはケーキスタンドに伸ばした手を止め、目を瞬かせた。


「婚約式ですって? それって……」

「勿論、決まってるでしょ。タマラさんの家族には許可もらった」

「おじ様たちが来てくださるの?」

「急遽領地に戻ったから、兄上が代わりに来てくれる予定」


 目をキラキラさせラウラはユーリウスとタマラを交互に見る。


「まぁ、ではわたくしも是非」

「ラウラは領地邸へ着く頃だよ。だから多分無理」

「そんな、わたくしをのけ者にするなんてずるいですわ。お父様にもうしばらくこちらにいるとお手紙を出せば間に合うはず……」

「邪魔しないでほしいんだけど」


 ユーリウスはラウラに呆れた眼差しを向ける。

 ラウラはむっと唇を尖らせユーリウスを睨みつける。


「邪魔だなんて、手紙を早急に送らねばならないわ。それはともかくタマラ様、もしお困りな時はわたくしを頼ってくださいませね。王族には叶わないけれど、それなりに伝手はありましてよ。あざとい蝶々さんを追い払うならば、ね」


 ラウラから不敵な笑みを向けられる。

 その後は馴れ初めやユーリウスの幼い頃の話などしていたが、ラウラは夕方から王都の友人との正餐の約束があるらしく支度の為別れとなった。

 残されたユーリウスとタマラは、せっかくなのでこのままもう少し利用させてもらうことにした。


「急にこんなことになってごめんね。うちの親戚は女の子が少ないから、ラウラは凄く可愛がられて育って我がままなんだ」

「明るくて優しくて、お人形さんみたいに綺麗な女の子ね」

「うん、まあ確かに明るいけど、優しいか……。ちょっと強引なところがあるけど悪い子ではないから。あの後に――やっぱり戻ろうか考えていたら、ラウラに突っ込まれてそれでタマラさんのことを知ってね。そのあとは会わせろって突撃しそうな勢いだし、しかもドレスの一つでも贈るべきだとまあ、騒ぎ出して……迷惑だった? 迎えに行った時、一応ヘレナさんにドレスを贈ることは許可貰ったから」


 母にまでドレス購入の話が通っているならばもうこれ以上言えない。


「そうだったのね。ドレス、ありがとう」


 嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいに決まっている。この先、着る機会があるかといえばないとは思うが。

 たまに部屋に飾って見る分には楽しめる。それだけでもタマラは十分だった。見ればきっとこのドレスを着てユーリウスにエスコートされ、令嬢のようなひと時を過ごした事を思い出せるだろう。


「ラウラにはちょっと借りがあって、婚約者の贈り物を相談したいから一緒に店に来てほしいって頼まれたんだ。その店が紹介制で次の予約が半年とか先になるらしくてね。しかもいつか僕が利用するかもしれないからって、ねじ込んでくれたようで……」


 貴族の間では紹介制の店舗で買い物をするのが流行っていると聞いたことがある。その一つだろうとタマラは理解している。平民にはなかなか縁がない店舗だ。


「あの時、タマラさんは事件に巻き込まれたばかりで警邏に呼ばれると思った。僕の方はラウラが予約した店に急がないと行けないし、本当にごめん。ああいう時こそ傍にいなきゃいけないのに」


 巻き込まれた件をユーリウスが、聞きたそうな雰囲気を出していることに気が付き、掻い摘んで説明した。

 するとみるみるうちに顔を歪める。


「やっぱり離れるべきじゃなかったんじゃないか」


 後悔を含んだ声にタマラは慌てた。


「あ、でも、確かに刃物を向けられはしたけど、見てわかるとおり怪我はしてないわ」

「刃物? さっきの説明にそれなかったよね。脅されたってことでしょう。隠そうとするのは駄目だよ」

「ご、ごめんなさい。でもすぐに助け出されたので」

「本当に気をつけてね。最近、旅行者じゃない他国の人間が王都や辺境に流れてきてるって噂があるから」


 タマラは頷いた。

 ユーリウスは急に姿勢を正してタマラに向いた。


「そのタマラさんは……僕がタマラさんがいるのに別の女性と会っている。って疑ってた?」

「え……?」

「あの時、怖いことがあって表情が硬いのかと思ったけど、僕を見ようとしなかったし何か可笑しいなって、違和感があった」


 タマラがぎこちなく笑えば、ユーリウスは肯定と受け取ったようで真顔を緩めふっと肩の力を抜いた。


「そうか……うん、気がついてよかった」


 タマラは申し訳なく思い、今度はタマラが姿勢を正した。


「でもその誤解は私がそう思っただけで……ユーリウスさんは何も悪くは――」

「いや。僕が今日のことを詳しく伝えていれば、タマラさんが悩む必要なかったはずだよ」

「これは私の心の問題だと思うから、そんなに気にしなくても」

「僕は……タマラさんを傷つけた人と同じ人に見える?」

「え?」

「タマラさんが前に付き合っていた人のことは知らない。調べようと思えばいくらでも機会はあったけど、前にも言ったとおり知りたいとは思わないから。それに、知ってしまえばきっと何度も比較するような、気がする。でも、これだけは教えてほしい。僕が傷つけるような同じ人間だと思われたのかなって」


 今度は上手く笑ったはずなのに、ユーリウスにはわかったようだ。

 傷つけたのはユーリウスではない。誤解していたタマラが落ち込んで自分自身で勝手に傷ついたに過ぎない。

 ユーリウスの眉間に皺がよりそっと手を握られる。


「思ったことをそのまま言ってよ」

「同じだとは……思ってないわ。見た目も性格も違うし考え方も違う」


 ユーリウスの感情は暖かく優しくタマラの気持ちを包む。

 前は愛情のこもった熱を向けられると、どうすればいいのかわからなくなることが多かった。今はその熱を恥ずかしながら素直に受け入れているタマラがいた。


「向けてくれる気持ちも、嬉しいのは確かだし、まだ少し恥ずかしいけど……」


 ユーリウスは好意を全面に出して、タマラをしっかり捕まえて同時に一緒に歩んでいこうとする。傍にいて手を繋いで言葉を伝え存在を示してくれる。

 安心感を与えられ今、タマラはユーリウスの恋人として確かな感情を育んでいる。


「恥ずかしいけど同時に嬉しくて。ユーリウスさんがいるから前を向いて、今を大切にしたいって思ってる」


 言葉と同じく少しでも気持ちが伝わればいいと、握られた手に自分から指を絡める。


「でも、ユーリウスさんは貴族のご令嬢からも好意を向けられてるって知って、やっぱりそうなんだって。だから、私でいいのか、また迷いがでる。それに、今回のようなちょっとした勘違いが、昔の嫌な気持ちが蘇ってきて、心構えが簡単に揺らいでしまう」


 王都で出歩くとたまにすれ違い様に、チクリと見下すような発言をする女性たちに遭遇した。

 昔からそのような経験があったが、当初に比べれば耐性ができたとはいえやはり傷つくことには変わりない。面倒向かって言われれば言い返すことも稀で、大体は黙ってやり過ごしていた。

 まだ貴族のご令嬢たちから何か言われた事はないが、今後はあるかもしれない。

 その時、ご令嬢たちから事実無根なユーリウスとの仲の良さを語られたら、タマラはユーリウスを信じてはいるが過去に引きずられ思い沈むことだろう。

 静かな沈黙が流れる。

 するとユーリウスが小さく唸り息を吐き出した。


「……婚約は早まったか」


 その呟きを耳が拾い上げ、タマラは俯いた。

 再びぶり返す弱い心に呆れられたのかもしれない。

 目元がもやっと熱を持ち鼻が詰まったように苦しい。

 ユーリウスが後悔していると、タマラは感じて心が重く苦しさに襲われる。


「タマラさん? 違う。違うから! 早まったっていうのは、婚約よりやっぱり結婚にすればよかったかなって。だって結婚すれば、朝は一緒に仕事に出て夕方にはご飯食べながら、今日はどんなことがあったとか眠るまで話をして、休みの日には一日中一緒にいられるし、何よりも誰に憚ることなくあんなことやこんなことできるし!」


 捲し立てるユーリウスを見上げ、その口から漏れた最後の言葉をタマラは復唱した。


「あんなことやこんなこと……?」


 ユーリウスは目を見開き慌て始める。


「あ……あー! 今のナシ! いや、ナシじゃないけど! あ〜………………何言ってるんだ。駄目だろう」


 ユーリウスは片手で顔を覆い俯いてしまう。

 悲しみも滲む涙も引っ込んだタマラは、手に隠れていないユーリウスの顔や耳が真っ赤に染まっていることに気がついた。


「ごめん、タマラさん。引かないでくれると……助かる。欲望丸出しで、本当にごめんなさい」

「え……ううん。大丈夫……多分?」


 欲望がどこまでを言っているのか、聞いておきたいようなやめておいたほうがいいのか。ここは無難にそっとしておこうと追求もせず黙った。

 ユーリウスがゆっくりと手を外して、気まずそうな顔をしながらタマラに口を開いた。


「さっきの――言いたかったのは……毎日一緒にいれば僕がよそ見をする暇もないほど、タマラさん中心の生活だとわかってもらえるかと思ったから」


 呆れられてはいないことがわかり、タマラを望む気持ちは変わらずあることに心が一気に軽くなる。

 タマラは心に思ったことを素直に話した。


「私は二人を見て過去に引きずられて悩んだけど、でもユーリウスさんと話しはしようと思っていたの。どんな事情があったのか。誤解かもしれないし、やっぱり無理だったと言われても理由を聞けば納得できるかもしれないから」


 ユーリウスは深いため息をついてから真剣な顔をタマラへと向けた。


「今度からは誤解させないように気をつける。職務絡みの場合は、支障がない限り詳しく話す。それからタマラさんには、気持ちや態度をもっとはっきりさせる。遠慮しないから、いいよね」

「遠慮って、今までそうだったの?」

「やっと頷いてくれたのに、嫌われたくない。だから慣れるまで手加減をしてたんだけど……」


 頬にユーリウスの両手が添えられる。振り払うことのできる力加減だが、それをしてしまえばユーリウスが傷つくような気がする。

 騎士服ではない貴族令息のユーリウスは確かに王子様と表現するに当てはまる顔立ちだ。カロリーナの言うとおりだな、などと逃避しそうになるが顔に熱が集まる。

 目を逸らそうとしてもそれを追いかけてユーリウスが目を合わせるので観念した。


「これからはもっと言葉にして、甘やかして行動でも示すよ。誰よりも大好きだよ、タマラさん。僕が生涯を共に望むのはタマラさんだけ」


 うっとりとした表情のユーリウスの瞳の奥にある熱を見つけてしまう。

 それが移るようかのようにタマラの顔に更なる熱が、鼓動までうるさい。同時に心までじわじわと恥ずかしさや照れに染まる。ほんの少し遅れて喜びが後追いする。


「タマラさんの気持ちは、追いつくまで待つのは変わらないから。だから急ぐ必要も焦ることもしなくていい。結婚式を迎えても奥さんになっても僕はずっと待つよ」


 タマラの頬に添えられた指先が優しくなぞり、親指が唇の端を掠め顎を持ち上げる。それ以上はされずじっと見つめられる。

 さっきまでの燃えるような熱が消えて、深い森のような色合いになった瞳が揺れる。


「……僕だって不安に思うことはあるんだよ」

「ユーリウスさんが……?」

「やっと恋人になって、婚約する目前なのに……。後悔してるんじゃないかって」

「そんなつもりは」

「うん。わかってる。タマラさんは本当に嫌だったらきっちり断るだろうし。だからそこはお互い様と言うことにしないかな」


 顎を支えていた手が離れ、手を握られた。

 お互いの額をくっつけユーリウスは目を伏せ切なく笑う。


「……お願いだから、やっぱりなかったことにとか考えないで。僕がどれ程タマラさんを想っているか、僕の心が見せられたらいいのにな。そうすればきっとタマラさんを不安にさせることはないのにね」


 切なくかすれた声に、タマラは唐突に気がつく。

 ユーリウスは好意を口に出してくれる。しかしタマラは自分の想いをまだユーリウスに告げていない。タマラの気持ちを待つと言ったユーリウスはやはり優しい。タマラを第一に考えてくれているからだ。

 不安なんてないと思っていたユーリウスの心情は、タマラの想いを知らない所為で揺れるのだと。

 今更ながらに気がついた。

今年もよろしくお願いします。

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