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ショートショートの小宇宙

美的感性

作者: 駿平堂

 科学技術の発展に伴って超高速移動が実現されると、宇宙の探索も進み、いつの間にか世の中では、地球外生命体の探索がある種のブームとなっていた。今日もまた、任務を請け負った宇宙船がとある星を発見して着陸した。上空からの観察で、生命体の存在が確認できた星だ。

 

 船員が窓から外の様子を伺うと、住民の姿が確認できた。しかし住民たちの姿を見た船員はみな、言葉をなくしてしまった。あまりにも醜悪な外見だったのである。できることなら何事もなかったかのように、このまま飛び立ってしまいたいとさえ思った。しかしそんなわけにはいかない。任務は任務なのだから、この星の調査をしなくてはいけないのだ。


「どうも、こんにちは。私たちは、地球という星からやってきました」


 船長は宇宙船から外に出て、できるだけ愛想よく挨拶をした。しかし住民たちは遠巻きにこちらを見ているだけで、誰もこちらに話しかけてくるものはいなかった。


「どうも、こんにちは!」


 仕方なくもう一度挨拶をした。すると一人の住民がおずおずとやって来た。


「どうも、こんにちは。こんな星にようこそ」


「お忙しいところすみません。よろしかったら、こちらの星のことについて教えていただいてもよろしいですか? そうしたらすぐにでも去りますので」


「ええ、ええ、もちろんですとも。食事でもしながらお話ししましょう。あなたがたのことについても、聞かせてくださいな」


 ここまで話をして船員たちはさらに気が滅入ってしまった。この星の住民は見た目だけでなく、匂いも醜悪だったのだ。恐らく、出される料理もまともなものではないだろう。そこでこんな提案をすることにした。


「それはいいですね。是非、私たちにごちそうさせてください。いつも訪れた星では私たちの料理を振る舞うことにしているのです」


 船長の気の利いた言葉に、船員は改めて船長の偉大さを知った。しかし相手も譲らなかった。


「いえいえ、あなた方は私たちにとってお客様ですから。こちらにごちそうさせてください」


 普段であればありがたく相手の申し出を受け入れるところだったが、今回ばかりはそうもいかない。話し合いを行った結果、相手は相手の料理を、こちらはこちらの料理を食べるということで落ち着いた。


 しばらくして料理の準備が整った。相手の料理を見て、改めてごちそうにならなくてよかったと誰もが感じた。とても地球上では食べ物とは言えないような見た目と匂いをしていたのである。


 しかしながら、その見た目とは裏腹に、住民たちの態度はとても友好的で、この星に関する様々な情報を惜しげもなく教えてくれた。話は和気あいあいとした雰囲気で進んだ。態度だけで言えば、ここまで友好的な住民も珍しかった。


 しかし遂にこの状況に耐えきれない船員が出てきてしまった。視覚と嗅覚のダメージに耐えかねて、おう吐してしまったのである。おう吐した瞬間、相手の住民たちの視線が一気に吐しゃ物に向けられたことがわかった。


「これは申し訳ない。長旅で疲れていたのでしょう。少し船酔いでもして気持ち悪くなっていたのかもしれません。すぐに片付けます」


「いえいえ、ご無理なさらず。こちらで処理しますよ」


 そう言うが早いが、数名の住民が出てきて、こちらが制止する間もなく、あっという間に吐しゃ物を片付けてしまった。


「いやはや、申し訳ない」


「いえいえ、とんでもない」


 どこまでも友好的な住民であると心から感じた。敵対心とかそういったものをもともと持ち合わせていないのだろうか。


「どうですか、気分が少しでも良くなるように、この星に住む美しい生き物でも見てみませんか?」


 しかし今回に限って言えば、相手の友好的な態度は裏目に出てしまう。


「いやあ、大変ありがたいことですが、そんなにお手を煩わせるわけにはいきませんよ」


 彼らの言う美しいが、とても自分たちの美しいと同じとは思えなかった。しかし相手はただ遠慮しているだけだと捉えたのだろうか、有無を言わせずにショーを始めてしまった。


「そんなことないですよ、ささ、まずはこんなものからどうでしょう」


 そう言って住民は虫かごのようなものを取り出した。その中にはなんと、見るも美しい生き物が入っていた。ファンタジーの世界の妖精のような見た目をしていた。船員たちは一気に色めき立った。こんな美しいものを見られるなんて! しかし住民たちはあまり興味が無いようだった。見慣れているのだろうか。


 その後も、美しい動物や植物、芸術品などを惜しげもなく披露してくれた。


「いやあ、大変素晴らしいものを見させていただきました」


「そ、そうでしたか。それは何よりです」


「それではそろそろ出発いたしますね。本当にありがとうございました」




「はあ、行ってしまったか。とんでもないやつらだったな」


「話せば悪い奴らじゃないってのはわかったけど、あの見た目と匂いはたまらなかったな」


「ああ、今思い出しても身の毛がよだつぜ」


「しかし、食事中にあいつらの一人がいきなり吐き出した時は驚いたな」


「本当に。あんな奴らからあんなごちそうが出てくるなんて」


「結局最初の一人しか吐き出してもらえなかったのが残念だったな」


「ああ、この星のありとあらゆる気持ち悪いものを、これでもかって言うほど見せつけたのに、あいつら喜んでいるようだった」


「見た目がおかしい奴らは頭もおかしいんだろう」

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