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とある地球人との遭遇

同時に第一話を投稿しておりますので、そちらからお読みください。

 14歳になった誕生日の日、アルマ=グランデは、森の木々の上を飛び回っていた。165センチと14歳にしてはそれなりに高い身長を黒いローブで隠し、その短い銀色の髪が目立つまだ幼さが残る顔と頭をその右目えお中心に巻かれた包帯で半分隠れている。

 しかしローブの半分は燃やされ、アルマ自身もいくつか軽い火傷を負っている。その理由は、彼が戦っている地球人にあった。

 二十代も前半くらいのその男は、長い金髪はところどころに白髪が混じり、青い瞳は狂気に満ちていた。気味の悪い笑みを浮かべながら、わざとアルマにギリギリで当たらないように攻撃を放っている。

 遊んでるな。全く、舐められたものだ。


 その地球人はどこからか現れ、森の中に住み着くと自身を『魔王』と称して近隣の村々から強奪を繰り返していた。家財や作物、さらには女性まで奪われ、逆らったものは容赦なく殺されていくことからヴァルガンヘイム傭兵団に討伐依頼がもたらされ、アルマたちが派遣されたのである。


 そんなアルマを狙って、下から爆炎が巻き上がった。それ振り払い、アルマはその手に持っている弓を引く。しかし放たれた矢は敵に届くことはなく、その前に失速し、容易にはたき落とされる。


「飛び回ってんじゃねーぞ雑魚! 猿かよてめぇはよぉ!」


 怒声を上げる青年は、アルマに向かって右手を向ける。直後、その右手が光ったかと思うと凄まじい炎が襲いかかった。地面に転がるように避けたアルマが体勢を立て直す前に、青年は再び手を向ける。その表情は勝ちを確信したかのように歪んでいた。

 しかし逆にアルマはまるで哀れなものを見るような目で青年を見ていた。


 そんな目線に気がつくはずもなく、青年は両手をアルマに向ける。木の上を飛び回るアルマに狙いを定め、今度こど全身を焼き尽くして地面に叩き落とし、絶叫をあげさせてやろうと狂気の笑みを浮かべる。

 そして両手が光り始めた瞬間、青年の首が落ちた。


 首を落としたのは、青年の背後に立っている長髪の青年だった。その手には血に染まった剣が握られており、その表情は人を斬り殺したとは思えないほど清々しい。

 狂気の笑みを残したまま落ちた首を探しているのか、アルマに向けていた腕はもうなくなった自分の首があった場所を探るように動き、青年は地面に倒れた。


「囮役ご苦労さま、アルマ」

「うまくいって何よりだよ、ゼッツ」


 長髪の青年、ゼッツは木の上から降りたアルマに声をかけつつ、腰にかけていた麻袋に落とした青年の首を入れた。


「体はどうするの? 燃やす?」

「特に何も言われてない。お前の好きにしろ」

「好きにって、言われてもなぁ……」


 ゼッツが体の処理方法を考えている間、アルマは周囲を見回し、戦闘の余波で燃え始めた木々を確認する。


「アイソレート」


 そう一言呟くと、燃えている箇所を透明の壁が囲った。壁によって阻まれ、空気が入らなくなったことにより炎は次第に勢いをなくし、やがて完全に消えてしまう。

 火種まで消えてことを確認したアルマが魔法を解くと、長い溜息をついた。


「バカスカ燃やしやがって」


 戦っている最中にも炎が燃え広がらないように努めていたものの全てに対処することなどできず、一部の木々は燃えてしまっていた。 

 戦っている途中で消化に魔力を費やすことを予想し、魔法をできるだけ使わないようにしてきたのだが、結果的に長く時間がかかってしまった。


「で、どうするか決めたか?」

「このまま埋めていくよ。地球人の死体ってだけで欲しがる連中とかいそうだし」

「そうだな。それが一番いい」

「それじゃ、ホールンド!」


 ゼッツのが魔法を唱えると地面がえぐるように浮き上がり、それなりの深さの穴が出来上がった。その穴に死体を蹴り入れると魔法を解除し、土を元に戻す。

 まるで何事もなかったかのように元に戻った地面を見て満足そうに頷くと、首の入った麻袋を腰にかけた。


「どう? 見つけられた?」

「あぁ、この奥に古い小屋がある。そこだ」


 二人の任務は自称魔王を殺すことともう一つ、その住処を調査することである。

 地球人の中にはアルヘインの技術では実現できないものを持つことが多くあった。そのため、回収可能なものは回収するようにしている。


「お、あったあった」

「罠があるかもしれん。気をつけろよ」


 少し歩いたところに木でできた小屋が合った。人一人が住むには十分すぎるほどの大きさである。


「魔王の城にしては、みすぼらしいね」

「バカ言ってないで入るぞ」


 軽口を叩くゼッツをたしなめつつアルマは小屋の扉を開いた。しばらく待っても罠らしきものはなかったため小屋の中へと入る。

 小屋はワンルームとなっており、木でできた皿がテーブルに置きっぱなしになており、ベッドには乱雑に脱ぎ捨てられた衣類が置かれていた。


「はずれ?」

「いや、下だ」


 アルマはそういうと思い切り床を踏んだ。すると足は床を踏みに抜き、崩れた床の下から土を削ってできた階段が現れる。


「ライト」


 魔法を唱えるとゼッツの右手に光る球体が現れる。そしてゼッツを前に二人は階段を降りた。

 階段は長く、五分ほど降りると広い空間へと出た。ゼッツが右手を高く掲げると、光る球体は大きくなり、空間全体を照らした。


「うわぁ、これって……」

「………まぁ、生きてねぇかもしれないとは、思ってたけど………」


 十畳ほどの空間にあったのは、いくつもの積み重なった焼死体だった。全身が真っ黒に炭化しており、もはや性別の判別もできないほど欠損している。

 さらわれた女性たちがどこへ消えたのか、嫌でも理解できる光景だった。


「帰ろっか」

「そうだな。ここには何もない」


 性別もわからなくなった死体を持ち帰ったところで、どうにもならないだろう。

 そう思い踵を返す二人に、背後から何かが動く音がした。ゼッツはすぐに剣に手をかけ、アルマも腰に携えたナイフを抜く。

 ズルズルと何かが這いずる音が聞こえ、そして積み重なった死体の中から一本の腕が出てきた。その腕はまるで助けを求めるかのようにジタバタと動いている。


「どうする、アルマ」

「……攫われたやつの生き残りかもしれんし、助ける。一応、力を使うからいざというときは任せたぞ」

「任された」


 アルマは頭に巻かれた包帯を取ると、その右目を見開く。

 その右目の眼球は完全に黒く染まっていた。まるで穴の空いた目に墨汁を注ぎ込んで凝固させたような有様である。

 しかしその目が開いた瞬間、もがく手の動きが止まった。アルマは腕が完全に停止したことを確認すると、その手を掴んで一気に引き抜いた。


 出てきたのは、全裸の少女だった。


 見た目から年齢は十五歳前後で、中性的な顔立ちをしている。身長は少し高めで、アルマよりも少し低い程度だった。髪も方までしかなく、それなりに発達した肉体がなければ男性と見間違えるかもしれない。

 ただその顔色はかなり悪く、弱く浅い呼吸を繰り返しており、かなり衰弱した様子である。


「攫われた娘の生き残りかな。とりあえず回復して、話を聞いてから考えようか」

「そうだな。村の場所を聞いて帰しておこう」


 アルマが少女に回復魔法をかけ、顔色が少しよくなったことを確認し、ゼッツが抱え上げた。そして階段を昇り、部屋にあったベッドに寝かせる。アルマも包帯を巻き直すと地上へとあがった。

 数度回復魔法をかけ、容態が安定したところで二人は小屋内部を再度探索しつつ看病することにした。ゼッツは小屋の周囲の散策に出て、アルマは小屋内部の探索を開始する。


 ベッドが視界に入るように探索をしつつ、討伐の際に近くの村の住人からもたらされた情報を思い出す。


 聞いた話じゃ黒髪の女の情報はなかったはずだ。確認はするけど、間違いはない。となれば少し離れた村から連れてこられたか、旅の人間か? だとすれば村じゃなくてギルドにでも送ったほうがいいかもしれないな。着るものもなかったみたいだし。


 そんなことを考えていると、ベッドが動く音がし、呻くような声が聞こえた。アルマが近づいてみると、少女は眉間に皺を寄せながら、ゆっくりとその目を開いた。


「おい、大丈夫か」


 少女の顔の前で手を降って確かめていると、少女の目が少し動いた。そしてかすれた声でアルマに話しかける。


「どこ……ですか、ここ……」

「地球人が住んでいた小屋の中だ。もう倒したから、お前も自由だ。名前を教えてくれ」

「ちきゅう……じん……? な、まえ……」

「大丈夫か? 言えなければもう少し落ち着いてからでもいい」

「名前は……おうか。桜川謳歌……」

「サクラガワオウカ……」


 名前から自身の記憶を辿るが、やはり攫われた女性の名前にはなかった。

 となれば、周辺の村以外から連れてこられたってことか。


「どこの出身だ?」

「と……きょ……」

「もう少し大きい声で頼む」

「とう……きょう……」


 とうきょう………トウキョウ?

 その言葉を聞いた瞬間、アルマは思わず立ち上がった。そしてナイフの柄に手を伸ばす。


「お前……ニホンジンか?」


 アルマの問いかけに、謳歌はゆっくりとうなずいだ。

 最悪だ。あの自称魔王の仲間か? だとしたらここで……。


 殺すのは流石に早い、と思い直し、しかしナイフから手を離さず質問を投げかける。


「おい、一つ答えろ。お前はどうして地下にいた」

「……わから……ないです……ここ、どこ……」

「……………ここアルヘインだ。地球じゃない」


 その困惑した瞳から一先ず敵意がないことを感じたアルマは包帯を取った。しかしまだ目は開けず、大声でゼッツを呼んだ。その声に反応してすぐにゼッツが小屋の中に入ってくる。


「どうした?」

「こいつ地球人だ。間違いない」

「うっわ。本当? 敵意は?」

「ない。というか、自分の置かれた状況を理解していないらしい。演技じゃなければな」

「オレから見ても演技には見えないけど。うん、無実の地球人を殺すのはよくないね」

「……そうだな。俺の目も効いたし、一旦ヴァルガンヘイムに連れて帰ろう」


 アルマは話をまとめるとナイフから手を離し、再び謳歌に近づく。謳歌は何が起きているのか分からず、困惑と恐怖の瞳でアルマを見ていた。


 これが地球人、ねぇ。


 今まで出会った地球人たちは皆一様に敵か自信に満ち溢れていた。それに比べて目の前にいる少女はまるで怯えた子供のようである。そのギャップがアルマには信じられなかった。


「変な対応をして悪かった。一旦保護させてもらう」

「なにを……するの……?」

「俺たちの拠点まで来てもらう。拒否権はない」

「い、いや……こ、こないで……!」


 アルマたちの敵意を敏感に感じ取っていた謳歌は、涙を浮かべてうずくまる。さらにその時自分が裸であることに気が付き、恐怖は一気に頂点に達した。


「おい待て。敵意を向けたのは悪かったけど本当に助けに……あぁもう、ゼッツ。手伝え」

「乱暴はよくないよアルマ。優しく介抱してあげないと」

「めんどくせぇ」


 優しくとかわかんねーよ。気絶させて運ぼうかな。

 そんなことを考えつつ、とにかくなだめようと一歩近づくと、謳歌は胸のあたりを抑えると前のめりにうずくまり、そしてそのまま動かなくなった。


「気絶した、のかな」

「みたいだな。丁度いい。今のうちに運んでしまおう」


 ゼッツが毛布にくるんだ状態で謳歌を抱き上げると二人で小屋を出て森を抜ける。そして停めてあった馬車に乗りこんだ。

 向かう先は、城塞都市アラベンスク。ヴァルガンヘイム傭兵団の本拠地である。

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