それぞれの見解
事件の最中。
答えを探し求めて、ヒーローと化した少年はG9の元へとたどり着いた。
焼けた住居に、踏みつけられたヌイグルミ。
その全ての元凶が、目の前にいるという真実に心を砕かれそうになる。
「教えてくれよG9。君が怪物たちを守ろうとするのは、彼らが人間だったからのか?」
「…彼らは人間に該当しています。私が彼らを守るのは、それが宿命だからです。」
「やっぱり、そういうことなのかよ。」
少年は歯を噛み締めて、拳を握る。
「他のG9を壊したっていうのも、本当なんですか?」
「我々は人類を守らなければならない。しかし他の機体は彼らを人類と認識することがすぐには不可能だった。」
G9は、人類に危害を与える兵器と判断された。
「だから壊したって言うんですか。G9は皆を救ってくれたヒーローで、優しくて、心があって、大事な命があったのに!」
「そんなものは存在しない。G9は機械であり、生命体ではない。」
冷淡に答えるG9に向かって、何かが数発打ち込まれる。
受け流されたところを反撃されて、現れたのはもう一人のヒーローだった。
「だから言っただろう後輩、こいつは出来損ないなんだ。」
「先輩っ。」
「こいつは保護対象の命を守ることしか命令されてない。命さえ守れるなら他がどうなったってかまわないんだよ。」
「じゃあビルを壊したりしてきたのって、そのために。」
「まったく、家や金がなくなったら結局生きてけなくなるってのに。」
言い合いながらも、激しい攻防戦が続く。
「人間だからって、犯罪者なんか庇いやがって!」
これまでの攻撃で、いくらか破損し始めていたG9に新たなヒビが入った。
そんな己のこともかえりみず、二人の間をすり抜けていく。
逃がすものかと追いかけようとした先輩に、なぜか少年が掴みかかった。
「なんのつもりだ!」
「先輩は、どういうつもりなんですか。」
「なにがだ。」
「あのG9を壊したら、今度は怪物ですか。相手は人間だっていうのに。」
確信したかのような少年の目を見て、そういうことかと嘲笑う。
「あーぁ。簡単に気づくなんて、相変わらず厄介な奴。」
「怪物になっただけで犯罪者なんですか!?」
「怪物ってだけで駆逐してたやつがよく言うなぁ!?」
たじろぐ少年を邪魔だとばかりに蹴り飛ばす。
少年は再び立ち上がって、痛みに耐えながらも考えていた。
あまりにも冷静すぎる、と。
「まさか、知ってたのか?知っていやがったのか!?」
「…どうせ刑務所に入るような奴等だ。逮捕なんて意味もないだろ?」
もう隠せないと悟ったのか、あっけらかんとした態度で彼は告げた。
罪人を消し去りたかった。
ならば怪物にすればいいと話を持ちかけられた。
そうして彼は、罪を犯した人間を怪物として倒すヒーローとなった。
少年は、殴りかかろうとする。
「正義のために戦うって言ってたくせにっ。罪人ってだけで更正は許さないってか!町が破壊されて、一般人が襲われるのも仕方ないってか!」
「人の数だけ正義があるとも言ったはずだ。」
勝つやつがいれば負けるやつがいて、特別になれば特別になれないものがあるように。
「そんな理由で納得できねぇよ!大勢にとっての最善の正義があるはずだ、考えろよ。自分の正義さえ貫ければいいって?そんなのただ考えるのを諦めただけじゃないか!」
「これが世界のためになるんだ。」
「何が世界だっ。そんな救い方、あのアンドロイドと一緒じゃないか。全てを救うのを諦めて、どれだけの犠牲があっても惜しまないなんて。」
何度目かのやっと当てた一発で、少年は彼を叩きつけた。
「あんたの守りたい世界ってのは小さすぎんだよ!」
相変わらず怪物並みの強さだな、と彼は痛感する。
一体どこで手に入れたのやらと思案している間に通信が入った。
「ちっ。あいつ、あの刑務所に向かったか。」
「刑務所?」
「…怪物兵器を仕込んでるところだよ。意外と情報を捕まれるのが早かったが、ちょうどいいか。」
「ちょうどいいって、何がだよ。」
口をつぐんだ彼の様子から、嫌な予感がした。
G9は人命を守るのが宿命だったはず。
とすれば、考えられるのは。
刑務所にいる人々の危機だ。
「怪物と一緒に始末しようってか!」
おそらくは刑務所にいる罪人全てを処分する予定で、何かを仕掛けていたのだろう。
だからこそ「ちょうどいい」などと言ったのだ。
しかし理解したところで場所がわからない。
どこかと聞いていても教えてもらえるはずがなく、必死になって考えているうちに、あることを思い出した。
「刑務所ってもしかして、おねぇさんが言ってた場所なんじゃ。」
「おねぇさんが?おいお前何言って。」
「おねぇさんが今朝言ってたんだ!古い友人がいるかもしれないから、ムショとやらに行ってみるって!」
紅茶を淹れてくれた彼女の記憶が、霞んだ気がした。
ーQ2 成すべき正義とは何か?