ある日 森の中
サムは、森林ギルドに所属する木こりである。
年齢は25歳。木こり歴は10年ほどになる。
その日、サムは、朝から森に入り、作業場所で仕事を始めていた。
木の倒れる方向を確認してから、斧を振り降ろす。
ザクっと、小気味良い音と共に、木の根元に口の形のような切込みを入れていく。
切り口を入れ終わったら、今度は、逆側に切れ目を入れていく。
よし、もう少しだと、サムが作業をしていると…。
「うぎゃぎゃ!」
突然、奇妙な鳴き声がした。サムが声の方を振り返ると、緑色の肌をした人型の生き物がいた。
サムは見たこともない生き物の姿を見て、びっくり仰天した。
見た目は人間に近い。背の高さは2メートルほどで、全身が筋肉モリモリのマッチョマンである。
一瞬、顔色の悪い人間かと思ったが、頭から角が2本伸びているし、肌の色が緑色になる病気なんて聞いたこともない。
サムは、相手が人間ではなく、得体のしれないモンスターだと認識した。そして、以前、ハンターギルドに所属する友人がしていた話を思い出した。人里離れた森や洞窟を住みかとする緑色の肌に2本角のモンスターがいることを…。
(名前は確か…。ゴブリン!)
サムは冷や汗を垂らしながら、こちらに歩み寄ってくるゴブリンを見る。
相手との距離は、10メートルほどに迫って来ている。
友人の話では、ゴブリンは人間に敵対的で、問答無用で襲い掛かってくるらしい。
迫りくるゴブリンの右手には、ぶっとい棍棒が握られており、友好的な雰囲気は微塵もない。
(逃げるか?)
サムは、モンスターと戦ったこともないし、戦うための訓練もしたことがない。
逃げるのが一番良い手段の様に思えた。
しかし、サムは走るのが得意ではない。相手のゴブリンの立派なふとももを見るに、どう考えても追いつかれてしまうだろう。
背中を見せて逃げるよりも、戦った方が良いかも知れない。
幸い丸腰ではない。手に持つ斧を握りしめ、感触を確かめる。
動物に振り降ろしたことはないが、当たりさえすればかなりのダメージを与えられそうだ。
サムが覚悟を決めて一歩踏み出そうとした時だった。
「グオオオオオオオォ!!」
ゴブリンが凄まじい雄叫びを上げ、棍棒を天に掲げて、こちらを睨みつけたきた。
そのあまりの迫力に、サムの覚悟は一瞬で崩れ去った。
素人があんなのと正面から戦うなんてできるわけがない。
サムは、恐怖から後ずさりするのだった…。