ドタバタな朝の魔王城
声が聞こえる。
「すまぬな、こうするしかないのだ…」
「分かっています、しかしこれは、この世界のためであり、あなたの理想のため」
目が開けられない、ここはどこだろう…狭い…何かに閉じ込められているのか?
「あやつを、あのような性格にしていまったのは他でもない私なのだ。私が間違いを犯し自分の作った魔神軍を自分で崩壊させてしまったような…」
「わたしは…あの人を、愛しておりました。幼くして捨てられたわたしを、あの人は…」
「その出来事は思うとあやつの唯一の善行だったのだろうな…」
何の話をしているんだ?
「だからこそ、この子だけは、何としても ……をかけて、……望む…」
聞こえない。
「んあ…あ?」
…また、夢か…
柔らかいベッド少し見慣れた部屋…
「…リネアー?」
呼んでから少し経つがリネアが来ることはない。
「おかしいな…ん?」
手に何か硬いものが当たった。
「あっ、本…」
昨日借りた本読み終わった後、そのままベットにおきっぱだったのか。
「来るまでドリルでもやっておこうかな」
中から2冊のドリルを取り出して近くのテーブルに向かい椅子に腰かける。
見る分に関しては特に問題はないが、書く分には中々難しい。
初めてひらがなを書いた時も同じ気持ちだったのかな…
そう思いつつも慣れない文字を黙々と書いていく。
しかし、今日見た夢…今思うとあれは、おそらく、この身体の…魔王としての記憶…あの声の主はなんだか…哀しげだったが、何か聞きなれたような…安心できるような…そんな、安心感がある。
多分、先代の魔王と母親だろう…
何の話か分からないけどもしかして、記憶を取り戻しているのか?
俺が死んで、そして、この身体に俺の精神が混ざったのか?もし、そうだとしたら、この記憶がなにか、手掛かりになるかもしれない。
だとしたら、あれがいいかも知れない。
「…魔法創造」
一言そういうと目の前に測定板と同じような画面が表示される。しかし全てが白で埋め尽くされている。
「魔法名、経験値取得。魔法効果、常に経験値を取得。効果時間、魔力が尽きるまで、以上」
『承認シマシタ魔法創造完了マデ約七十時間カカリマス』
設定を入れると機械音声のような声が聞こえた。
とりあえず、これでいいか、さて、まずは引き続きドリルを進めてっと…
強さはあって損はないだろうな。
適当に強くなれるようなスキルにしたけど、多分期待には応えられるスキルだろうな。
「すいません!結構時間をかけてしまいました!」
リネアが焦った顔で部屋に入ってくる。
「遅かったね、どうかしたの?」
「ええ、少し色んな所を回っていて…おや、言語の勉強ですか?」
「まぁね。読みは大体できるようになったけど、まだ書くのはまだ少し歪な感じでね」
リネアがドリルの中を覗き込むと目を白黒させている。
「…すごい、上達が早いです…!応用の問題もあったのにミスがひとつもない」
「まぁ、疲れたから休憩しようかと、思ってたんだ。朝の食事もまだだからね」
「あっ、そうでした。そのためにお呼びしようとしていたんです」
「そう?なら、行こうか」
そういいながら、食堂へ向かう。
「魔王様、これを見ていただきたいのですが」
「あー、でも、前が見にくいから食事の後にするよ」
リネアはでは、と言った後に俺を抱きかかえて手に持っていた紙を握らせる。ようするにお姫様だっこだ。
「わっ、わっ!」
「これなら見ながら移動できますね。」
「そ、そうだけど、この状況は少し、いや、結構恥ずかしい…」
「魔王が恥ずかしがるなんて恰好が付かないでしょう?」
確かにそうだけどお姫様だっこなんて幼少時代以来だぞ!?恥ずかしすぎる!でも、いつの間にか手を首の後ろに回している…こんな女々しい事を…
「で、これは?」
「この近辺の地図を書きました。それぞれ、色分けをして、区別できるように勢力や領地に分けています」
改めて見ると確かに森のような物や小さな村のような衛星写真のような感じに見える。
「電子器具や、日用品の情報端末でも見れますが、あっちの方は色分けされてないので、プリントアウトして、私が色分けしました」
なんか一気に、近代化な単語が出てきたんだが!?
「まず、その地図の真ん中が今の魔王城とそれを取り囲むイージスフォレスト、大規模なこの魔神軍の領地です。他の色は野良の魔人達の領地や人間達の領地、色分けされていない所は領地にされていない、もしくは、どの勢力も使う共有の道や土地です。まぁ、勢力としてそれぞれ、敵対しているのが多いので最も危険な場所でもあるんですがね」
なるほど…確かにこの地図をみると魔神軍の領地もよく見れる…ん?これは人間達の村、小規模な村の周りが魔神軍や、魔人の領地に囲まれているぞ…?それだけじゃない、東方面北北東から南南東まで魔人領だ。
「魔人領はわたくしたちが二代目と共に人間達を殺す為に旅をしている間に力をつけて領地を広げていったんです。軍が疲弊や死により減った今の魔神軍では昔のような戦力は残っておらず、ただ、指を咥えてみている事しかできなかったんです」
疑問を口にする前にリネアがそういった。
「うーん、今のままだと流石に今、乗り込んだりしても返り討ちになるだけかな、もう少し兵の熟練度をあげて、尚且つ兵をもっと多くしないと、いけないよね、他にもその場所の地の利なども把握しないと…ブツブツ」
「ま、魔王様、今考えなくとも時間はあります。今のところ魔王城を攻め落とそうなんて動きもありませんし、放置も危ないかもしれませんが、今できる事をした方が良策かと思います」
そうは言ってもと言いかけた時遠くから俺たちに呼びかける声が聞こえる。将軍格の装備開発部門のギリアだ。
「リネア、魔王様、出来上がりましたよ。簡易用の測定板…ふぅ、はぁ…」
「だ、大丈夫?息がずいぶん上がっているようだけど、って測定板?」
ギリアが手に持っているのは板ではなく指輪みたいだけど
「板を常に持ち歩くのは面倒だからってリネアから注文を頂いて測定板の持ち運びやすぐに起動できる物を開発して今、丁度出来たので、お届けに参りました。」
「ありがとう、食事の時に試してみるわ、今、魔王様と共に食堂へ向かうつもりだったのだけど、一緒に来る?」
「おぉ、また、魔王様とご一緒できるなんて、光栄です、是非」
ふむ、測定板の簡易版を作れるのか。武器の追加効果も強力なものが思いついたら頼んでみようかな。
リネアが扉を開け厨房の扉に向かって声を上げる。
「おーい!キッカちゃん、魔王様とギリア、私の朝ごはん作れるー?」
しばらくすると、奥の部屋から小柄な少女が顔を出す
「はーい、主食の方は?パン?お米?」
「あー、俺はパンで」
「魔王様はどちらにしますか?」
「んー米で」
「私と魔王様は米で」
主食を聞いたらキッカと呼ばれた女の子ははーいと答え厨房に戻っていく。
「さてと、待ってる間にこの指輪試してみて下さい」
「いいけど、これ、ちゃんと正確な数値出来てるの?」
リネアが少し疑いを持ってるようだ。
「大丈夫です。ちゃんと試しましたよ」
その指輪を見てみるが結婚指輪のようなものではなくただのリングに見える。
「これってどの指につけてもいいの?」
「ええ、試した時にはどの指でも正確に測れていました」
「とりあえず、あの、人間達を倒してどのくらいレベルが上がったのか見てみますか」
早速小指につけてみるか。
「あぁ、つけた後に赤い宝石を押してください」
つけた時に赤い宝石が反応するように指輪の上に出てきた。
ギリアが言った通りに押してみると測定板と同じように白いディスプレイみたいな画面に文字が表示される。
名前 カイン・ノイシュヴァンルーデ・レン 302歳 魔人族 26Lv
攻撃力 67
防御力 68
敏捷 59
魔力量 ∞+
所有魔法 魔法創造(固有魔法)経験値取得(取得中のため未発動)
加護 魔神の加護
「25上がってる…これって多い方なのかな」
「ふむ…どちらかといえば少ない方ですかね。弱ってる奴らじゃ効果も薄いのでしょうか…ギリアはどう思います?」
「…」
「ん?ギリアー?」
ギリアの目の前で手を振ってみて数秒後ドサリッと後ろに倒れた。
「えっ、ちょっとギリア?」
すごい顔が青ざめてるし、痙攣しているよ!?
「えーっと、キッカだっけ?寒さに聞く奴や痙攣している人向けの薬膳料理とかない!?」
「落ち着いてください魔王様そんな料理あるわけ…」
「ありますよー」
「「あるのかよ!!」」
その料理がくるまで毛布などを被せたり看病をした。