魔神軍の過去を乗り越えて
「如何ですか?湯加減の方は」
「んっちょっと熱いかな、でもすぐになれるよ」
あれから、五人でお風呂に入ることになったけど、そうだよね。
冷静に考えたらみんなタオルとかで体隠しているよね。
正直助かったけど…
「あつっ!」
モニカはさっきから手を入れては離し入れては離しの繰り返しだし、ロザリーとナナリーは
「後でそっちの背中流してあげるねロザリー」
「わー、お姉ちゃんの肌綺麗…羨ましいなー」
あの姉妹お互いにシスコンなのかな?
「それにしてもこの、お風呂すごいね。色んな温泉がある」
「ええ、魔王城自慢のお風呂なんですよ。電気風呂にジャグジー、炭酸風呂、ジェットバス更に露天風呂もあるので後で言ってみましょうね、あっでものぼせるといけないので、ほどほどに」
「うん、そうするよ」
それにしても本当にいいところだな、温泉なんて行く機会なんて、あまりなかったし、修学旅行でもペアや三人一組の部屋に一人づつ入る感じだったから、すごい懐かしい。
小学生以来かな
「あっづあああああああ!!」
「モニカ!?」
大声に振り向いたらナナリーがモニカを押したような形で四十度近くのお風呂でモニカが暴れている。
「ゴメンゴメン!石鹸で滑っちゃってロザリー、水風呂にモニカ入れて!」
「う、うん!」
ロザリーがモニカに向かって手を向けるとモニカの身体が宙に浮いてそのまま水風呂に入れる。
「つ冷たっ!冷たい冷たい!!」
「我慢してモニカ!」
あー、モニカ泣いちゃったよ。とりあえず、あっちは二人に任せよう。
「そろそろ、露天風呂に行こうリネア」
「えっ?あっはい」
露天風呂に行くと外の空気が肌に触れて寒いくらいだ。
「うっ、寒い」
「で、ですね…今日は一段と寒いらしいですし、早く入りましょう」
慌てて近くの湯に向かう
「うっ、外が寒い分、痺れる感覚が…」
「しばらくすれば慣れますよ」
懐かしい温泉の湯は身体に染み渡る感じがとても心地良い気持ちになってくる。
「はぁ~」
「気持ちいいですね~」
リネアも気が抜けた様な声を上げてリラックスしているようだ。
「リネア、いくつか聞きたいんだけどさ、私の両親って今、何をしているの?」
「……」
「こればっかりは聞かずにいれないの、どんな答えでも受け止めるから、お願い、教えて」
そう、今まで聞かなかったのはリネアが遮ろうとしたから、演説をする前に親の事を聞こうとしたら招集をかけるといい場を離れ、自我の話の時言いかけたクソ魔王と言い直してわざわざ私のお父様と言い直したのは何か隠そうとしているようだった。
「…分かりました。少しばかり長い話になります」
時は数千年前魔王城に新たな魔王が生まれた。
それは、先代の魔王の息子つまり二代目の魔王だ。
この魔王は生まれたころから魔人として生を受けてみるみるうちに力をつけ自我の覚醒も他の魔族と遥かに早く多くの魔人から期待を寄せられていた。
しかし、それは、すぐに砕かれることになる。
二代目は配下に人間を滅ぼせと命じ更に滅ぼすまで、帰還を許さなかった。
他にも歯向かう者を全て殺せなど、配下の者は力の関係上従うしか、なかった。
もし、少しでも歯向かう者がいたら待っているのは死のみ、二代目の魔王は実力はあったものの上に立つ器ではなかった。
時間と兵をただただ潰す結果になり元々十万もいた魔王軍は気が付けば千人しかおらず、作戦らしい作戦なども一切なく残った魔人達は次に死ぬのは自分かもしれないという恐怖に震えていた。
それを二代目は道具はいつまでたっても役に立たんと痺れを切らし残った千人全員を連れて魔王城は先代魔王に任せ魔神軍以外全ての魔族、人間を殺す為に出撃した。
見本を見せてやるといい立ち多くの命を奪った。
それも、長く続くとは知らずに…
出撃してから、半年食糧も自己調達になり、疲弊した兵をこっそりと軍を抜け魔王城に帰還させる事を元将軍達は決めた。
そのことを二代目は知らずが多く集まる場所である王国へと強襲を仕掛ける。
前線に立ち剣を振るい矢を受けても止まらず、軍を乱暴に使う既に千人いた軍は忠誠など微塵もなかった。
二代目はそのまま突撃して殺戮の限りを尽くした。
しばらくして王国の本隊と戦闘になり熟練の者達に善戦したものの次第に疲労が溜まり、最後に本隊の隊長と相打ちになり、二代目は命を落とした。
その様子を見た将軍達は心の底で思った『ざまあみろ』と、しかし、二代目を失ったことを意味するのは、魔神軍の不安を煽る事になると知るのに時間はかからなかった。
二代目は既に婚約をしており、クォーターの妻がいた。
魔王軍は王妃に二代目の死を伝え、それぞれ、傷を癒したり長くの休息をとる。
数か月後、魔神軍で大きな騒ぎがあった。
王妃が突然倒れたのだ。
原因は大きな病だ。既に次の魔王となるであろう子を孕み、病に苦しむ王妃の姿は魔神軍の中で大きな混乱を生む。
この病は治療法もなく、臓器を入れ替える事しか方法が無いしかし、それをしたら、お腹の胎児は、すぐに衰弱死してしまうものだった。
その様子を見て先代は大きな選択を強いられる。
王妃の子を守るために王妃を亡くすか王妃を守るために子を捨てるか時間は残されていなかった。
病は王妃の身体を徐々に蝕んでいく、王妃は身体を支えてもらえられながらも、先代に子を産む事を伝えて、先代はしばらく黙り込んだが王妃の目を見て今にも消えそうな声で「わかった」と答えた。
その答えを聞くと自分の病棟に向かった。
「その後に、二代目の王妃様に呼ばれ頼まれたんです。『私の子を支えてあげてね』と」
「そっか…」
「驚かれないんですね」
「受け止めるって言ったでしょう」
正直なところ衝撃は受けた魔神軍がそんなことになっているなんて知らなかったし、何より合点がいった。
「ねぇ、でも、なんで忠誠をすぐに誓ったの?お母様の言ったことを無視してお父様…とはあまり言いたくないけど、クソ魔王と同じ様な道を歩む可能性もあったんでしょう?」
「うーん、なんで、と言われると困るんですけど…初めて会話した時、感じたんですこの方はとてもお優しい方だと」
まぁ、人を道具のように使う人の下で働いてそれで死ぬなんてもの誰でも嫌だよな。
「実はあの演説では最初みんな不安がっていたんですよ、ですけどみんなあの言葉に惹かれたんだと思いますよ」
「全てが等しく全てが美しくってやつ?」
「ええ」
この言葉を言ったのは簡単にいうと魔族も人族も平等にって意味だったんだけど、それがみんなを安心させてたんだ。
「話してくれてありがとうね、おかげで目標が決まったよ」
「目標ですか?」
「私、強くなるだけじゃなく、理想郷を作るだけでもなく、みんなのためお母様のために全てに全身全霊で取り組むことにする。私はこれからも自分が死ぬまで、この魔王城を、いや、世界を見守り続けるよ、最後まで付き合ってくれる?リネア」
「…はい、喜んで、我が主、レン様」
しばらく、静寂が続きその間、二人共それ以上の言葉を交わさなかった。
「…はぁ、これじゃあ私たちはおじゃま虫じゃん」
「それにしても、よく様子を見ようって気になったよね。モニカ」
「フフッ、こっちから仕掛けるつもりだったけど、自分であそこにたどり着くのは私でも難しいよ。だけど魔王様は、いや、あの二人は自分たちでたどり着いた。いや、歩み始めたのかもね。しばらくは、まだ皮を被っていることにするよ。さて、と…おーい!まおーさまーわたしもろてんぶろはいるよー、まぜてー!」
「「はぁ…いつもあんな感じだとかっこいいのに」」
その夜、5人の食事はみんなとても美味しいと思える味だった。
最終回っぽいけどまだまだ続きます。前々回の投稿から少し遅れたため、一日に二話投稿させてもらいました。よろしければ、引き続きよろしくお願いいたします。