過去に刻まれた極光の一ページ
行く当てもなかった俺はただただ、彷徨っていた、何もかも失った、仲間も友人も家族も恩人も残ったのは空っぽの心に人間への憎しみだけが刻まれた。
それから、色んな所へ行っては人間を見たら、すぐに殺して腹の足しにしていた。
村から奪った食糧じゃ、足りなかったんだからな、早々に無くなったよ。
それで、彷徨っているうちに遂に餓死するんじゃないかと思った。
「…はら…減った…」
野原に倒れ込んだ僕に声が聞こえた気がしたが、それを気にする余裕はなかった。
声を出そうにも出せない、立ち上がろうにも力が出ない、口の中が乾いて唾液の一滴も出せない。
(あぁ、おれ…死ぬんだ…)
この時俺は喜びの涙を流したんだろうな。
(死んだら…また、みんなに…会えるかな…俺だけ生き残った事…許してくれるかな…本当は…死ときは…死ぬ、時、は……みんなと一緒がよかったなぁ…ごめんな…ごめん…おれは、みんなと一緒にい っしょ に…た のし く へい わに わらっ て ない て おこって なかな おり し て そん な い き か た を…)
(……………………しに……………たく………………………な…………………い……………………よ)
「………………………………………………………………………………………………………………」
それからどれほどの時間がだったんだろう目を覚ました時は身体中柔らかい物で包まれていた。
それは今まで生きてきた中で体験したこともない感触だった、地面の硬さもない空は見えない代わりにおかしな茶色い壁が掛かっている。
(ここは…あの世…?)
身体を確認しようとするが動かない、まだ空腹は収まってないし古傷も癒えてない。
現状を飲み込めないとき、食欲を刺激する香りとコトコトと聞いたことが無い音が聞こえる。
なんとか、首を回すと机の上に置かれた茶色と白の丸い物体その奥には人間が何かを見つめてる、音の発生源はそこからだ。
人間は悪だ、自分たちの事しか考えない、殺す、殺す、殺してやる、これは報いだ当然の報いだ。
無理矢理身体を動かそうとする、そこに知性などなく心に刻まれた憤怒だけで、無理矢理動かそうとしている。
弱った体に無理をさせて時間をかけてゆっくり起き上がろうとしたら、人間が振り向いた。
気づいてもどの道同じこと、このまま死ぬとしても刺し違えても少しでも人間を殺す…!!
振り返った人間はスタスタと向かってくる。
(来いよ、お前が俺の前に来た時、おれの爪がおまえの喉を貫く!!)
人間が目の前まで来た。
「アァッ!!」
爪を振りかぶろうとした時、心で無理矢理動かした身体が限界の叫びをミシリと上げた、一瞬だがそれは、自分の行動を無くすには十分な出来事だった。
(殺られる!!)
死の恐怖に取り込まれ、反射的に目をギュッと閉じる。
それと同時に手に柔らかいものが当たる。
「起きてよかった、食べて」
綺麗なそれでいて清らかな声が聞こえた。
手には机に置いてあった丸い物体、顔に近づけるといい香りと食欲が刺激され無意識にそれをかぶりついていた。
美味い。
今まで、人間を殺して食ってきた、復讐のために食ってきた、それだけ憎んでいた。
しかし、この物体は不思議と口に入れてしまう。
「んんっ」
「ああっ急いで食べるからはいっお水」
呼吸が急に苦しくなったら何かを口に当てられ何かを飲まされる、透明の何かだ、血のようなドロッとしたものではなく、空気を凝縮したようなものだ、それを飲んだあと呼吸は出来るようになっていた。
丸い物体を頬張り、《おみず》と呼んでいた液体を流し込む。
「はい、シチューも出来たよ」
目が覚めてからおかしなことばかりだ、おかしな物体を食ったら力が出る、透明の液体を飲んだら声が出る、白いトロッとしたものを啜ると唾液がでて飲み込める。
「おれは…天国にいるのか?」
「私が見つけた時は三途の川に片足浸かってたんじゃない?そこから、生者の国へ連れ戻した」
「…人間、なぜ、おれをたすけた」
「?」
「知らないわけないだろう、おれは人間を殺してきた、今まであってきた人間全てだ、力が戻ったらお前を殺す!」
「うぅん、助けるのに理由もないよ、ただ、そうしたい、それだけ、殺したいなら、それでいい」
「…なぜ、そんなに」
「うーん、なんでだろうね、人の生き方、というか、それぞれの生き物だろうと何だろうと生き方にケチ付けるのはよくないと思った」
そういうと丸い形をしたおかしな木に腰を落とす。
「聞かせて、何があったのか、どうして人を殺すようになったか、終わったら、殺していいよ」
おかしな人間だ、自分でもなんで、この人間に今まで起こった事を全て話せるのか分からない、目の前の人間は表情一つ変えずに相槌を打って、頷いて、不気味な程話しを聞いてくれた。
今まであってきた人間とは違う、今まであってきた人間が普通で、こいつがおかしいのか?
それとも、こういうやつが多くて、今まであってきた人間がおかしかったのか?
分からない、いまのおれにはそれを確かめる術はない。
「うん、分かった、そういうなら、止める理由も権利もないね、さあ、どうぞ」
そういうと人間は無防備な身体を見せつける。
おれは、人間を誤解していたのかもしれない、もし、人間に色々な種類がいるとしたら、おれは、それを…
「おい、お前、個体名はなんだ?」
「個体…?あっ名前?アリシア、アリシア・ローウェンだよ」
「アリシアか、アリシア、おれに名前を付けろ、そして…おれの妻になれ!!」
「…いいよ、でも、僕って言って?」
「は?」
「一人称、おれじゃなくって可愛く僕って言って」
「ぼ、僕の妻になってアリシア!!」
「うん…よろしく、アルト」
次回2月10日月曜日予定




