遅すぎた魔王としての第一歩
「…よし、これくらいかな」
将軍達の顔合わせが終わり、朝食の後に、魔王城の施設を回り、リネアが用意した資料も一通り読み終えた。
「意外と早く終わりましたね、さすが魔王様です」
「そうでもないよ。読めないところもあったからリネアが読んでくれて助かったよ」
そう、資料を見てすぐに気づいたのがこの世界の言語だ。
しかし、頭が理解しているのか部分的に理解できる言葉もいくつかあった。
それでも、自信がなかったり理解出来ない文字はリネアに読んでもらった。
「そうだ、文字の理解もしたいから、今日からでも教えてくれない?」
「お安い御用ですよ」
リネアが柔らかな笑顔を浮かべたのを見て一枚の紙をリネアに手渡した。
「これは?」
「魔王城の地図だよ。それぞれ、場所の名前を書いてほしいの、読み書きは勉強するとして、まだ慣れない内にはリネアに任せたいんだ」
城内を見て回ってる間に簡易ではあるが、ざっくりと地図を描いたのだ。
それもちゃんと一階から最上階まで、この魔王城は最上階が十階にあるしかし、十階は滅多に立ち寄らなく、部屋の数も一番少ない、魔王城周辺を見る展望台のような場所だ。
「分かりました、後で書いておきますね、あっ、そうだ、忘れるところでした」
リネアがハッとしたような顔をした後、何かを手渡してきた。
それは、板のような物だった。
「それは測定板と言って簡単に言えばその中央に四角い所がありますよね、そこに手をかざすと、自分の強さを表すステータスというものが表示されるんです。」
リネアが説明しながら試しにかざすとパソコンの画面が開かれたようなライトが測定板から伸びそこに文字が浮かび上がる。
名前 リネア・アン・ワロキア 1152歳 魔人族 1674Lv
攻撃力 563
防御力 482
敏捷 332
魔力量 657
所有魔法 全属性初級・中級・上級 火属性最上級 スピードアクセル ディフェンスアクセル等
画面にはそう書かれているみたいだ。
不思議とこの世界の文字も少しずつ読めるようになっていると思うと成長を実感できる。
しかし…このステータスでたらめじゃないか?
レベルにしてもそうだが、サラッと千越えしてるし、所有魔法に等ってついているってことは他にもあるって事だろう味方で、これは強すぎる。
ゲームでは、最初は味方だが途中で抜けて最終ステージの中ボスで戦う事になる強さだぞ?
「さあ、どうぞ、魔王様」
「は、はい!すぐに!」
「うふふ、緊張なさらずにどうぞ」
その緊張の原因があんたです。
同じように手をかざすと同じように文字が浮かび上がる。
名前 カイン・ノイシュヴァンルーデ・レン 302歳 魔人族 1Lv
攻撃力 4
防御力 3
敏捷 4
魔力量 ∞
所有魔法 魔法創造(固有魔法)
加護 魔神の加護
…ん?あれ、なんだろう、いつの間に目にゴミが付いたんだろうコシコシっと…まだ付いてるのかな…
「…魔王様目を擦っても変わりませんよ」
うん、正直、現実逃避したかったのかもしれない。
改めて見ても魔力量は∞の文字それにリネアが持っていない加護なんてものがある。
「リネア、これ、どういうものなの?」
聞いてみたが、リネアは少し考えるように腕を組みうーん、うーん?と唸っているそして、しばらく唸った後口を開いて俺が渡した地図を広げた。
「固有魔法は極稀にその人のみが使える魔法と聞いていますが、私も見るのは初めてで、加護は初めて見ますなので、ここ、先程行きましたが、図書室に行ってみましょう」
そういいながら、手を引いて図書室に向かう。
リネアが図書室の扉を開けるとそこはとても大きい部屋どちらかと言うと街の図書館と同じくらいの広さ、案内してもらった時にも思ったがとても大きい。
リネアがカウンターに座ってる少年に向かって話しかける。
「スーラ、ちょっといい?」
「ん、リネア団長探し物ですか?」
スーラと呼ばれた少年は柔らかい笑みを浮かべて小声で話す。
「そう、加護って言うものに関する本と魔法使用方法の本と後は、文字を覚えるための問題集とかあるならそれを持ってきて」
「…あぁ、レン様のためですか、少々お待ちください」
スーラはゆっくりと目を閉じて指を机の上に乗せる次の瞬間、指先から黒い液体のような物がシュルリと出てきて地面を這うように動く。
間もなく机に本が5冊置かれる。
「お疲れ、僕のかわいい蛇達」
そういうとスーラは黒い液体を撫でる。
「ありがとうスーラ、返却日には返すわ」
「あー、ドリルは返さなくていいですよ。余ってて困っていたので助かります」
軽くお辞儀をして、自分の寝室に戻る。
「えっと…加護についての本は…これね」
リネアがパラパラとめくっていく
「ありました、魔神の加護、読み上げますね。えっと…この加護を持つものは世界でも少なく加護の中では間違いなく最強クラスだ。この加護を持ったものは自身の魔力量を爆発的に上げてさらに、使った魔力は即回復する。今までにこの加護を持つものは二人確認されている」
おいおいおい、ぶっ飛びすぎだろその加護魔力量爆上げに自動魔力回復ってそれで、回復魔法何回も使う事も可能で強くてニューゲームどころかチートでニューゲームじゃねぇか
「すごい性能ですねその加護さらに、魔法創造もあるという事はどれだけ強い魔法を使っても使い果たすということがないという事でしょう?」
確かにすごいものだという事は分かる。
しかし、他にも気になることはある。
あの年齢はどういうことだろう?302歳?自我が生まれるのにはそれだけの年月がかかるのかそれどころか、この身体にいる俺は元々20代前半の成人男性だぞ、体に他の精神があるなら、二重人格的な感じになることが当たり前で…待てよ、じゃあ元々この身体に宿るはずの精神はどこに行った?まだ自我が出てないとなると
「リネア、魔族の自我って大体何年から何年までに芽生えるの?平均に比べると俺のは遅い方?早い方?」
「い、いきなりなんですか?」
「いいから」
リネアは少し思い出すように顎に手を当てて考える。
「そもそも、魔族は魔人になると同時に自我が芽生えるものです。魔族が魔人になる原理は分かりませんが、人間を多く喰い食った分人間の力や自我が集まりそして、魔人になるケースがほとんどです」
なるほど、では、俺はなんだ?転生のようなものなら記憶はどうなっている?
「しかし、魔王様は違います」
「ん?」
「魔王様は先代様を除き二代目のクソまお…いえ、三代目である魔王様のお父様は生まれた時から魔人として生まれました更に言うのなら、将軍格の皆さまは私含め、最初から魔人と魔人との子として生まれたので能力が親をも超える力を持って将軍格になれる素質がありました…その割には先代様には負けてしまいましたけど、自我などは最初から魔人の私たちはそれぞれ、千年超えて芽生えるか百年で芽生えるか、実際のところ曖昧なんです。」
「じゃあ、私は…」
「早い方だとは思います、その一人称がコロコロ変わるのも自我が芽生える前に軍のみんなが会話をしているところから覚えたと思いますね」
早い方…か、もし、本来の自我が消えてないとなると新たな自我が芽生える事は無いとも言えないけどあるとも言えないか。
本当に曖昧な答えしかでないな。
「あっ、忘れるところでした」
何かに思いついたように手をポンと叩いた
「何?リネア」
「魔王様のレベルアップです」
…それは、忘れる忘れない以前に初めにやる初歩、言わばチュートリアルでやる事でしょ?なんで最初にやらないで中二全開の演説しなきゃいけなかったんだろう。
もう、後の祭りだけど。
そのあとリネアが案内した場所に行く。
「暗いな…」
「魔王様、足元お気を付けくださいね、一応光魔法で明るくしてますが、所々ヒビが入っていますので」
何処までも続きそうな暗い階段、位置的には地下だろう。
今にでも幽霊が出てきそうなところでリネアの指先にある光だけが頼りだ。
後で松明を配備したり階段の修復を提案してみるかな。
「着きました、ここが、魔王城地下の牢屋です」
「ステイ、なんでレベルアップに牢屋?」
「ご安心ください、牢屋に魔王様を閉じ込めるなんてことはしませんよ。ここは、魔王城を落とそうとして失敗した者たちを捕らえる場所です。」
その時点で嫌な考えが頭に浮かぶ。
「魔王様にはその愚かな人間達を殺してレベルを上げるという事です」
「ええ…」
元人間が人間を殺すってすごい抵抗があるんだけど…
「ほ、他には?魔族を捕らえていたり…」
「いましたけど、全員ギリアの実験台に回してほぼ全滅してますよ」
こんな時に何してんだ、あいつ
「それに、生かしていても万が一釈放や脱獄してもろくな事しないでしょう。こいつら」
見る限り抵抗どころか虚空を見つめてるだけで一言どころかうめき声すら上げないんだが、生きてるのか怪しいくらいなんだが。
「あっ、殺すにはこの短剣をお使い下さい」
「うーん、手も鎖に繋がれているし大丈夫だとは思うけど」
そもそも、血なんて見る機会なんて無いし、見たくもない。虫が死んだりしてるのは慣れてるけど、なんでこんなことに、でも、仕方ないな。
みんなのためにもリネアや他の将軍格の人たちより強くなっていなきゃいけない。
その為に経験値を貯めるにはこれしかないんだから、覚悟を決めろ!!
「…えいっ!」
「あっ!…がっ…うっが…」
苦しみにもがく声が聞こえるが聞こえないふりをして何回も短剣を振り回す。
しばらくして声も聞こえなくなったところでリネアが声を上げる
「さすが魔王様!正に魔王の名にふさわしい殺り方でした!」
「えっ、でも、何回か刺さないといけなかったし」
「いえいえ、すぐに殺さず指先を切り落とし、膝を切り最後に脳天に突き刺すなんて、魔王様以外に残酷的な殺し方する人なんておりませんよ!」
そう改めて凄惨な光景を言わなくていいよ。すごい罪悪感が伸し掛かってくる。
「さあ、じゃんじゃんやりましょう!」
「お、おー」
それから、十数人だろうか、短剣を振り回して人間を殺したころには抵抗がなくなっていた。
「お疲れ様です」
「お疲れー」
こんなことに慣れていいのか疑問を持つ
「あー、リネアちょっといい?」
「はい」
「身体が返り血で汚れたから洗いたいんだけど」
「そうですね、そういうと思って先ほどお風呂の準備を手配しておいたので入りましょう」
やっぱり、用意がいいな。メイドの鑑みたいに思え…ん?
「え?お風呂?」
「はい、昨日は遅かったので暇がありませんでしたが今日からでも入りましょう」
「あっ、うん、一人でだよね。うん。」
「いえ?私も入りますよ。魔王様昨日着換えなどで転びそうだったでしょう。危ないので私だけでなくモニカにロザリーとナナリーも呼びましょう」
あー、これは嫌と言っても押し切られるな。
それに体のバランスが取れないのは自分じゃ対処の仕様がないし、でも、他のみんなの裸体を見て、冷静でいられる自信がほとんどないんだけど!?
そもそも、女性と関わりを持ったことって子供の頃近所に住んでた幼馴染しかないし、あーっどうすればいいのか頭のキャンバスが真っ白だよーー!!