魔神軍の柱
ん…あれ、ここはどこだ?
「っ痛ぅ!」
なんだ?腹が痛い。
あれは…俺の車だ。
そうだ、運転しててそれで家に帰ろうとしたら野良犬が飛び出して…
あぁ、そうか、この痛みは、この感覚は…
俺、死ぬんだ。
「んあ…」
柔らかいこの感覚は…?
「おや、魔王様おはようございます」
「リネ…ア?」
あぁ、そうだ昨日あの俺が魔王としての演説をした後、眠くなって、そのままぐっすり寝た感じかな。
「魔王様さっそく朝食としましょう食堂へご案内いたします」
「待って着替えを…あれ?」
「先程済ませておきました。」
リネアが言う通り服は昨日着た、あの服に着替えてる。
ほのかに香る洗剤の匂いあの後洗ったのか?パジャマを着たのはおぼろげに覚えているのだが…
「そうだ、今、食堂には、将軍格の方々がいます。お食事会のように今のうちに顔合わせをしておきましょう」
将軍格、か、昨日時間がなかったから今日に持ち越すとか言ってたっけ、まだ、半分寝ぼけてるけどシャキッとしないと俺は今みんなを束ねる魔王なんだから。
「ここが食堂です。もう皆さん揃ってるみたいですね」
リネアが扉を開ける
そこにはそれぞれ癖のある人、いや、魔人が複数人いた。
「お?リネアその子は…!ま、魔王様じゃねぇか…じゃないですか!!」
扉の正面で足を組んでいる気だるげな男性どこか若々しくもあり見た目では18歳くらいに見える。
「ホビル、言い直すのではなく最初から皆さんにはそのような敬語で話すのです。いつも言っているでしょう!すみません魔王様ホビルにはまた、後で言っておきますので」
「あっえっと…」
いきなりの事で理解するのに時間が掛かった。ホビルと呼ばれた男の対面に細身の男性こちらも若々しく思う。
「みんな、魔王様はあなたたちの事を知らないのよ。まずは席を用意してそこから自己紹介でもしたら?」
リネアが助け船を出してくれた。
「はいはーい♪まおーさまーこちらへどーぞー」
高い声がした所へ目を向けると今の俺とさほど変わらない年だろうか、同じ身長で違うところと言ったら、髪の色が緑でサイドテールなとこだろうか活発な娘だな。
「どうぞ、魔王様お座りください」
「あ、ありがとう」
おずおずと周りのみんなに注目されながらも席に着く。
机は入り口から見て横長の丸いテーブルだ座る位置は片側の中心だ。
悪の組織の会議かよ…って魔族なんだからあってるのか?
「えーっと、自己紹介だけど、改めて魔王である私から行くね」
「おっ、またあんたの言葉聞けんの?うわっラッキーじゃ ぶへぁ!!」
「敬語使えっつったろうがクソガキがあぁぁ!!」
ホビルの脳天に肘がクリーンヒット大丈夫かな血が出てるけど…あの肘についてる防具みたいなの尖っているよね。
「え、えっと続けていい?あと食事にゴミや埃が入るから机に乗っからないでね…」
「はっ!す、すみません魔王様、お話を遮るどころか、衛生上悪いことまで…」
ホビルの保護者みたいなこの人俺にとっては結構忠実だな、認めた人以外は毒舌なタイプかな。
「こほん、私の名前は、カイン・ノイシュヴァンルーデ・レン、三代目魔王にして皆をまとめ、皆を思いやり皆の理想を叶える事を約束しよう!!」
昨日のセリフを最大まで端折って言ったがみんな(ホビル以外)は拍手をしてくれる。
「では、次はわたくしが、わたくしの名はリネア・アン・ワロキアです。将軍格の総括兼まとめ役をしております」
初めて聞くリネアのフルネームだ。俺よりも結構わかりやすい、というか呼び方的に俺の名前の順番的に言いにくいだろ、「ルーデ」の後に「レン」ってつけるっておかしいだろう。
「じゃー、りねあちゃんが、いったからつぎはとなりのわたしから、はんとけいまわりにねー」
そう言ってリネアの隣に座っていた俺の席を作ってくれたあの娘が席を立つ。
「わたしは、まおーぐんしょーぐんがひとり、もにか・しんつぃあです!まおーぐんのなかでもさいこーのすばやさをもっててせんらいのふたつなをもっているよ」
モニカと名乗った娘は発言が幼く聞き取りが難しいが慣れなければいけないな。
「次は我の番か、我の名はルーツ・クロイド、魔王軍将軍が一人であり魔王軍最大の攻撃力、破壊力を持つ隊を任されている。我々将軍格は全員戦闘における特化した能力で構成されております」
クロイド将軍はこの中では一番年長らしく中年まではいかなくとも四十代辺りの年齢だろう。
そして、その筋骨隆々とした姿から魔王軍最大の攻撃力の持ち主というのは間違いないと分かる。
「分かったありがとうクロイド将軍」
「もったいなきお言葉」
次の奴だがそれはさっき一撃もらったホビルと言われた人だが…
「んが…」
あ、起きた
「ん?あれ?」
「起きましたか、ホビル、今、将軍格の自己紹介です。貴方の番ですよ」
「え?マジで?俺、新しい魔王様の自己紹介聞き逃したの!?」
「あなたが不正を働くからです。とにかく、名乗りなさい」
「おう!俺の名前はホビル・ルーデンベルクだ。魔王軍最大の再生能力を持ってるぜ。敵との前線には俺や部下たちを使ってくれ、即死級でもすぐに再生できっからよ」
ホビルは自慢そうに言ってるがさっきの攻撃は即死以上の威力だったのか、復活に少し時間がかかったらしいが。
「次は私たちね。お姉ちゃん!」
「ええ、ロザリーせっかくだから一緒に行きましょう」
そういいながら、立ち上がったのは姉妹だろうかよく似ている女性の二人だ違うところは髪の色以外には見られない髪型も全く同じに見える。
「私はナナリー、こっちは妹のロザリー、二人で一人の扱いで構わないわ」
「私たちは魔王軍最大の連携のスペシャリスト私たちにかかれば決して負ける事なんて絶対にないんだから!」
そう、豪語する二人でも妹のロザリーはナナリーにべったりくっついているけど、これ、戦闘の時本当に大丈夫なのかな?
「さて、ようやく私の番ですね。私はギリア・リンデルビと申します。魔王軍では主に武具の生成などを担当しております。先程お見せした武具、ホビルに使った物の事ですが、あれは再生能力を遅らせる効果があるんですよ。そのようにただ強い物を作るのではなく、付属効果を多くつけるのが、私の専売特許です」
少々長い紹介だったが、それぞれみんな個性的というべきだろう。
みんながみんな俺を慕ってくれているのはその目が語っている。
「みんな、ありがとう、これで将軍格のみんなは全員紹介し終わったかな?」
『あ…』
ん?何かおかしなことでも言ってしまったのか、場の空気が凍り付き、全員が少し俯いた。
「…いいですよ、私から言います。魔王様、実はもう一人だけ、います。この魔王軍で最大最強の猟犬であり、自称魔王軍最大のバランサータイプです」
「自称?」
それぞれが何かに特化しているとすれば、そのもう一人は自称ではなくて本当のバランサーなのではいのか?
「さらに、一番有名な実話では、先代魔王様が唯一、武力を使わずに戦闘を避け、スカウトに成功して今の魔王軍に属しています。今は、物資などを確保するために、数部隊率いて留守にしていますが…」
「…そう、そこまで言いたくなさそうなら無理には聞かないよ」
「恐れ入ります」
そう言いつつみんな、食事に再び手を付け始める。
「ごちそうさまでした」
「もう、いいのですか?」
「うん、ゆっくりしてるのも、あまり落ち着かないんだ。ワーカーホリックみたいなものだよ」
リネアの顔に疑問が浮かんでいるが恐らくこの世界にはワーカーホリックの単語が使われていないのだろう。
「と、とりあえず、何かスケジュール用意しているの?」
「あっ、はい、まずは城の内部把握のために重要施設の案内をして、後は現状の魔王軍把握の資料に目を通して貰い、その後しばらくの休憩時間と自由時間を設け、後は魔王様の強さの測定などを予定しております。」
「それって、今日で全部やらなきゃいけない?」
「いえ、まだ、人間界で勇者が誕生したという話しも聞かないので明日や明後日に持ち越しても構いませんよ」
…今、勇者と聞こえたがやっぱり、ここは王道の剣と魔法のファンタジーなのだろうか、いつか勇者と剣を交えると考えたら胃が痛くなってきた。
「…そう、でも、早めに終わらせた方がいいわよね。早速案内してくれる?リネア」
「はい、すぐに!」
ん、あれ?今、なんで「いいわよね」って女っぽい言い方をしたんだろう…今まではなかったのに。