第7話
今日はもう1話挙げられるように頑張ります。
「大丈夫?!」
「なん、で……どうして逃げてないんだ!」
「逃げられないよ!」
ここにいないはずの海歌がいることに驚き叫ぶと、ここ数日で聞いたことのない声で叫び返される。
ブルーの瞳に涙を浮かべながらも、真剣な表情の海歌。
心喰獣は突然飛び込んできた海歌を観察しているのか、少し離れた場所でこちらをうかがっている。
しかし、すぐにでも襲い掛かってくるだろう。
なにせ、やつらの目的は海歌なのだから。
「やっぱりこんなに傷だらけになって……ちゃんと傷も治っていないのに、私たちの為に……」
「でも……俺が戦わなくちゃ、静江さんも海歌も心喰獣に喰われる。だったら、俺がすこしでも奴らを殺して二人が逃げられるようにするしかないじゃないか!」
「私の!……私の気持ちはどうなるの?守られるだけ守られて、そのせいで忍くんが死んじゃうのは嫌だよ!」
「海歌……」
護る対象と思っていた。
そもそも、俺は誰かと肩を並べて心喰獣と戦ったことなんてない。
いつも独りで、いわれるがまま戦って、傷ついて、傷がある程度癒えるとまた戦って……
(護られる側の気持ちなんて、考えたこともなかった)
護ることが当たり前。
戦うことが当たり前。
戦えなくなれば━━━━“死ぬ”のが当たり前。
海歌の言葉は、そんな俺の当たり前を否定した。
心喰獣たちが再びこちらを襲おうとしていることが気配で分かる。
今から海歌を説得して逃がすことは不可能。
ならば……
「分かった」
「忍くん!」
「でも、絶対に前に出ないで僕の後ろに居て。絶対に護るから」
「分かった!」
身体に力が戻ってくる。
尽きていた心力がどこからか沸き上がり、身体を包んでいく。
(後ろに誰かが居るって……こんなに奮い立つものなんだ)
短く一息。
黒鐵を構え直し、心喰獣を睨みつける。
「さあ、最後まで付き合ってもらおうじゃないか!化け物どもおおッ!!」
駆け出し、動きが鈍い兵士級を斬る。
窮鼠猫を嚙む。
今の俺は、心喰獣たちにとって正にそんな状態だろう。
もう抵抗する力の無いただの餌が牙をむき、自分たちを害する。
一瞬の動揺。
━━━━今しかない!
「は……あああああ━━━━ッ!!!」
今日一番の咆哮を放ちながら、心喰獣へ吶喊する。
黒鐵に再び心力の光が集い、金属質な音が空気を震わせ、青白い光が心喰獣達の身体を走る。
「一刀流━━━━絶影ッッ!!」
青白い線が心喰獣達を繋ぎ、次の瞬間には彼らを両断する。
残っていた兵士級9体が黒いモヤへとなる。
3体の騎士級にも青白い光は走っているが……
「くそッ!浅かったか!」
3体の騎士級は、それぞれ腕や足を斬られているが致命傷には届かない。
さらに、心喰獣に変化が起きる。
傷ついた3体の中で、一番傷の少ない奴が他の2体を喰いはじめた。
「共食い……」
仲間を食べるごとに、そいつから放たれるプレッシャーが強くなる。
身体は大きくなり、破損していた部分が修復される。
そればかりか、甲冑姿がより重厚なものになり、剣は分厚く、盾はその姿を隠すほど大きくなる。
「将軍級…………」
心喰獣は、基本的に5種類に分類されているが、喰らった人の数が多いほどその力を増す。
そして、その力が一定以上になると進化をするのだ。
騎士級のスピードも、攻撃力も、防御力もその全てがが強化された姿。
騎士級を束ねるその姿から、将軍級と呼称されるそれは、小さな都市一つをただの1体で壊滅させるほどの力を持つ。
以前に観測されたのは、人々が心機を開発した直後。
人類が新たな力を獲得したのに対抗するように現れ、多くの人間を殺していった。
決めるつもりで放った一撃は、兵士級を刈り取ったものの、引き換えに最悪の化け物を生み出してしまった。
将軍級が一口、また一口と仲間を食べるごとにその力が増していくのが分かる。
もし、2体の騎士級を食べきってしまったら、今の俺では対処しきれない。
それだけじゃない。
近くにある都市にも被害が及んでしまう。
今ならまだ、奴は進化途中。
将軍級本来の力は出せないはず。
「動け…………動け、俺の身体ぁ!」
大技を放った身体はとうに限界を超えていて、黒鐵を杖にして立っているのがやっとの状態だ。
(早く……、早くやつを殺さないと…………本当に取り返しのつかないことになる!)
忍くんの身体から心力の光が放たれ、姿が見えなくなったと思った次の瞬間には青白い光の線が心喰獣たちを切り裂いていた。
「やった!」
黒いモヤになり姿を消す兵士級に、思わず歓声を上げる。
しかし、様子がおかしい。
騎士級が消えない。
それどころか、1体が残りの2体を食べ始めた。
「ヒッ……!」
おぞましい光景に悲鳴が漏れる。
強くなっていくプレッシャーに身体が震える。
胸の前で両手を握りこむが、震えが止まらない。
(怖い……怖い、怖い怖い!)
胸を埋め尽くす恐怖感。
呼び起される絶望感。
心喰獣と対峙するということはどういうことなのか、加減なく突き付けられる。
(忍くんも、こんな気持ちで戦ってたのかな……?)
心喰獣に立ち向かっていく彼の背中。
恐怖感や絶望感は感じられず、ただ心喰獣の存在を許さないという意思が滲み出ていた背中。
自然、視線は彼の姿を探していた。
(…………いた!)
彼は、共食いを続ける心喰獣の先で膝をついていた。
苦痛に歪んだ表情で、しかし視線はまだ戦えると訴え、心機を杖にしながら立ち上がるが限界を超えているのは明らかだ。
でも……
(護るって言ってくれたもんね)
立ち上がろうとする姿に勇気づけられる。
身体の震えがいつの間にか止まる。
(みんなを勇気づけるのは歌姫の役割なのにね)
恐怖感は消えていない。
絶望感は残っている。
状況は一つも好転していない。
「諦めたら、そこで終わりだもんね」
私はどうしたかったのか。
護られるだけが嫌で飛び出してきたのではなかったか?
今、私に出来る事……
「届いて、私の歌!」
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