第6話
本日2話目です。
「……くっ……は、ああああ━━━━ッ!!」
どれほど戦っていたのか、軋む身体を心力の補助を頼りに動かし、心喰獣を斬る。
塞がっていた傷口が開き、黒鐵を一閃する毎に血が飛び散る。
騎士級の剣を弾き、飛び掛かってくる兵士級を蹴り飛ばす。
息もつかせず、背後から振り下ろされた盾を前に飛び込むことで避ける。
すぐさま態勢を整え、牙をむく兵士級2体を横薙ぎに切り払う。
視線を巡らせると、兵士級が10体、騎士級が3体、遠くに術者級が3体残っている。
心力は心もとなくなく、身体はボロボロ。
加えて、遠く距離を保つ術者級の攻撃が嫌な所を突いてくる。
その邪魔がなければ、あともう何体かは倒せていたはずだ。
「ほんと……心喰獣の混成部隊って面倒だよな」
あの晩は、術者級が居なかった。
暗闇では、正確に仲間を認識出来ないのか、出現報告はない。
兵士級による数の暴力と騎士級による素早い攻撃で、あの晩はあそこまでやられた。
「遠近同時攻撃はきついな……」
気は張りっぱなし、底が見えてきた心力、思い通りにならない身体。
追加の心喰獣は来る気配はないが、このままでは倒しきれない。
そもそも、心喰獣と守護騎士だけで戦うことがこの世界の常識として有り合えないとされている。
「でもな……それでも、こいつらだけはなんとしてもここで━━━━ッ!」
崩れそうになる身体に活を入れ、戦意をさらに滾らせる。
僅かに身体を包む心力の輝きが強まり、心喰獣が気圧される。
心力の青白い光を纏った黒鐵を脇に構え、一瞬の脱力。
そこから一気に降りぬく!
「一刀流━━━━断空!」
黒鐵の軌跡に合わせて心力の塊が飛び出し、術者級を襲う。
自分は安全圏と思っていた奴を、避ける間もなく3体同時に切り裂く。
「ぐッ……」
強力な攻撃は、それだけ心力を消費する。
敵の遠距離攻撃を潰した引き換えに、こちらの心力は底を尽き、血を流し過ぎて意識が朦朧としてきた。
視界が白く霞み、黒鐵を持つ手から力が抜けかける。
獲物が弱っていることを見て取った心喰獣がこれ幸いと攻勢にでる。
「まだ……まだあああ━━━━ッ!!」
咆哮し、黒鐵を振るうが、先ほどよりも力が入らない一閃を心喰獣は躱し、俺に牙を突き立てようとしてくる。
「…………ッ!」
襲ってくるであろう痛みに身構えた時、
ドンッ!
思わぬ方向から衝撃を受け、飛ばされる。
腰を掴まれたまま、地面に押し倒される。
視界に広がるのは栗色の髪。
ここの居るはずのない人。
━━━━どうして?!
静江さんと逃げているはずの海歌が、そこにはいた。
忍くんに言われた私は、おばあちゃんの部屋に急いだ。
「おばあちゃん!」
襖を勢いよく開け、叫ぶ。
「おやおや、どうしたんだい?」
「あいつらが!心喰獣がこっちに来るみたいなの、早く逃げよう!」
「なんだって!……ついにこんな所にまで来るなんてね。分かった、こっちだよ」
悲しそうに顔を伏せたおばあちゃんは、すぐに顔を上げると私の手を掴んで家の奥へと向かう。
「ちょ、ちょっとおばあちゃん!早く外に逃げなきゃ!」
「近くに来ているなら今から逃げても遅いよ。大丈夫、備えはしているよ」
広い家の中をずんずん進んでいき、縁側と正反対に位置する台所へと入る。
床に敷かれていた敷物をどけると、床についていた取っ手を引っ張り上げた。
そこには、地下へと続く階段が顔をのぞかせていた。
「こんなところに……」
「都市外に住んでいるからねぇ。これぐらいの備えはしているよ。それより、忍くんはどうしたんだい?」
「忍くんは……戦うって。私たちは早く逃げろって」
「そうかい……彼は、やっぱり守護騎士だったんだねぇ」
「おばあちゃんは、知ってたの?」
「いんや、でも昔取った杵柄かね。分かるんだよ」
「それって……?」
その時、地面が大きく揺れる。
忍くんが戦っているのだ!
あの傷だらけの身体で、私たちを守るために……
「海歌はどうしたいんだい?」
「…………え?」
「行きたいって顔をしているよ」
確かに、自分だけ安全な場所へ逃げることに引け目は感じている。
でも、私が居ても足手まといになるだけだし、歌姫として支援できるわけでもない。
だったらおばあちゃんと一緒に逃げて、せめて忍くんが戦いやすくなるようにしないと……
「海歌は、良い子だねぇ」
「急にどうしたの、おばあちゃん」
「彼の事を思って、自分のしたい事を我慢している。彼の迷惑にならないように」
「だって……私は、あそこにいたって何もできないし……」
次第に下がる視線。
おばあちゃんの言いたいことも分かる。
自分のしたいことも分かっている。
だって!あんなに傷だらけなのに、少し前まで全身から血を流して倒れていたのに。
私たちの為に戦ってくれている。
そんな人を放っておくことなんて出来ない!
なにも出来ないけど、それでも!
「海歌……歌姫はね、歌に心力を籠めて人を勇気づけたり、守護騎士を支援したりする。だけど、ただ歌えばいいってもんじゃあないよ。何も考えるなとは言わないけど、自分の気持ちに正直になった方がいい時だってある。心力は、想いが強ければ強いほど強固なものになるからね」
「おばあちゃん……」
「海歌、あんたの良いところは優しくて真っすぐなところだ。考えるより先に身体が動く質だけど、それはいいことでもあるんだよ?」
気が付けば、下がっていた視線が上がり、おばあちゃんを正面から見ていた。
「海歌、あんたが今やりたいことはなんだい?」
「私は…………忍くんの傍に行きたい。例えなんの役に立たなくても、自分だけ安全な場所で籠っているなんて、嫌だ!」
「そうしたら、やることは決まったね」
「おばあちゃん、ありがとう!━━━━私、行ってくる!!」
それだけを伝えると振り返り、駆け出した。
「……全く、あんたの小さい頃にそっくりじゃないか。ねぇ、歌葉」
この世にはもういない人へ呼びかけ、階段を降りると扉を開け、中に入る。
部屋の中心には台座があり、1本の杖が立て掛けられていた。
「もしもの備えが無駄になったかねぇ。…………そっちに行くのはもう少し先になりそうだよ」
苦笑しながら、歌姫への階段を駆け出した孫の海歌へと思いを馳せる。
立て掛けられている杖、歌姫用の心機は静江の呼びかけに答えることもなく、ただ自身を振るう奏者を静かに待っていた。
感想、ご意見お待ちしています。
明日は、今までと同じく0時くらいの投稿になると思います。




