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Heart to Blade  作者: 朱夏人
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外伝 海歌の一歩

タイトル通り、海歌の深堀です

海歌(みか)、ちょっと来てくれないか」


忍くんが再び布団の住人になった日、私はおばあちゃんに呼ばれた。

おばあちゃんについていくと、台所まで来た。


「おばあちゃん、急にどうしたの?」

「いやなに、ちょっとね」


それだけ答えると、昨日と同じように床の敷物を退けて扉を開けると、下へ階段を降っていく。

不思議に思いながらも、おばあちゃんに着いていくと、また扉が見えてきた。


「海歌の母親、歌葉が歌姫だったって話はしてたね?」

「う、うん。私が歌姫を目指すきっかけの一つだったし……」


急な話に戸惑いながら返す。

扉が開かれると、部屋の中が見えてくる。


「……杖?」


部屋の中心には、杖が台座に立て掛けられていた。

青色の感応石が円環に囲まれ、稲の意匠がその周りに施されている。

先端にはマイクがついていて、マイクスタンドのようにも見える。


「そう。杖だよ。正しくは心機、だけどね」

「心機……?どうしてここに心機があるの?基本的に心機は奏者が管理するか、都市で管理されているはずでしょ」

「あれはね……歌葉の心機なんだよ」

「お母さんの……」


私のお母さんは、歌姫として、守護騎士であるお父さんのパートナーとして、有名だったらしい。

らしい、というのは私がまだ小さい時に二人とも心喰獣との戦闘で死んでしまったからだ。

当時の私は相当泣いたそうだが、それも今ではぼんやりとしか覚えていない。

それからというもの、おばあちゃんと二人で暮らしていた。

そんな話に聞くことしかなかったお母さんの心機。


「歌葉と智樹さんが死んじまった時にね、同じ部隊だったって人が形見だからって持ってきてくれたんだ。わしも歌姫だったから、心機を持っていても何も言われないだろうって」

「え!おばあちゃんも歌姫だったの?!」

「言ってなかったかい?まあ、これでも当時はそこそこ有名だったんだよ」

「そうだったんだ……」


思えば、昨日ここで発破をかけられた時の言葉はやけに実感が籠った言葉だった。

おばあちゃんも歌姫だったなら納得だ。


「でも、なんで急に今そんな話を……?」

「海歌、あんたに一つ聞きたいことがある」


おばあちゃんの雰囲気が変わったのが分かる。

何時もの優しい和やかな雰囲気じゃなくて、凛とした少し冷たい雰囲気。

自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。


「昨日、心喰獣と実際に対峙して色々と分かったこと、考えたことがあると思う。その上で聞くよ……歌姫になるって気持ちに変わりはないかい?」

「変わらないよ」


即答だった。

確かに、実際に心喰獣と出会って怖かった、震えた、声が出なくなりそうだった。

でも、それはどんな人でも同じだろうし、私だけじゃない。

そんな心喰獣に守護騎士の人たちは真正面から戦っているし、先輩歌姫達だってそれを懸命に支えている。

 話に聞くことしかなかったけど、お母さんの、それにおばあちゃんがやっていた歌姫に憧れもある。

それに……


「それは、歌姫に憧れてるからかい?それだったら、厳しいことを言うけど……」

「それだけじゃないよ。確かに、前まではテレビで見る歌姫やお母さんのお話をする時に出てくる歌姫の話に憧れを持ってた。今だって持ってるもん。切っ掛けはそれだったことに間違いないよ」


 脳裏に呼び覚まされるのは、傷だらけになりながらも心喰獣に立ち向かう忍くんの姿。


「昨日、忍くんのところに行って分かったの。私……心喰獣との戦いで傷つく人たちを癒したい。直接戦うことは出来ないけど、大丈夫だよって、怖くないよって励ませるような歌姫になりたい!」

「………………そうかい」


私の言葉を噛みしめるようにうなずくおばあちゃん。


「それだったら……」


立て掛けられていた心機を手に取り、差し出してくる。


「これを持っていきな」

「え、でも……」

「なに、ここに置いていても宝の持ち腐れだよ。それに、あんたに使われるんだったらこの心機()も喜ぶだろうよ」


差し出された心機。

お母さんが使っていたというが、傷一つない。

部屋の明かりを反射したのか、キラリと青い感応石が光る。


「分かった。よろしくね、ええと……」

櫛名田(くしなだ)。その心機の銘は櫛名田だよ。この国の古い神話に出てくる神様の名前さ」

「櫛名田……よろしくね、櫛名田!」


それに答えるようにもう一度、感応石がキラリと光った。






「さて、わしもそろそろ決めなきゃだね」

懐から一枚の封筒を取り出す。

 そこには、“対心喰獣部隊総隊長 勝間勲”と書かれていた。


「あの勲がねー。偉くなったもんだよ」


かつての戦友を懐かしみながら、一つの決断をして静江は部屋を後にした。


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