第0話
久しぶりの連載投稿です。
やりたい事が出来るよう、ゆっくり書いていこうと思います。
右手を振るう。
黒いモヤを上げてヤツが消える。
身体が重い。
左手を振るう。
もう一体、別のヤツが黒いモヤになる。
視界が霞む。
一対の赤い目が俺を睨む。
俺の心を侵食しようとするヤツを、身体から力をかき集めて拒絶する。
咆哮し、突進してくるヤツに向かって、文字通り最後の力を振り絞って右手を振るう。
黒いモヤが闇に消え、同時に手の中のモノも消えてなくなる。
ドサリ
「う……、あ……」
冷たい雨が、俺を強く打ち付けている。
俺の体からは血が流れ出し、雨と共に地面を濡らしていた。
もう身体には力が入らない。
「ここまでか…………でも、やってやったぞ」
誇らしげなその呟きは、打ち付ける雨の音に消え、俺の意識は途絶えた。
数刻前まで、彼を包む夜の闇を埋め尽くしていた赤い光は、1つも残されていなかった。
朝、私は雨上がりの山道を歩いていた。
雨に濡れた緑と土の匂いは心地よく、鼻歌を歌いながら歩いている。
昨日の夜は凄い雨だったけど、今朝は気持ちよく晴れている。
いつもより、ちょっと早く目が覚めた私は、お婆ちゃん家の裏にある山へ散歩に来ていた。普段は入る事のない山だけど、今日は何故だか気が向いたからだった。
少し肌寒いが、雨上がりの山の匂いを胸一杯に吸い込みながら歩くのは、とても気持ちがいい。
ふと、ある茂みが気になった。
何となく、視線が引き寄せられた。
ただの緑……いや、
「赤い葉?」
不思議に思い近付くと、彼を見つけた。
道から少し外れた茂みの中、地面にうつ伏せになった男の子がいた。
地面が赤黒く濡れていて、大量に血を流していたことが分かる。
「え、人?!大丈夫!?わ、冷たい!」
彼の身体は、昨晩の雨のせいか冷え切っていたが、胸は微かに動いている。
生きている!!
「すぐお婆ちゃん家に連れて行くからね!頑張って!!」
怪しい人かもだとか、怖い人かもだとかを考えるより先に、身体が動いていた。
意識が無く、濡れた彼の身体は重かったが、それよりも彼を助けなくちゃ!
そんな気持ちで一杯になりながら、私はお婆ちゃんの家を目指した。
目がさめると、見知らぬ場所で、見知らぬ布団に寝かされていた。
はっきりとしない意識の中、辺りを見回す。
古めかしい日本家屋で、障子から暖かな日差しが透けている。
身体中の痛みが生きている事を訴えてくる。
起き上がろうと、身体に力を入れるが、
「グッ……」
あまりの激痛に、布団から起き上がる事すら難しい。
あれからどれくらい経ったのか、ここは何処なのか、答えの出ない考えがぐるぐると渦巻いていると、襖が開き、少女が入ってきた。
「あ、目が覚めたんだね!お婆ちゃーん!あの子目が覚めたよー!大丈夫?痛いところはない?」
溌剌とした物言いに、嬉しそうな顔から心配そうな顔と、ころころ変わる表情。
栗色の髪にブルーの瞳をした少女が俺を見ている。
「あ、ああ。少し痛むけど、もう大丈夫だ。手当をしてくれてありがとう」
「よかったー!見つけた時は本当にびっくりして、口から心臓が飛び出しちゃうかと思ったよ」
にこにことそう告げる少女。
少女の呼びかけから、さほど時間を空けずに初老の女性が入ってきた。
綺麗な白髪に、少女と同じブルーの瞳が優しげに俺を見つめている。
「あら、本当だ。もういいのですか?」
「ええ。ほんとうにありがと……ッッ!」
「あー、無理をしなさんな。丸一日眠っていたとはいえ、身体中傷だらけなんだから」
「そうだよ、お婆ちゃんの言う通り!怪我人は無理しちゃダメだよ」
起き上がり、お礼を言おうとするが再びの激痛に身体の力が抜け、ベットへと逆戻りする。
なんとも情けない事だ。
「ちょっと!まだ無理しちゃだめだよ!あんなに傷だらけだったんだから」
「そうだよ。幸い、この家にはワシと孫しかおらんから、ゆっくり休んでいくといい」
心配そうな表情と共に強い口調で少女に言われ、女性からは穏やかな表情で諭される。
「すみません。この様な体勢で申し訳ないのですが、お礼を言わせて下さい。お二人がいなければ、俺は死んでいたでしょう。助けて頂き、ありがとうございます」
「よしとくれ、ワシらが好きにやって居る事だ。それよりもお腹は空いていないかい?」
意識すると同時に鳴る現金な腹に、女性は笑いながら、食事の用意をすると言うと、部屋を出た。
「一日何も食べてなかったら仕方ないよ。お婆ちゃんのお手伝いしてくるから、ちょっと待っててね!」
少女もそういうと女性のあとを追っていった。




