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彼と私の隠し事。

 

 真夏の太陽に照らされて、暑さで汗だくになった体を冷水が滴り落ちる。


 今日は気温35度越えの猛暑日。炎天下の日に浴びる冷えた水のシャワー程、気持ちいいものはこの世にありはしないだろう。


 ……私はあの後、彼の家に上げてもらい、浴槽を借りてシャワーを浴びさせてもらっている。


 とても有難い、感謝すべき事なのだが……


 私は聞いたことがある。男性が自分の家に女性を連れ込みシャワーを浴びさせる。……この行動が意味するのは同衾行為の下準備だと言うことを…。


「……何考えてるんだろう。私は」


 まあこれが私の取り越し苦労ならばそれに越したことは無いのだが…、彼は言っていた。


『…今日から、俺と一緒に暮らそう!』


 ……この言葉の真意については、彼自身が告白であることを否定していたが……、


 ……いや、これ告白でしょ?絶対に、どう考えても。


 今現在、私にシャワーを貸しているのがいい証拠だ。それに以前からも学校でしつこく声をかけてきた。明らかに私に好意を抱いている。……自分で言っていて恥ずかしくなってくるが…。


「……駄目だよ。……一応私達、まだ高校生なんだし…」


 一体どうすればいいんだろう。このままお風呂場から出たくない、だけど出なきゃいけない。


「……痛くないといいなぁ」


 そう言って、私は洗面所に出て濡れた体を丁寧に拭くのだった。



 ※



「…………」


「…………」


 私がお風呂から出て約二時間が経過した。


 今現在は彼がやっているゲームをお茶菓子を食べながら旗から見ているという、差し障り無い友人同士の休日のような時間を過ごしている。


 ……ただ今までの会話が皆無だと言うことを除けば…。


 いや、同衾の話はどうした!これじゃあまるでただの仲の良い友人同士じゃないか!


 ……うん。まあ、その通りなのだが…。何を熱くなっていたんだろう、私は。私が同衾をしたくてしたくてたまらない変態みたいになってしまったじゃないか。断じてそんな事は無いのに。


 まあ、彼がしたいと言うなら?私も“仕方なく”相手してあげますが?“仕方なく”ですよ、“仕方なく”。


 ですが彼が私に好意を抱いているのは恐らく事実でしょうし?時間の問題でしょう。少し待ちますか。




 ……それから一時間以上が経過した。


 彼から話し掛けられる事は一切無かった。……一体何が足りなかったんでしょうか?不思議ですねー。もしかしたら私に色気が足りないのかもしれない。……少しショックだ。


 まあ、そんなこんなで今現在は彼と二人で机を挟んで軽くお茶をしていた。


 ……それにしてもこの部屋は何故か昔を思い出させる。……私の記憶には殆ど残っていない、彼の事を。この曖昧な記憶では確かな事は言えやしないけど、何となくそんな感じがするのだ。


 ……この人となら、契約、約束を破って、……一緒になっても良いのかな?そんな事を思ってしまう。……この契約は絶対なのに…。


「な、なあ、アザミ。ちょっといいか?」


 と、その時不意に彼から声をかけられる。


「な、なな、な、何かしら?」


 いきなり彼から声をかけられ、私は驚き、慌てふためく。……遂に彼が動き出した。一体何を言われるのだろう?告白?まさかいきなり同衾しようだとか、襲われたりすることは無いだろう。


 私はお茶を啜り、彼の質問を待つ。


 ……そして彼が押し黙る事一分弱。彼は中々口を開かない。


 全く、焦れったい。告白だろうが何だろうが私は全然OKなのに、彼は言葉を選ぶかの様に押し黙っている。


「…どうしたの?要件があるなら言ってほしいのだけど…」


 私は彼が言いあぐねている質問を早く言うように促す。何をそんなに躊躇しているのだろう。迷わず言ってしまえば言いのに。


 そして彼は私の言葉を聞いて、決心したかのような表情を浮かべる。やれやれ、ようやく言うようだ。私がそう思ってお茶を啜ると、彼が口を開いた。


「……なあ、アザミ。ちょっと恋バナでもしないか?」


「ぶふっ!!」


 ……思いがけないその言葉に、私は口に含んでいたお茶を余すこと無く吹き出す。


「ど、どうした!いきなり!」


「それは、…ゴホッ、こっちの台詞よ。……ちょっと一旦落ち着くからシャラップしてて」


「何かルー大柴みたいになってるぞ」


「うるさいっ!ちょっと黙ってなさい!」


 彼の予想外の言葉に驚き、お茶が気道に入り噎せる。


 そしてそれが落ち着くまでに、暫く時間を要した。



「……ふぅ、ようやく落ち着いたわ」


「どうしたんだ?いきなり吹き出して」


 ……彼は無神経にもそんな事を聞いてくる。全く、自分で分からないものかと、私は彼に睨みを効かせる。


 恋バナ何て、そんなキャラじゃ無いだろうに。それとも何だ、告白のつもりか?だとしたら奥手が過ぎる。まあ、彼ならあり得なくも無い気がするが。


「恋バナしようって。そんなキャラじゃ無いでしょアンタ」


「まあ、確かにそうだが……」


「ところで何?なんで恋バナなんて話になったの?」


「……あー、いや、何て言えばいいんだろうな」


 そう言って、またも彼は口ごもる。もう、奥手なんてそんなものじゃない。何をそんなに悩む事があるのだろうか。…それとも私に失礼な事でも考えているのだろうか?


「別にそんな気を使って考えなくていいわよ。本当に失礼な事じゃなければ多分怒らないから」


「……うーん」


 そう言っても、彼は悩むばかりである。一体何を言おうとしているのだろう。またもや予想外の質問が飛んでくるかもしれない。私は身構えて彼の言葉を待つ。


「……君が度々口にする、……契約というのは一体何なんだ?」


「……」


 ……彼の口から出たのは、確かに予想外の言葉。今まで何回か、尋ねられてきた質問だ。その度に私は無視し、はぐらかしてきた質問だ。


 彼が何故、今この話をしてきたのかは分からない。軽い話題作りの為?それならあそこまで悩む必要も無いだろう。


 それなりの覚悟や理由があって、今この話を投げ掛けたのだろう。その真意は定かでは無いが、いつもなら私はこの答えを誤魔化し、はぐらかしたであろう。この契約は、あの人と私を繋ぐ大切な約束だから。


 ……だが、私がその事を話してしまおうと思ったのは、きっと昔を思い出させる、この空気感のせいだ。きっとそうだ。


 今、私が彼を、何故だかひどく愛おしく感じるのとは一切の関係が無いはずだ。



「……貴方になら、この位は話していいかもね…」



 そうして私は、静かにそう言ったのだった。






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