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俺と彼女の隠し事。

 

「…………」


「…………」


 ……彼女を家に招き入れてから、三時間程が経過した。


 まず、この三時間でしたことは、彼女に風呂を貸し、その後ゲームでもしようと俺が提案するが、彼女は全くもって興味を示さず、お茶菓子の乗った机を挟んで一服しながら、今現在までずっと座っていた。


 ……そして共に過ごしたこの間の会話の数は、なんと0回!


 ……気まずいっ!超絶気まずい!


 お互いに一言も発さず、時計の針の動く音のみが響く寂しい部屋の中、俺はそんな事を考えていた。


 どうしよう、何か話すことがあっただろうか?


 ……そういえば先程永易が興味深い事を言っていたな。永易の言っていた“それ”に関しては俺も何となく気付いてはいたが…。


 だがどうやって切りだそう。この沈黙の中でいきなり深刻な話をするのもいかがなものだろうか?


 ここは出来るだけ重苦しい雰囲気にならないように話しかけなければ…。


「な、なあ、アザミ。ちょっといいか?」


「な、なな、な、何かしら?」


 何の変哲もない、至ってシンプルな話の切り出しでさえ、緊張のせいで声が上ずってしまう。


 ただ対する彼女も急に話しかけられた動揺でか声が震えていた。


 彼女はそれを誤魔化すためにお茶を啜る。何となく、彼女も緊張しているんだなと思い安心する。


 自分と同じ仲間がいるというだけで、人は随分と気が楽になる生き物だ。……ただそれが互いに緊張しているだけという間柄でも。


「…どうしたの?要件があるなら言ってほしいのだけど…」


「あ、ああ、悪い」


 俺は緊張からは解放されたものの、この話について、どう話せばいいかはまだ良い答えが浮かんでいなかった。


 ただ彼女に突っ込まれた以上、だんまりを決め込む訳にもいかない。何かいい案は無いだろうか?考えろ、考えろ俺。直感的でいい、何となくいい感じの言葉があればそれでいけ!


「……なあ、アザミ。ちょっと恋バナでもしないか?」


「ぶふっ!!」


 ……その途端、アザミがお茶を思いっきり吹き出した。


「ど、どうした!いきなり!」


「それは、…ゴホッ、こっちの台詞よ。……ちょっと一旦落ち着くからシャラップしてて」


「何かルー大柴みたいになってるぞ」


「うるさいっ!ちょっと黙ってなさい!」




 ……それから暫くして。




「……ふぅ、ようやく落ち着いたわ」


「どうしたんだ?いきなり吹き出して」


 俺は彼女が急に取り乱した理由について尋ねる。


「だからそれはこっちの台詞よ!何よ、恋バナしようって。そんなキャラじゃ無いでしょアンタ!」


「まあ、確かにそうだが……」


 恋バナしようなんて、そんなキャラでは無いことは重々承知している。キャラ崩壊もいいところだ。


 そんな訳で、俺の直感に頼った話の切り出しは失敗に終わったようだ。


「……ときめく乙女みたいだと、友人によく言われるけどなあ」


 俺は自身の失敗を誤魔化すためにそんな軽口を吐く。


「……何か気持ち悪いわね。幻滅したわ、アンタと同じ空気を吸いたくない。不愉快、消えて」


「いや、辛辣過ぎない!?」


 ちょっとした軽口にここまで言われるとは予想外だった。マジヤバイ、病みそう。


「ところで何?なんで恋バナなんて話になったの?」


「……あー、いや、何て言えばいいんだろうな」


「別にそんな気を使って考えなくていいわよ。本当に失礼な事じゃなければ多分怒らないから」


「……うーん」


 怒ることは無いと、彼女はそう言うが、俺が今から尋ねるのは永易から聞いたアザミの過去、そして彼女が度々口にする契約についての詳細。


 怒る怒らないかについてはそれほど関係が無く、俺が戸惑うのはこの事に触れていいのか分からないからだ。


 誰にでも深掘りされたくない秘密や隠し事くらいあるだろう。特に彼女はこの契約というものについて散々濁してきた。恐らく触れてはいけないものなのだろう。


 だが勇気を出して聞くほか無いだろう。契約、そして彼女の過去については、彼女を救う為には必要不可欠な物だから。


 そう思い、俺は彼女に尋ねる。言葉を喉から絞り出す。


「君が度々口にする、……契約というのは一体何なんだ?」


「……」


 その瞬間、アザミの表情が一変し、明らかにこの場の空気が凍りついたのが分かった。……何となく分かってはいたが、俺は地雷を踏んでしまったのかもしれない。


 俺は後悔した。彼女が二の句を継ぐまでの間が何十分にも感じられた。……そして彼女が口を開く。


 ……しかし彼女の返答は全くもって予想外の物だった。


「……貴方になら、この位は話していいかもね…」


「え?」


 彼女は静かにそう言った。その落ち着いた口調で話を続ける。


「……今は遠くにいるけど、私には好きな人がいたの。貴方はその人に何となく似ている気がする。多分だけどね。…どう?貴方の求めてた恋バナ、してあげたわよ」


「あ、ああ」


 悪戯っぽく笑う彼女。俺は言葉が出ない。


「それで話の続きだけど、私が好きだったその人と私はある約束をしたの。それがいわゆる契約。…もう一度、彼と会った時にちゃんと顔向け出来るように」


「……」


「どう?面白かった」


「……面白かったって聞かれてもなあ…」


 この話については面白さで計れるものではない。ただ気にかかった所は一つあった。


「……君の過去の噂を少し小耳に挟んだんだが、それって本当の事なのか?」


「……」


 彼女の過去について、彼女は過去に交通事故にあい恋人と記憶を失った。そして自分一人だけが生き残った事に負い目を感じ生きている。


 先程の彼女の発言は、その事を示唆する物なのではないかと俺は感じている。


 彼女はその質問に対しても悪戯らしい笑顔を浮かべて、答える。


「……さーてね、どうでしょう。後はご想像にお任せします」


「……えー、教えてくれよ」


「ふふふ♪」


 俺の質問に彼女は笑顔を浮かべるのみで答えてくれない。


 だが彼女の笑顔をみて俺はふと気持ちが落ち着いたのを感じた。


 随分見慣れたように感じる彼女の笑顔だが、初めて彼女の笑顔を見たのは今日の事。チンピラ達から彼女を救ったのも、彼女に誤解され起訴されかけたことも、一緒にデートしたことも、彼女を家に招いたのも、気付けば全部今日の事だ。


 ……不思議な縁もあったものだなと、俺はため息を吐く。


 オカルトなんて端から信じていないが、永易の言っていた事も案外馬鹿に出来やしない。


 ……俺も、そろそろ前に進む時なのかもな…。


「……?、何処に行くの?」


「ああ、悪い。ちょっと用事を思い出してな。すぐ帰るから待っていてくれ」






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