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真夏の夜の…夢

 

「何でお前がここに居るんだ」


「……永易」


「ちょっとお前さんに用があってな。電話しても出やしないし、だからわざわざ赴いてやったんだ。感謝しろよ」


 何故か伝説のオカルト戦士、永易はふてぶてしくそう言う。


「お茶で良いぜ」


「いや、やらんよ」


 ……何故コイツ、永易がここにいるのか?


 俺の記憶が正しければ、いや、間違えなく俺は家を出る際玄関の鍵を閉めた、その筈だ。


 ならばどうやって永易はこの家に侵入したのだろう。…謎である。世にも奇妙な出来事、正にオカルトだ。


「…ちょっと聞いていいか?永易」


「おう、どうした」


「お前、どうやってこの部屋に入ってきた?俺は間違えなく部屋を閉めた。なのにどうしてお前はここに居るんだ」


「……もしかして気付いて無かったのか?」


「…?、どういう事だ?」


 永易は目を丸くしながらそんな事を言う。俺は意味が分からず首を傾げ問い返す。


「お前は鍵を何処に閉まったんだ?ちょっと探してみろ」


「あ、ああ」


 言われるがまま、俺は鍵を入れておいたズボンのポケットをまさぐる。


「あ、あれ?」


 ポケットの中には何も入っていなかった。何度も調べるが鍵は見つからない。


「ほれ」


 永易の手から小さな何かが投げられる。俺はそれをキャッチして、その投げられた物を見る。


「これは、…俺の家の鍵だ」


「おう!鍵を閉めたはいいが、玄関の前に落っこちてたらセキュリティもくそも無いぜ」


「…ああ、成る程。サンキューな」


 …どうやら俺の思い過ごしだったようだ。確かに永易が俺の家に入るメリットも無いし、盗まれて困るような物も無いしな。考えすぎたな、疲れているのだろうか?


「…所で親友。俺からも一つ聞きたいことがあるんだが」


「……どうした」


 永易は何時に無く真剣な表情でそう告げる。その雰囲気に飲まれ、息を飲んで俺は答える。


「お前の机の上に置いてあった日記、あれを読んだんだけどよぉ……」


「……ああ」


 俺は気の抜けた返答をする。


 ……見られて困る物、あったわ。


「ま、まあ別に面白い物でも無かっただろ?」


「ああ、そうだな。だけど興味深くはあった。…ちなみに聞くが、あそこに書いてあった事は全て真実何だよな?」


「…ああ、そうだ。間違いない、と思う」


 曖昧な返事を俺はする。


「まあ、そうだよな。ハッキリとは言えないわな。…だが便利だな、俺も備忘録として日記を書こうかな?」


「書かんでいい、今すぐ忘れろ」


「まあまあ、そう釣れない事言うなって。……所で、あの日記を見て俺が思った事があるんだが…、ここからは俺のお得意のオカルトの話だ」


 …最近知ったが、オカルト研究会って会員コイツだけらしいな。


「アドルフ・ヒトラーって知ってるよな。第二次世界大戦の戦犯といわれている」


「ああ、俺は例のMADのイメージが強いが」


「そうか。…まあ、その総統閣下だが、元々政治家になる前は只の売れない画家だったんだ」


「へー、そりゃあ凄いな」


 売れない画家から歴史に名を残す政治家に転身とは、希に見る大出世だ。確かに戦時中は英雄と称えられていたのも頷ける。…ただその権力の使い方を間違えなければ、今もなお英雄であっただろうに。


「……時に、パラレルワールドって信じるか?親友」


「パラレルワールド?」


 パラレルワールド、訳して平行世界。先程の話題からずいぶん飛躍したように感じるが。だがその存在は正直言って信じがたい。


「そう、パラレルワールドだ。この世とは違うもう一つの世界。一説によると、この世にある選択の数だけパラレルワールドがあると言うが、俺はそうは思わない。そんなあったら無量大数でも事足りねえし、不可説不可説転でようやく語れるかってレベルだ。だから俺の考える説っていうのが歴史主義説だ。」


 ずいぶん饒舌に永易は話す。たった一人のオカルト研究会、語り合える友もおらず、今日もぼっちでオカルト研究。そんな悲しき永易に、今日は存分に語らせてあげよう。普段の鬱憤を晴らさせてあげよう。


 ……ん?ブーメラン?…はて、何の事やら。俺にはアザミがいるし、恋は実らなかったが、友人といって差し支えない筈だ。


「……何だその目は。話を続けるが、歴史主義説ってのは多分俺のオリジナルで、確かに無数の選択、無数の未来がある。だが決して、歴史だけは変わらない。という説だ」


「……歴史?」


「そう!例えば先程のヒトラーの話がそうだ。世界に喧嘩を売った軍人が、元はしがない画家だった。そこに俺は違和感を覚えた!…元々ヒトラーの席に座ってたのは、別の優秀な軍師だったのかもな。だが、そいつは何処かで死に至り、歴史の修正力でヒトラーがその位置に立った。そう俺は考えている」


「…馬鹿げた話だな。ヒトラーの演説を見れば分かると思うが、普通の人間じゃ無いことは確かだと、俺は思うけどな」


 ……て言うか、何でこの話になったんだっけ?


「て言うか、何でこの話になったんだっけ?」


「ああ、そうだったな。ずいぶんと話が飛んだような気がするが、俺が言いたいのはただ一つだ」


 そう言って永易は、人差し指を立て、一呼吸置いて語りだす。


「お前のあの日記を読んで、俺は確信した。過去に話した俺のオカルト、それが真実だってことに。…お前も察しはついているだろ?」


「……ああ、何となくだが」


「まあ、お前なら大丈夫さ。それに俺は確信している。この結末は絶対ハッピーエンドだと、そういう歴史にさだめられているとな!」


「……大丈夫?随分遅いようだけど、何かあったの?」


「ア、アザミ!?」


 ここで会話に入ってきたのは、ずっと外で待機させていたアザミだ。俺が帰ってくるのがあまりに遅いため、心配してやって来てくれたのだろう。


「あれ、…貴方は?」


「おう、俺はコイツの友人Aだ。ちょっとコイツに用があってな、だがもう話すことは全部話した。俺はもう帰るぜ」


 そう言って永易はそそくさとこの場を去っていく。


 ……その後ろ姿を、アザミは懐疑的な視線で見つめていた。


「…………」


「どうした?」


 永易が去ってもなお、厳しい目を玄関に向けるアザミに俺は尋ねる。


「あの人、この部屋に勝手に入ってたのよね?」


「ああ、そうだが」


「……ホモなんじゃないの?」


「…………」


 あまりにも散々なアザミの永易評に、俺はため息を吐く。


「お前、それはあまりにも酷いぞ?永易を何だと思ってるんだ」


「そうかしら?…お前の事が好きだったんだよ、みたいな展開になってもおかしくないと思うけど」


「…………」


 ……もう永易が可哀想だ。止めてやってくれ。


 その後、アザミへの説得は小一時間かかった。






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